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ようやく、ここから (最終話)

 シーラさんとまた会うという明確な目標を持ち、俺は鍛え始めた。


 まずはとにかく身体強化を極めろと父に言われたので、全身に強化を施しながらひたすら森の中を駆け回る。


 森と言っても魔物があまり出ない手前の方だ。

 本当はシーラさんがいるであろう奥深くまで行きたいけど、それは許されていない。

 どちらにせよブラックグールベアーのような大型の魔獣には太刀打ちできないから行っても死ぬだけだ。

 今はとにかく強くなるしかない。


 父に聞いたところ、シーラさんの叔父であるエドワルド・ワイズナーという人物は特級冒険者の一人らしい。

 この国に三人しかいないという特別な存在だ。


 なるほど、とシーラさんの強さや思考に納得がいった。

 貴族のご令嬢が一人で森の中にいて、魔獣を仕留めて解体して肉を焼いて食べているとか普通じゃないから。


 あの強さまで追い付いて追い越せるようになるには、どれほどの月日が必要だろうか。

 気の遠くなるような思いを、ポケットに入れたチョコレートで紛らわせながら過ごす。


 あの日の甘い記憶だけが心の拠り所だ。


 実は、もしかしたらシーラさんは俺のことを誰かに尋ねて、辺境伯家の息子だと知って手紙をくれたりしないかな、などという淡い期待を抱いていた。

 俺の青い髪はすごく珍しいから、誰かに聞いたらすぐに分かるはずだから。


 だけどそんな日は訪れなかった。

 森で俺を監視していた男が、『坊っちゃんのことはご内密に。決して誰にも話さないでください』と彼女に口止めをしていたらしい。

 もちろん父の指示である。


 それはつまり、俺の気持ちがバレバレだったということだ。

 そしてその時からもう、シーラさんという餌をちらつかせて、俺にやる気を出させる気満々だったということ。酷すぎる。


 もうやるって決めたから良いけど。こうなったら父よりも強くなってやろうと思う。

 結果がどうあれ、森に置き去りにされたことはまだ恨んでいる。



 そんなこんなで三年が経過した。


 父の強さにはまだ追い付いていないけど、シーラさんの強さはとっくに追い越せたと思う。

 と言っても三年前の彼女の強さだけれど。

 今はもっと強くなっているに違いない。


 リュフト辺境伯領のギルドに立ち寄った時には、シーラさんの噂をたまに耳にする。

 相変わらずスパスパと魔獣の首をはねているみたいで、元気そうで何よりだ。


 俺は相変わらず甘いものが大好きだけど、魔力消費量と運動量が桁違いに増えたため、痩せて筋肉質になり、背もぐんと伸びた。

 そして、鮮やかだった青い髪は落ち着いた藍色になった。


 変わっていないのは瞳の色だけ。

 これはどこかでシーラさんに会ったとしても、絶対にテリーだと気づかれないだろう。


 だけどそれで良いかもしれない。

 森で出会った何もかもが格好悪かったテリーだとは名乗らず、リュフト辺境伯家の人間として一から出会い直せる。

 うん、絶対その方が良い。


 そうして俺は、シーラさんとの楽しい学園生活を夢見て高等学園に入学した。

 彼女は子爵家だからクラスは離れてしまうけど、休み時間や放課後に一緒に過ごせるような仲になるのが目標だ。


 いきなり馴れ馴れしくして嫌われたくないので、慎重にいかないと。

 共通の話題は黒霧の森のことやギルドのことしかないけど、彼女なら興味をもってくれるはず。


 父が定期的に仕入れていたフォンデル子爵からの情報によると、シーラさんは恋愛ごとに全く興味がないそうだ。

 恋人もいないようで安心した。

 だけどこの学園では、直接彼女に言い寄る男がいっぱい出てくるだろうから、頑張らないといけない。


 そうやって気合いを入れたにもかかわらず、新入生の中にプラチナブロンドの少女はどこにも見当たらない。


 おかしい。今日は休みなのだろうか。

 そう思っていたら、同じクラスのストラー侯爵令息が、プラチナブロンドの少女を知らないかといろんな人に聞きまくっていた。

 それ、絶対にシーラさんのことだ。

 他にも入学式で一瞬だけ彼女らしき人物を見かけたという情報が相次ぐ。


 幻の美少女として噂だけが広がっていき、肝心の本人がどこにもいない。


(どういうこと? わけ分かんないんだけど)


 謎だけが残り、何の情報もないまま何日も過ぎていった。


 しびれを切らした俺は、Bクラスに足を運び、『シーラ・フォンデル』という人間がいるかと尋ねた。

 すると、窓際の一番後ろの席で本を読んでいる人物がそうだと教えられた。


 そこに目をやると、座っていたのは焦げ茶色の長い髪の少女。

 眼鏡をかけたその少女は、どう見てもシーラさんではない。

 一体どういうことだ。謎ばかりが増えていく。


 他に手がかりもないので、その少女を観察してみることにした。そしてすぐに確信することとなる。


 軽やかに歩く姿、近くにいても感じられない気配。

 この子はシーラさんで間違いない。

 普通の令嬢は気配を消したりしないから。

 そうなると考えられることはひとつ。幻影魔法だ。


 三年前ですらシーラさんはいくつもの魔法を自由自在に操っていた。超高難度な幻影魔法を使えてもおかしくはない。


「……よし」


 入学して二ヶ月。シーラさんのいない学園生活にはもう耐えられそうにない俺は、話し掛ける覚悟を決めた。


 昼休みになると、いつものようにベルンハルト殿下とデルクと昼食を食べた後は中庭を歩いた。

 この二人といると目立つようで、女生徒からやたらと注目されるし話し掛けられる。デートに誘われたりもする。


 痩せたらモテると父が言っていたのは本当だった。

 嬉しくないと言ったら嘘になるけど、本当にモテたい相手に見向きもされていなかったら空しいだけ。

 ほら、前から歩いてきたシーラさんは俺に全く興味がなさそうだ。


 今日は彼女がチラリとこちらを見た時に、少しだけ目があったけど。


(よし、今から話し掛けよう!)


