第九話【私だけ】
「ふざけんなぁーっ!!!!」
バシンッ!!と小気味よい音が、いましがた軽く男が吹っ飛ばした『元』住宅街に響いた。
呆れるなんてもんじゃないくらいに楽しそう、それはもうホント楽しそうに男が投げ付けた小型爆弾は、周囲の家まで巻き込んだのだ。
中の人は大丈夫なのか、確かめるのも怖い…。
私の家で今後のことを話し合った後、私達はすぐに家を出た。
メディアで放映されたからには今にも警察やら野次馬やら賞金稼ぎみたいな奴らが集まりかねないからだ。
こんなことを心配しなければならないなんて、日本も大分おかしい。
西部劇の舞台みたいじゃない。
私はたった6年しか住んでいなかった家にさよならを告げ、必要最低限の荷物だけを持って外に出た。
父さんと母さんと、短い間だけでも過ごしたたくさんの思い出が私の中に溢れてくる。
こんな状態で泣いている暇なんかないのはわかってる。
だけど、だけど。
家に向けていた視線をやっとのことで引き剥がして前を歩き始めた男の後を付いて行こうとしたとき、ほんの少しだけ、私の瞼が震えた。
―――――さよなら。
もう会えない、私の家族。
しばらくは誰かに会っても気付かれずにいたのだが(私は白いTシャツにジーンズ姿でキャップを被った)、ついに見つかったのだ。
…しかもヤーさん。
ここぞとばかりに銃をお見舞いしてくる。
普段はそれなりに警察などが市民の安全云々により規制しているため簡単には使えないせいか、ストレス発散のように弾丸が飛び掛かってくるのだ。
政府は私を抹殺するために銃刀法を捩曲げたらしい。
アメリカもビックリな独断さだ。
拳銃なんて見たのはこれが本日2度目。
しかも今は世間一般でいう夜という時間帯に差し掛かっているために辺りは薄暗く、どこから弾が飛んで来るかわかったもんじゃなかった。
―――が。
「打つなんて酷いじゃないですか!折角ピンチから助けたのに。はぁ、やっぱり一度に片付けるとつまんないな・・・気持ちいいけど」
私を暗殺者たちから護ってくれるというこの男、何の躊躇いも無く爆弾を投げ付けた『ファイ』の方が危ないという気がしないでもない。
この無邪気さは何…
私はこれから長くなるであろう旅路が心配で仕方がなかった。
「ねぇ、これからどうやって行くの?」
私がこれから行かなければならないのは、なんと『イタリア』だった。
なんでも、日本帝国政府に対抗する抵抗組織は日本人だけではないらしく、世界各国の要人たちが日本の政策に不満を持っているというのだ。
リーダーは日本人だが、帝国政府が発足してから密かに集まった各国代表たちはコツコツと今回の計画を練り、今までもアメリカなどの大国と戦争まで至らなかったのは偏に彼らの暗躍のおかげと言える。
しかも各国の要人たち経由で武器や燃料の入手は完璧であり、今の軍部機関ですら対応しきれないほどに組織は拡大の一途を辿っていた。
しかし、要はこれから戦争になるという運命は変わっていないということだ。
今までどれだけ戦争の危機を救ってきたのだと言われても、結局は自分たちで戦争を起こそうとしている。
正義だかなんだか知らないが、やってることは暴力だけ。
この世界には永遠に血が流れつづけるのだ。
コイツは自分が軍人であることをどう思っているんだろうか。
そもそも理由はまだ謎だが私に命を懸けている。
私が今回の戦争にどの程度関わっているのかだって皆目検討もつかないが、彼は組織のNo.2だ。
そんな人物がただの女子大生を何も知らされずに護衛するなど、はっきり言って彼にとっては不満だろう。
本当は軍人なんてただの言い訳で、やっぱり私をどこかで殺すんじゃないか。
「空港は既に封鎖されているので、こちらで手配してあった私設の空港で行きます。僕が飛んできたシャトルがありますから」
かといって今私にできることなど何もないんだ。
むざむざと母さんも助けられずに死ぬなんて。
いざとなったら、『アレ』を使えば。
私には誰にも言えない切り札があるのだ。
「…大丈夫ですか?ここから空港まで大分あります。残念ながら公的な乗り物は使えないので車で乗り継いで3日は頑張ってください」
「…うん」
「必ず、助けますから」
―――私は、何を信じればいいんだろう。