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第7話 その力の使い道

 対策係のオフィスで皆を待つ真由。彼女は昨晩のハナズオウとの出来事を思い返す。気になるのは、神の使い。そして、味方するハナズオウ。

 ハナズオウはネメシスの正体を、神の使いと言い表した。それが真に意味するところはわからない。ともすれば、ネメシスは人間を超越した何者か――。その可能性は決して低くない。鬼の力などというものが蔓延しているのだから、そんな存在がいても不思議ではないだろう。

 そのほかハナズオウは、ネメシスとは別の神の使いについても言及していた。彼女はその神の使いを、キアラと称した。少なくとも二人存在する神の使い。しかし、これについては未だ情報が少なく、不明であるとしかいいようがない。ただハナズオウは、キアラの名前を出した際、耳を疑うようなことを言った。ネメシスを止めるときは、きっとその子が助けてくれる、と。ハナズオウはネメシスを止めようとしているのだろうか。それが本当なら、真由たちとハナズオウの利害は一致しているはずだ。だが、それが本当である保証はない。ハナズオウが真由を騙している可能性も、全く否めない話ではないのだ。


 結論がつかずにいると、真由はオフィスに来る朱莉に気づく。ちょうどよいと思った真由は、昨晩の出来事を彼女に相談しようと考えた。しかし、真由は朱莉のポニーテールに気を取られてしまう。そのポニーテールが七色に点滅しているのだ。


「えっ、宇佐見さん何で、ポニーテール光ってるんですか?」

「そうそうこれ作ったの~! 気づいてくれてありがとう~!」

「ほかに誰も気づかなかったんですか……?」

「まあ、さっきまでスイッチオフにしてたのでな。ピカピカしながら出勤するなんて恥ずかしいよ~」


 朱莉の髪を束ねるヘアクリップにはスイッチがあるようで、彼女がそれを指で操作し、カチッと音を鳴らすと、ポニーテールの点滅状態は解除された。


「おはようございます」

「おはようございます、小林さん」

「おはようございます~」


 オフィスに顔を出した深尋に、真由はふと、まだ不在の人物について尋ねる。


「あれ、いつもは係長、この時間にはいらっしゃってますよね? 小林さん何か聞いてますか?」

「係長なら、今日は休暇だよ。娘さんとの時間がほとんどなかったから、二人で映画を観に行ったりするらしい」



    ◇



 哲範と彼の娘は、映画館の館内に居た。親子隣同士で長椅子に座っている。細い眼鏡をかけた哲範の娘は、パーマのかかった前髪をしており、それはかき上げられたうえで彼女の右頬を軽く隠していた。


「ところで、執筆は楽しめてますか? (こん)鳴夢(めいむ)先生」


 哲範は娘をそう呼んだ。


「私は常に、人生の最高点を更新し続けてますから」

「かっこいいこと言うじゃないか」


 笑い返す彼女。


「この前、『十四柱の星雲たち』読んだよ。面白かった」


「ちょっと恥ずかしい」と、彼女は目を伏せた。


「なあ、小説に出てきたエミリーって名前の女の子、なんか(すみれ)に似てないか?」


 今鳴夢先生改め、菫と呼ばれた彼女――野中(のなか)(すみれ)は、頬を赤らめたまま哲範に視線を戻す。


「似てるも何も、エミリーは私がモデルだからね。似て見えるのは当然だよ」

「やっぱりそうか。……ってことは菫、エミリーみたいに好きな人でもいるのか!?」


 ふふ、と何かを隠すように笑う菫。


「さあ、そろそろ開場時間だよ。行こ、お父さん」



    ◇



 同時刻、映画館から離れた花蘇芳市内のマンションから、血まみれの鬼が現れた。鬼は人間の姿には戻らず、濡烏色のままで街を闊歩する。


 イージスを着た真由と深尋が出撃。それぞれのバイクに乗った二人は、花蘇芳警察署からサイレンを鳴らして走っていく。


「桐谷、今回は俺が係長の代わりを務める。よろしく」

「はい! よろしくお願いします!」


 二分後、真由たちは鬼のもとへ辿り着いた。鬼はただただ歩き続けただけで、その返り血の持ち主以外に被害は出ていない。真由と深尋はバイクから降りる。


「超能力をもってるかもしれない。慎重にいくぞ」

「了解」


 二人は右大腿部からサブマシンガンを引き抜いた。「武器のセーフティを解除します」と、イージスは伝える。


 銃声が街道に鳴り響く。しかし、真由と深尋によって連射されたその銃弾は、濡烏色の鞭のようなもので防がれた。


「触手!?」と、面食らう深尋。


 触手は鬼の背中から、全部で六本生えているようだ。鬼は自身の目の前で触手の盾を作っていたが、それをほどくと、威嚇するように触手を広げてみせた。


「まずい、避けろ!」


 深尋が叫んだその刹那、鬼の触手は真由と深尋へ、矢のような速さで素早く迫る。幸い、真由に触手は当たらなかった――のではなく、鬼が当てなかった。鬼は、深尋一人に狙いを絞っていたのだ。


「胸部ユニット、腹部ユニット、損傷レベル『甚大』」

「小林さん!!」


 触手が突き刺さり、深尋のA-200は激しく損壊。深尋は仰向けで地面に押し付けられ、身動きがとれない。それは戦闘不能を意味していた。そして、次は真由の番。触手がA-200から抜ける。


「桐谷……!!」


 その時、A-200から赤い人型の発光体が、幽体離脱をするように出現した。それは真由の目の前に飛び込み、彼女を貫かんとする鬼の六本の触手を束ねるように抱える。そして光は、日の光を照り返す濡烏色に変身した。


「桐谷! 逃げろ!!」

「えっ……?」


 そこにあったのは、氷柱のような二本角をもつ鬼の姿。その鬼が発した声は、紛れもなく深尋のものだった。深尋が鬼だったのだ。


 すると触手は、深尋が触れている箇所から凍りつく。慄く鬼が、深尋から触手を引き抜こうとして暴れると、すべての触手が千切れ落ちることとなった。鬼は激痛を感じたようで、腕と同じくらいに短くなった触手を振り回し、悶え苦しむ。


 鬼はそばのガードレールをもぎ取り、ハンマー投げの要領で真由たちへ投げる。

 それに対し、深尋は氷の飛礫を複数生成し、それらをぶつけてガードレールを破壊した。しかしその隙に、鬼には逃げられてしまう。


 赤く光って人の姿に戻る深尋。彼は振り返って、真由を見る。


「ごめん。俺、実は鬼だったんだ。もうここにはいられないな」


 そんなことない、なんて、真由は言えなかった。


「何で、小林さんが鬼なんですか……。鬼になっちゃ駄目じゃないですか……」

「鬼の力自体は悪じゃない。俺はそう考えてる。だから、この力の使い道は俺が決める」


 鬼の姿に再び変身する深尋。


「小林さん!!」


 深尋は鬼の脚力を利用して、二階建ての建物の屋上へと跳び、姿を消した。

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