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第四話【破天荒なアイツ】

今まで無言で運転を請け負っていた運転手が突然しゃべりだした。

こんなヤツ、私を探していたときはいなかった気がする。

声もずいぶんと若いみたい。


他の奴らもどうやら初めてみる男だったみたいで、訝しげにその運転手を見ていた。



「おい、黙って運転しろ」


「はあ、まあ僕はそれでもいいんですけど、でももうココ来ちゃったし。あ、歯、かみ締めてた方がいいですよ」


「は?」



男は前を向いたまま楽しげにのたまうと、あろうことかその瞬間に思いっきりブレーキを踏みしめた!!



「ふがああぁぁぁぁっ」



畜生!!猿轡なんてしてるから変な声出しちゃったじゃない!!


私の体はブレーキの反動で前のシートとシートの間に滑り込み、両脇で私を拘束していたやつらのように座席に激突するのを防ぐことができた。


でも顎打ち付けたっつーの!!

なんてことすんのコイツ!!



私は解けた拘束からすばやく抜け出し、口の布を乱暴に抜き取った。

ちょっとコイツに一言言ってやらないと胸のムカムカがおさまらんわっっ!!!


私はつい自分の今の状況も忘れて、運転手を気取っていた若い男の胸倉をつかもうとして身を乗り出したが、それがいけなかった。



「あんたっっ」


「ハイハイ、ストップ。さぁ逃げますよ」



男はムカつくことに私の右手をすり抜けて、逆に私の両腕を掴んだかと思うと思いっきり車の外へと引きずり出した。


効果音で表すなら『ひょいっ』だろうか。

それから私を軽々と肩に担いだのだ。


はぃ・・・?




「ちょっ、何すんの!?降ろして!!」


「文句は後で聞きますから今は我慢しててくださいねー」


「降・ろ・せ――――!!」



私は羞恥で顔を赤くしたが(だってこんな風に抱え上げられたことなんてないもん!!)、男は私の叫びに一切耳を傾けず、肩に担いだまま何事かと騒いでいる道路沿いの野次馬たちの間を縫って走っていった。


見た目そんな筋肉マンって感じじゃないのに、片手で人一人抱えられちゃうなんて・・・



「ちょっ、あんた!!」


「煩いなぁ〜。ちょっと黙っててくれませんか」



イライラしたように私を見たからちょっとだけ怯んだけど、そんなこと構ってられるかっての!



「黙ってられるか!!後ろからさっきの黒ずくめのやつらが物凄い形相で追ってきてる!!」



男とは反対向きに顔を向けていた私の視界に、何とか衝撃から立ち上がったのであろう軍隊がこちらに向かって来ている様子が入ってきた。


うわ、なんか顔が尋常じゃないくらいやばいって・・・殺気篭ってるもんよ。

何が何でも私を捕まえる気でいるらしい。

何もしてないのよ、ホント。



私はなんだか急に冷静になってきた。

今私が見知らぬ男に抱えられて走っているのも、そもそも何かの間違いで犯罪者になってしまっているのも、全部夢なんじゃないかと思えてきたのだ。

そうよね、そうよ。

あぁ、なんて馬鹿げた夢。

きっと疲れてるんだわ、早く起きなきゃ確か明日っていうか今日??1限からなんだしー。


夢だと思ってしまえば抱えられているためにお腹から伝わる振動も心地よいものに思えてきた。

例えばアレだ、疲れてるときの電車の。



だがしかし、私の儚くも切ない願いはあっけなく散った。


耳元を掠めていったひゅんっ、という音と左頬に伝った生ぬるい液体の感触のせいだ。

一緒に更にイラついた男の声がした。



「ちっ、あいつ等チャカも持ち出しやがったか。何が何でもってやつか?面倒だなぁもう」



チャカってナニ・・・

あれ、あれか?あの、よく刑事ドラマとかでドンパチやるときに使うヤツ・・・?

へー、何今ドラマの撮影でもしてんの?手に持ってるのがそうか。

本物なんて見たことないけど本物みたい〜ちゃんと弾も出るのね・・・って。



「んなわけあるか――――!!!!!嫌ああぁぁぁっっ!!」


「うわっ!だから黙っててくださいって」


「黙ってられる方がおかしいわ!!!何なのよ、何なのアレ!?街中でこんな銃とかぶっ放していいの!?」


「・・・『今回は』いいってお達しが陛下からでも下ったんじゃないですか?どうやらあなたは第一級犯罪者らしいですし」


「犯罪なんてしてない!!ていうか、あんた何でそんな冷静でいられるわけ!?」


「まあこんな状況は慣れてるっていうか、僕の相手じゃありませんし」


「じゃあ・・・なんとかして―――!!!」



信じられない!!

こんな状況に慣れてるって一体この男何者!?


と、とにかくこの非常に危ない状況から抜け出したら隙をみてこの男からも逃げないと。


・・・母さん、今頃どうしているんだろうか。

あいつ等母さんには知らせてないみたいだし、何も知らないで夕ご飯作ってるのかな。

これからどうしよう・・・私。



「このまま奴らを撒きます。揺れるんで舌噛まないように」



暗く落ちかけた私の思考は強引に中断された。

男は私を抱えなおすとちらりと後ろを振り返ってもうスピードで駆け出した。

街中は帰宅時なだけに人通りが多く何度もぶつかりそうになるが、ぶつかりそうになるだけで男はほんの少しの隙間もするりとすり抜けて一度もぶつからない。

反射神経が尋常ではないのだ。


私は男の言うとおりに黙って振動に耐えたが、さすがに彼がガードレールを越えて車の通っている道路に飛び出した時には叫ばずにはいられなかった。



「ぎゃあああああっっ!!!何やってんの―――!?」


「大丈夫、僕に任せてください。ていうか色気ないなぁ」



色気もクソもあるか!!


彼は走ってくる車も何のその、悠々と車の間を通り抜けて向いの通りに到達してしまった。

まるで車が彼を避けているみたいだ。

車に乗っていたおじさんたちはぽかんとしている。

そうですよね、おかしいよコイツ。


私たちの声に出ない驚きも丸無視で、男はそのまま狭い路地へと入っていった。


私はなんとか伏せていた顔を上げて通りの反対側を見たが、どうやら軍隊様たちもこの破天荒な男には追いつけなかったみたい。

こちらもぽかんとしたまま情けなく足は立ち止まっていた。



「なんだ、もう鬼ごっこは終わりか」



・・・私、捕まっていた方が良かったんじゃないだろうか。



進まない・・・進まないです;;

何でだろう、やっと登場できたのに。


ガードレールを飛び越えるのはやめましょう。

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