違和感あるけど王はいつも通り《オマスペルマス王side》
元聖女のアンジュが「魔物が侵入してくる」などとほざいてから、一日が経った。
だが魔物など攻めてこないじゃないか!
そうか、聖女という地位が好きで、嘘を吐いてでも聖女になりたかったのか。
極悪人中の極悪人だな。
よほど何もしたくないのか?
ただ膝をつくだけの仕事だからか。
くっそ、だいぶ国の予算を聖女に使ってしまった。
「国の予算を無駄遣いした」という罪で指名手配でもするか。
宰相にそう伝え……。
「陛下っ‼」
宰相に指名手配を頼もうと立とうとしたら、礼儀など気にしない様子で玉座の間の扉が開いた。
なんだ。騒々しい。
礼儀というものを知らないのか。
「貴様。礼儀を知らないのか」
「そうではございません! 緊急事態なのです‼」
「次は解任だからな」
「っ!」
騒々しい宰相はいらないからな。それによってイライラするのは嫌だ。
緊急事態などより、わしの機嫌が重要なのだ。
「緊急事態とはなんだ。言ってみろ」
「はっ! 100匹ほどの魔物の軍勢が城下町に攻め入ろうとしています!」
魔物……?
魔物とはなんだったかのう。
今まで攻めてこなかったから、忘れてしまったな。
「その程度なら、何もしなくていいだろう。騎士団を出すまでも無い。城下町の民の魔法で撃退できるであろう」
宰相の顔がみるみる青くなった。
「陛下! 忘れたのですか! 魔物に浄化魔法以外は効きません! 城下町の民で浄化魔法を使える人は限られています‼」
はて、そうだったか。
「それと魔物はこの国を乗っ取るために、王を喰うと喋っていました!」
そういえば、魔物は人を喰べるのだった。
だがわしを喰おうとするからなんだ。
そのときは逃げればいいだろう。
民が死んでも、民はそのうち集まるだろう。
「騎士団の出動命令を出した方が……」
宰相の一言に、わしは怒りで満ちた。
「貴様ぁっ! 宰相の分際で王に命令をするのかぁあぁぁぁ‼」
「い、いえ‼ 今のは陛下にアドバイスを……」
「もう、貴様の顔など見たくないわぁっ!!!! 貴様は宰相を解任の上、侯爵という爵位剥奪だ‼」
「……はい」
元宰相は、がっくりと項垂れてこの部屋を後にした。
魔物を倒すのは……そうだな……。
罪人どもにするか。剣でも持たせて。
それなら死者を気にしなくていい。
罪人など拷問で死ぬ以外の運命は無いから、国ために死ねるとなったら大喜びだろう。
あくまで強制だが。
魔物程度で気高き騎士団を出動させるわけにはいかない。
「おい、その辺にいるやつ! 指名手配の準備をしろ‼」
そう叫ぶと、扉の奥からバタバタと音が聞こえた。
すぐに準備にかかるとは、さっきの宰相より有能だな。
しかし、妙だな。
これまで魔物がいなかったというのに。
まあいい。
アンジュが捕まったら魔物の前に出して食い止めるか。
どんなに無残な姿になろうと。
きっと所詮聖女になったのは不正を働いたからであろう。
一人で倒せる実力は無い。
集中して喰っている間に攻撃すれば倒せるだろう。
アンジュがいないから、今回は死刑囚にその役を任せるか。
「おい、その辺の残りの奴! 死刑囚を城の門にくくり付けろ‼ それと罪人に剣を持たせて城の門の上に待機させろ‼ この作戦も伝えるのだ‼」