 意気込んだ俺は殿下たちと別れて、シーラさんの後を追った。


 シーラさんは校舎の裏へ歩いていく。

 俺が後をつけているのに気づいているはずだから、撒こうとしてある行動に出るはずだ。

 そんな俺の思惑通り、校舎の角を曲がったところでこつぜんと姿が消えた。


 さぁ、やっと今から二人きりで話ができる。俺は期待に胸を膨らませながら、足に強化魔法を施した。

 高く飛び上がって屋上の柵の上に降り立つ。


「こんにちは」


 柵の内側に座っている焦げ茶色の長い髪に茶色の瞳の少女に声をかけると、彼女はビクッと肩を跳ね上げた。

 少し間をおいてからゆっくり振り返り、『何で?』というような視線を俺に向ける。


「こんにちは。あの、何かご用でしょうか?」


 見知らぬ見た目をした少女の口から発せられたのは、俺がずっと聞きたかった声だった。 

 この声、やっぱりもう間違いない。


 嬉しすぎて、もうこのまま『俺テリーだよ』と明かしたくなったけど、ぐっと我慢する。


『その姿は本当の姿じゃないよね』と質問をすると、シーラさんは明らかに動揺した。そして一言何かを呟いたかと思えば姿が歪み、魔法が解けた。


 陽の光に輝く長いプラチナブロンドの髪が風に揺れる。

 三年振りに対面したシーラさんは、俺の想像を遥かに超える美しさに成長していた。


 そしてなぜか淡い緑色の瞳から涙が溢れ落ちる。


「え? ちょっと……」


 シーラさんは泣いてしまった。

 何で? 俺が泣かせた?


 どうしようかと慌てていたら、シーラさんは頭を地面にこすりつけて謝りだした。

 どうやら殿下を欺いていることを責められると思っているようだ。

 さっきまで殿下と一緒にいた俺がいきなり現れたからだろう。


 何というかその、ごめんなさい。

 泣かせてしまったショックと、泣き顔のあまりの可愛さにいっぱいいっぱいになりながら、どうにか誤解を解く。

 せっかくリュフト辺境伯家の息子としてお近づきになりに来たのに、第一印象が悪すぎて俺もちょっと泣きたくなってきた。


 そっとハンカチを差し出すと、シーラさんは甘い匂いに気づいたので、ポケットに入れていたチョコレートも差し出した。

 これで少しは元気になってくれたら良いけど。


 チョコレートを口に放り込んだシーラさんはとろけるように笑って、俺の方がとろけてしまいそうになったのは言うまでもない。


 彼女はストラー侯爵令息に見つかりたくなくて、入学式の日からずっと幻影魔法で姿を偽り続けてきたと言う。

 なるほど。あいつは自分が高位貴族なのを鼻にかけていて、いっつも偉そうで性格最悪だから、関わりたくない気持ちはすごく分かる。


 幻影魔法を使っている間は、魔法が解けてしまわないように集中し続けないといけないみたいだ。

 会話をすることもままならないから、友達も作れずに一人で過ごしてきたと言う。


 俺が屋上に現れて、久しぶりに人とまともに会話ができたのだと喜んでくれた。

 シーラさんの役に立てるなんて嬉しすぎるけど、彼女をこんなに苦労させているストラー侯爵令息に殺意を覚える。


 そして楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、予鈴が鳴ってしまった。

 もうすぐ昼休みが終わってしまう。


 シーラさんは俺にお礼を言った。

 話ができて楽しかった。それでは失礼します、と。

 この場限りの付き合いだと思っているようだ。

 どうしよう。これからもこうやって昼休みに屋上に会いに来ても良いのだろうか。


 ストラー侯爵令息のように迷惑な存在だと思われたくない。

 迷惑がられたくはないけど、シーラさんが一人で寂しい学園生活を送っていると知って放ってはおけない。

 俺にできることは何かないかと考える。

 一瞬、ストラー侯爵令息を消し去れば解決じゃんと考えたけれど、さすがにそれはダメだと考え直した。それは最終手段にしておこう。


 シーラさんを元気づけられることは何かないだろうか。

 迷惑にならない程度で俺にできること。

 ふと、さっきチョコレートを食べてとろける表情を浮かべていたシーラさんが顔が脳裏に浮かんだ。


 そうだ。大好きなものを沢山食べたら元気になるはず。

 友達がいなかったら、町に遊びに行く機会もないだろう。クラスの人たちが言っていた、人気のスイーツ店に連れていってあげたら喜ぶだろうか。


 そうして俺は、男一人では恥ずかしくて店に行けないから付き合って欲しいという名目で、シーラさんを町に連れ出すことにした。



 王立高等学園に入学して二ヶ月が経ち、シーラさんと一緒に過ごせる学園生活がようやく始まった。


 三年前からずっと変わらない、溢れるほどの想いと執着心は隠す。

 もし知られてしまったら、もう逃がしてあげられなくなるから。今はまだそっと胸の奥に隠すんだ。


 いつか俺のことを好きになってもらえる日が来たら、その時に伝えようと決めた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] シーラ視点ですと孤独から救ってくれた恩人であるテオドールですが、 テオドール視点だとシーラこそが命を助けてくれた恩人であるというのが 巡り合わせの妙を感じました。 シーラに相応しい男になる…
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