第1話、聖女の魔力はブラックです⁉
──是非とも、『なろう系』の作家の皆様に、お伺いしたい。
あんたらは本当に、俺たちのような剣と魔法のファンタジー異世界における、うだつの上がらない一兵卒の気持ちが、わかっているのかと。
何かと言えば、『異世界転生』で、
何かと言えば、現代日本の最新の知識で、チート無双で、
何かと言えば、すぐに支配階級の連中に気に入ってもらって、イージーモードで、
そんな作品ばかり書いていて、俺たち末端の兵士が、リアルの戦場でどんなに無様に戦い続けて、何の意味も無く死んでいくのか、知りもしないんだろう?
特に、あんたたちには、到底理解できっこないのが、
『死ぬこと』こそ、俺たち末端の兵士にとっての、唯一の『救済』だということであろう。
両軍共に多くの兵士が討ち死にする戦が毎日のようにして続いている、地獄そのものの状況において、一つの戦闘の勝利に喜んでいるのは、全軍の指揮官や国家元首なんかの、支配階級のやつらくらいなものである。
長い戦いの連続で、自らも疲弊し傷つきながら、仲間たちが死んでいく姿を毎日のように見せつけられている、俺たち現場の兵士にとっては、もはや『勝ち負け』なんてどうでもよかった。
国家そのものの運命や支配者どもの思惑なんかがどうなろうと知ったこっちゃ無く、ただひたすら願っているのは、戦自体が完全に終わってしまうことであり、
それが今すぐ無理ならば、自分自身が死んでしまうことであった。
……もちろん、俺たち兵士にも、『生存本能』は有る。
むしろ戦争は、末端の兵士たちの『生存本能』によってこそ、成立できていると言っても、過言では無かった。
普通、人間は、人間を殺さない。
その唯一の例外が、自分が別の人間に殺されそうになっている時だ。
それは生物の『生存本能』として、非常に正しく、誰であろうが批判することは許されないであろう。
むしろそれが、国家レベルで許されているのが、戦場であり、
そんな個々人の『生存本能』を、狡猾かつ残虐なる支配者どもが利用して、人間同士の殺し合いを大規模に無理強いしているのが、戦争だと言えた。
だから俺たちは、必死に戦い続けた。
……しかしそれはあくまでも、最初の頃だけだ。
いつまで経っても、戦争がまったく終わる気配が無いとなると、『生存本能』もクソも無くなってしまったのだ。
支配者としては、戦争に勝てばすべてが手に入り、戦争に負ければすべてを失うどころか、命まで失ってしまいかねないので、最後の最後まで戦うことをやめないだろう。
──もはや完全に劣勢の状況となって、前線の兵士が犬死にし続けていたとしてもだ。
むしろ、戦い、くたびれ果て、傷つき、死ぬだけの、簡単なお仕事だ。
──そうだ、皮肉にも我々にとっての救済は、『死ぬこと』だけであった。
何せ最前線といえども、『上官』という支配者の走狗が監視しているから、露骨な手抜きをするわけにもいかない。
全力で戦いつつ、『運良く』死ぬことを夢見て、今日もまた戦い続けなければならないという、文字通りの『地獄』の繰り返しであった。
──それでもいつかは、『終わりの時』が来る。
もはや前線に送れる兵士の数も尽き、国内のほとんどが占領されて、敗戦間違い無しとなった状況下で行われた、起死回生の総力戦。
しかし、支配層や高級軍人の必死な叱咤も虚しく、もはや疲労の限界に達していた俺たち前線の兵士たちは、一人また一人と倒れていった。
……ああ、これで、すべてが終わる。やっと、楽になれる。
自軍がほとんど壊滅状態となり、俺自身も敵の雑兵に斬り伏せられながら、恍惚の表情でそうつぶやいた、
まさに、その刹那であった。
「──スーパー・グレーテスト・ヒール! 甦れ、我が軍のすべての兵士たちよ!」
唐突に、戦場中に響き渡る、年若き女性の声。
その途端、身体中を包み込む、温かく心地よい熱。
次の瞬間、死にかけていたはずの俺たち末端の兵士は、一人残らず、傷一つ無い身体で、その場に立ち上がったのであった。
そして今度こそ、『本物の地獄』が、始まったのである。
──そう、『けして死ぬことの許されない、永遠の戦いの日々』が。