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第8話 オニタイジ・システム

 昼過ぎのこと。映画を観終えた哲範が、対策係のオフィスに駆けつける。


「上から話は聞いている。まさか小林が鬼だったとはな……」

「ですが、小林さんは、鬼の力で私を守ってくれました。小林さんは鬼の力を、悪いことには使わないはずです……」


 か弱い声で、真由はそう話した。対して、哲範は真由の言葉を否定する。


「いや、鬼の力は強大だ。人間がもってていいものじゃない。だから、鬼の力の所持は犯罪と決まっている」

「やっぱり、そうですよね……」

「小林は、非公開で指名手配することになった。小林はもう、犯罪者だ」


 朱莉は言う。


「たとえそうだとしても、私は小林さんを信じたいです!」

「気持ちは私も同じです。小林は悪い奴じゃない。しかし、例外は作れないんです」

「そんな……」

「よし、切り替えるぞ。逃亡中の鬼はもう一人いるからな」


 真由と朱莉は、「はい」と返事するが、真由は小林のことを一旦でも忘れ去ることは難しかった。きっと朱莉も同じだろう。


 哲範はホワイトボードに、二人――女性と男性の写真を張り付ける。


「彼女は村田(むらた)陽輝(ひかり)さん二十歳。今朝の鬼が現れたマンションで、遺体で発見された。状況から見て、犯人は今朝の鬼で間違いないだろう。これから被害者の交際相手――初瀬(はつせ)依月(いつき)さんに話を訊きに行く。桐谷は俺と同行してくれ」

「わかりました」


 その時、オフィスに警報音が鳴る。そしてすぐに、男性の声がスピーカーから流れた。


「警視庁から管内。花蘇芳市市民会館前にて、鬼事件発生との入電中。鬼は二人居るもよう。対策係は、ただちに現場(げんじょう)へ急行してください。繰り返します――」

「まさか、小林さん……!?」

「予定変更だ。桐谷、出撃してくれ」

「了解」



    ◇



 バイクを走らせ、A-300を着た真由は現場に到着。現場には、今朝の触手を操った鬼と、もう一人――ハナズオウが居る。二人は市民会館前で交戦していた。ハナズオウは、先端に刃の巻かれた長い杖を華麗に振り回して、相手の鬼を翻弄する。


――小林さんじゃない……けど、ハナズオウが鬼と戦ってる。もしかして、彼女は……。


 ハナズオウは、杖で鬼に斬撃を加えながら言う。


「真由、そこに立ってないで、一緒に鬼と戦いなさい」

「あなたは味方ってことでいいの?」


 真由は鬼に視線を固定しながら、彼らのほうへ早足で歩く。


「そうね、じゃあ、あとで私の素性を明かすわ。あの鬼を気絶させて、花蘇芳市の外に連れ出してくれたらね」

「大丈夫? そんなことして。ネメシスに消されない?」

「大丈夫よ。前のディーラーのアサガオも、別にネメシスに消されたわけじゃないもの」

「わかった。あなたを信じてみる」


 右大腿部から、真由はサブマシンガンを取り出す。


「武器のセーフティを解除します」


 A-300の声を聞き、真由は鬼に向けたサブマシンガンの引き金を引いた。連射された銃弾たちは、鬼の胸部に命中する。鬼の胸部は、ハナズオウの攻撃を受けて脆くなっていたようで、真由の攻撃をきっかけに断裂して血肉を垂らした。傷口から白い蒸気が上がる。


