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第3話、聖女の下僕はブラックです⁉

「──おやおや、『かくれんぼ』はもう終わりですかな、聖女様?」




 深い森を抜けて、ようやく街中へと続く街道へと差しかかろうとしたところで、不意に突きつけられる、いかにも嫌みったらしい男性の声。




 振り向けば()()()()()、数十名もの厳つい兵士たちが、木々の暗がりから姿を現した。


「……王国軍、の皆さん」


「お久し振りですな、聖女様。──ああ、申し訳ない。我々はもはや、王国軍ではございませんので、悪しからず。もちろんこれも、()()()()()()()ですけどね」


 先頭に立ってそのように言ってくるのは、私自身も見覚えのある、かつての王国『最前線部隊』の隊長殿であった。


 ──しかし、


 往時は『救国の英雄』とも讃えられた面影は微塵も無く、痩せこけて垢や泥まみれの体躯に、すでにボロボロにすり切れた軍服をまとった姿は、浮浪者どころか野盗すらも彷彿とさせた。


「……皆さんてっきり、帝国反撃の立役者として、好待遇で召し抱えられているとばかり思っていたのですが、その有り様は、一体いかがなされたのでしょうか?」


「ふん、白々しい、我らのような者が、そもそも帝国に受け容れられるわけが無かろうが!」


「と、おっしゃいますと?」




「忘れたのか? 他でも無くおまえの『聖女の加護』を受けることによって、『不死の軍団』として再三帝国軍を苦しめたのだぞ? しかも何度傷つけようが、下手すれば致命傷を与えようが、すぐさま万全の状態に復活して襲いかかってくるなんて、『悪魔やゾンビの兵士』でも相手にしているようなもので、帝国軍に払拭しがたき『トラウマ』を植えつけておいて、『さあ皆さん、これからは仲間としてやっていきましょう♡』などと言ったところで、快く受け容れてもらえるわけが無いだろうが⁉ その上俺たちは自分の生まれ故郷の王国さえも裏切ってしまったので、帝国軍からも心から信用してもらえず、更には『祖国を滅亡に導いた大戦犯』として、もはや王国においてもどこにも居場所は無く、こうして『流浪の民』となる以外は無かったのだ!」




 そのように一気呵成にまくし立てて、さも憎々しげに私のほうを睨みつける隊長殿。


 それは彼の後ろの数十名の、元王国兵士たちも同様であった。


 ──しかし、




「……あの、今や『寄る辺の無い根無し草』という意味では、こちらも同様なのですが、こんな辺鄙な大森林まで追いかけてきて、今更私に何の御用でしょうか? 確かに私の治癒魔法は皆さんのことを苦しめたかも知れませんが、すべては王命に従い、王国のためにやったこと。私に責任を問われましても、お門違いというしか無いのですが?」




 あまりに情け無い恨み言に対して、少しも臆すること無く毅然と言い返せば、途端に気色張る、大勢の兵隊崩れたち。


「何だと!」


「すべては、貴様の治癒魔法のせいだろうが⁉」


「何も我らは、私怨のみで動いているわけでは無いのだ!」


「貴様のような『魔女』をこのまま野放しにしておけば、また多大なる被害が出るだけだしな!」


「もはやこれ以上禍根を残さないように、我らの手で葬ってやろうというわけだ!」


「──さあ、覚悟を決めて、『天罰』を受け容れるがいい!」




 言いたい放題言いながら、私()()の周囲を取り囲み、完全に退路を断つ、多数の男たち。




「……勝手にこんな狂った世界に召喚して、勝手に狂った殺し合いに巻き込んで、勝手に人のことを『聖女』とか言ってこき使った挙げ句、『魔女』として退治するだあ? いい加減にしろよ、誰がただでやられるものか! ──やれ、我がしもべシャオグイズ、『食餌の時間』だ!」




「──イエス、マム!」




「「「うぎゃあああああああああああああっ⁉」」」




 私の怒号とともに、その場に響き渡る、数名の男たちの絶叫。


 それも、そのはずであった。




 まるで私の影であるかのように寄り添っていた『彼』が、突然大振りのつるぎを振りかざして、こちらへと迫り来ていた最前列の兵士たちの『そっ首』を、見事一刀のもとに切り飛ばしたのだから。