 真由とハナズオウは、互いに目配せしてうなずく。それを合図に、ハナズオウが杖を横に持って鬼に突進。鬼に向かって杖を振り下ろした。

 しかし寸前で鬼はその攻撃をかわし、間髪入れずに彼女の杖を蹴り上げる。


「そんな――!」


 杖を失ったハナズオウに、再び鬼の蹴りが入る。狙われたのは腹部だ。

 彼女は右の拳を鬼に向かわせるが、間に合わず、鬼の裏拳を顎に食らってしまう。よろけた彼女は、そのままそばの噴水に転がり落ちた。


 中空でホバリングしていた真由はすかさず、鬼の肩を銃弾で吹き飛ばす。彼女は鬼と目が合った。

 膝をつく鬼。真由を見つめたまま息を荒くする。


 真由は地面に降りながら、裂傷のある鬼の胸部目がけて銃弾を連射。

 彼女の足が地面に到着するとともに、鬼は横向きに倒れ、気絶した。鬼は人の姿に戻る。


「この人って、被害者の交際相手の……」


 そこで真由は、忘れているものかと振り返って、噴水の中のハナズオウへ足を向けた。しかし、そこに彼女の姿はない。彼女が居るはずの場所に立っていたのは、嘲笑う単眼の仮面を着けたネメシス。そして――。


「ちーちゃん……!?」


 ネメシスは、水を被った千里を抱きかかえていた。彼女は気を失っている。


「そのスーツを脱いでから来るんだ。いいかい?」

「来るって、えっ……?」

「私たちの隠れ家さ。特定されるわけにはいかない。ほかにも場所を特定されるようなものは持ち込まないでくれ。人の家に上がるときのマナーだよ?」


 哲範はオフィスから、その状況をA-300のカメラ越しに見ていた。


「桐谷、ここは奴に従ってくれ」


 半ば涙声で、真由はネメシスに言う。


「わかった。言うとおりにする。だから、その子を傷つけないで」


 真由は迷わなかった。彼女はその場にA-300を脱ぎ捨て、ネメシスについていく。

 ネメシスは赤く発光。真っ赤な光は、さらに眩しく輝き、広がった。



    ◇



 気がつくと、真由は千里を抱きかかえたネメシスと共に、彼らの隠れ家の中に居た。そこは妙に暖かい生活感があり、一見しても、ネメシスたちが隠れているなんて想像もつかない。


「ここは土足でも大丈夫なんだ。さあ、遠慮しないで」


 真由はネメシスの背中を見ながら、短い廊下を通って、リビングへと進む。

 ネメシスが千里を、そっとベッドに寝かせる。それを見届けた真由は少しだけ安堵し、ソファに腰をかけた。


「お茶でも飲むかい?」

「じゃあ、いただく。ちょうど喉が渇いてたし」


 ネメシスは真由の後方――台所に足を運びながら言う。


「毒とか入ってるかもしれないのに、よく飲む気になれるねえ」

「逆らうほうが怖いもの」

「はははっ。それもそうだね」


 すべての元凶たるネメシスが、急須で湯呑みにお茶を注いでいる。真由を土足で上げたにしては、やけに日本人らしい。一種の和洋折衷だろうか。

 ネメシスは、「毒なんて入れてないから、安心して飲んでくれたまえ。君は大事なお客様だ」と、真由に湯気の立つお茶を出した。


 真由はお茶を一口飲むと、「ちーちゃん――橘千里は、ハナズオウなの?」と、単刀直入に訊く。


「ハナズオウくんは、千里くんの別人格なんだ。だから、君の親友の千里くんと、細胞ディーラーで鬼のハナズオウくんは別人だよ。肉体を共有しているだけだ」

「そうだったんだ。全然気づけなかった……」

「気に病むことはない。千里くんはずっと君の親友だ」

「わかったような口を利かないで」


 真由は冷ややかな態度をとる。


「鬼は私にとって、子どもみたいなものなんだ。少しくらいはわかるよ」

「あなた、いったい何様のつもり? あなたが元凶以外の何だっていうの?」


 ネメシスは木製の机を挟んで、テレビの前――真由が座るソファの正面に、丸椅子を持ってきて座る。


「私がいつどこにいても、すべての鬼がもつ鬼の力は、私に管理されている。彼らが私の細胞を宿しているのが、その理由だ。私は、鬼の力を封じたり、元に戻したりすることができる」

「それってまさか、花蘇芳市の結界……?」

「そのとおりだ! 一ヶ所にまとめるほうが都合がいいからね。すべては私に与えられた使命のためだ。鬼を作り、大量の超ヒト体細胞を集めて、竜に献上する――。私はこれを、オニタイジ・システムと呼んでいる」

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