 ──年の頃は、十三、四歳くらいであろうか。


 残念ながら、正確な年齢は、『飼い主』である私自身も知らなかった。


 元の飼い主から買い取った三年前に、およそ十歳ほどに見えたから、勝手にそう見当をつけているだけである。


 そもそも彼が何歳であるかなど、どうでもよかった。




 ただ私は彼の剣の腕と、その類い稀なる『素性』だけに、価値を見いだしていたのだから。




「く、クソ、ガキの癖に、何と言う剣の腕をしていやがる⁉」


「しかもいやに、戦い慣れているぞ?」


「そうか、『奴隷剣闘士』か⁉」


「身寄りの無い子供に、物心つく前から剣技を教え込み、客の前で殺し合いをさせるという、外道の見世物」


「聖女が奴隷剣闘士を買って、自らの護衛にするなんて、どこまで堕ちれば気が済むのだ⁉」




 またしても一方的に、罵詈雑言を浴びせかけてくる、元兵士たち。


 それに対して痛痒すらも感じず、むしろ失笑すら漏らしてしまう、他称『聖女』様であった。


「あらあら、地獄に堕ちるのは、あなたたちのほうでしょう? 幼いながらも凄腕の剣闘士として、『人殺し』に慣れている彼が、私の反則級の『治癒魔法』のバックアップを受けて戦えば、果たして数十名ほどの元兵士なぞ、数の内に入りますかねえ?」


「なっ⁉」


「き、貴様、こんな幼い少年に、我々と同じ目に遭わせるつもりか⁉」


「元剣闘士といえども、まだ子供ではないか⁉」


「身を守るためとはいえ、子供を金で買って、自分の護衛にするとは!」


「しかも邪悪な魔法で、どんなに傷つこうが立ち所に治して、無限に戦わせるなんて!」


「やはりおまえは、聖女なんかじゃ無い!」


「「「──鬼だ! 悪魔だ!」」」




「あら、これが『隠れ鬼』ごっこだとしたら、むしろ『鬼』はあなた方だったのでは? ──もっとも、『本物の鬼』は、意外なところに隠れているかも知れませんけどね」




「「「……何だと?」」」




 私の思わせぶりな言葉に、怪訝の表情となり、警戒心むき出しで押し黙る男たち。


 ──そこでようやく彼らは、気づくのだ。


 先程からずっと、何だか耳障りな音が、聞こえていたことに。


 そう、あたかも肉食獣が、獲物の屍肉を、貪り食らっているかのような……。


「うわっ⁉」


「ひいっ!」


「お、おまえ、何をしているんだ⁉」


 大の男が揃いも揃って、悲鳴のような大声を次々と上げていく。


 無理も無かった。




 彼らが心底心配し、私を糾弾してまでかばい立てしようとしていた当の少年が、自分の仲間たちの死体を、手づかみで引きちぎりながら喰らっていたのだから。




「おやおや、皆さんご存じなかったのですか? ──奴隷剣闘士になるのは、純粋なる人間の子供では無く、人間と『鬼』との合いの子ゆえに、基本的にこの世界に居場所が無く、奴隷剣闘士になるしか生きる道の無い、世に言う『隠れ鬼』であることを」




「……何、だと?」




「まさか、何のメリットも無いのに、この子が『万能治癒師』にして『お尋ね者』である私の護衛として、『永遠に死ぬことを許されず無限に戦わされる』運命を受け容れるはずが無いでしょう? ──あなたたちのような厄介な連中に狙われている私の側にいれば、いつでも『エサ』が手に入りますからね、彼からしてみても、『WINーWIN』の関係なんですよ☆」




「「「──‼」」」




「剣闘士時代においても、自分が倒した奴隷剣闘士の死体を食べることができたようですが、鬼の血筋同士で共食いをするよりも、純粋な人間のできたてほやほやの屍肉を食べるほうが、一億倍もお好みだそうですよ? ──おっと、そうこうするうちに、もう食べ終わりましたか? では、再開いたしましょう! 『闘争』の時間を…………否、『鬼の食餌』の時間を♡」




 ──そして元兵士たちにとって、真の『地獄』が、始まった。

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