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第3話 ブルーアイズの妖精

 真由は靴を履くのにやや苦戦している。自宅の玄関に居るのだ。


 奥の部屋のテレビには、朝の情報番組が映っており、アナウンサーのニュース原稿を読む声が真由の居る玄関まで聞こえる。内容は、土砂崩れで一人が亡くなったというもの。それ以外にも、朝から不幸なニュースをたくさん聞いた真由は、少しだけ気分が落ち込んでいる。もっともこれは毎朝繰り返していることで、もはや習慣の一つにまでなっているのだが。


 真由が靴を履き終えると、若い女性が玄関へ顔を覗かせる。


「いってらっしゃい」


 胸にかかる髪に、中間から毛先にかけてやわらかい印象のパーマがかけられた彼女は、真由に見送りの言葉を投げかけた。


「いってきます。ちーちゃんもバイト頑張ってね!」


 真由にそう呼ばれた彼女――(たちばな)千里(ちさと)が、「はい、頑張ります!」と言ったのを聞いた真由は、自宅を後にした。彼女に見送られ、真由の気分は上向きになる。



    ◇



 花蘇芳駅で電車から降りた真由は、昨日事件のあった花蘇芳駅の南口を出て、花蘇芳警察署の地下一階にある対策係のオフィスに辿り着く。


「おはようございます」

「おはようございます、桐谷さん」

「あなたは……」


 オフィスで真由を出迎えたのは、落ち着いた雰囲気の壮年の男性だった。


「イージスを創りました、マッドラテック社の高山(たかやま)優樹(ゆうき)と申します。宇佐見さんたちからはよく、『高山博士(たかやまはかせ)』なんて呼ばれています。どうぞ、よろしくお願いします」


 そう自己紹介した高山博士は、真由に名刺を差し出してきた。頭を下げる彼から、「頂戴します」と言って名刺を受け取る真由。彼女も、部署名を二重線で消して訂正した臨時の名刺を取り出して、彼に渡す。


「臨時の名刺ですみません。昨日対策係に配属されました、桐谷真由です。よろしくお願いします」


 高山博士が、「頂戴します」と言って、真由から名刺を受け取っているさなか、奥の整備室のドアが開く。現れたのは、薄い灰色の作業着を着た朱莉。


「真由ちゃんおはよ~!」

「おはようございます、宇佐見さん。今日は作業着なんですね」

「そう! 昨日の白衣は趣味で着てただけ。イージスをいじるときは、こちらの作業着を着ているのじゃ~」


 高山博士は朱莉の手元に目がいっていた。朱莉が何かの缶を持っているのだ。


「ところで、それは何ですか?」

「これは乾パンです。ご存じありませんか? 高山博士」

「乾パンですか? それって非常食ですよね? どうして乾パンを持っているんですか?」

「おやつとしてこないだ買ったんですよ~! 二人も食べます?」


 真由と高山博士は、一秒ほど目を合わせてから答えを決める。


「では、遠慮なく。いただきます」


 高山博士に続いて、真由も、「いただきます」と乾パンを食べることにした。



    ◇



 真由たちが乾パンを食べ終わった頃には、哲範と深尋もオフィスに集まっていた。


 高山博士は整備室で、真由のための新しいイージスを紹介する。


「では紹介しましょう。こちらが、『対超人戦闘特化型 動作増幅式擬人強化外骨格 イージス 正式採用300(さんびゃく)(かっこ)無人時限定待機形態変形可能およびホバー移動可能型)12号機』。型番で言うと、『A-300(えーさんびゃく)』です」

「正式名称、長いですね」

「練習してきたので噛まないで言えました」


 そのイージス――A-300の全体的なカラーリングは白色。ボディの各所には青色が使われている。


「では、桐谷さん。棚にヘルメットが置いてありますから、それを被ってみてください」

「わかりました」


 横の棚に置かれたヘルメットは、青色の目を三つもち、うち一つは眉間の辺りに存在していた。真由がそのヘルメットを頭に被ると、青色の目は点灯。


「イージス『A-300』、起動します」


 女性の声の音声ガイダンスが、真由にだけ聞こえる。同時にA-300の後ろ側の装甲が開放され、装着待機状態に。彼女はA-300の中に体を入れていき、装着を完了する。


「操作はブレインマシンインターフェースにより、装着者の脳波を読み取って行います。イージスの状態や外部の様子などは、ヘッドアップディスプレイ――ヘルメット裏の画面に表示されますので、そちらからご確認ください。では、ガレージに向かいましょう」


「はい」と真由は返事をして、整備室奥のドアを開け、一歩一歩確かめながら車庫まで歩いていく。


 すると、ヘルメットの無線を通じて、哲範の声が真由の耳に届く。


「ここからは、小林と軽く訓練をしてもらう。桐谷、どうだ? イージスの着心地は」

「てっきり動きにくいのかと思ってましたが、その逆なんですね。生身より動きやすい……」

「良さそうだな」


 A-200を着た深尋が、ジョギングをするようにして位置に着く。


「よし、俺の合図で訓練を開始する。用意はいいか?」

「はい!」


 二人は腹から声を出し、哲範に意志を伝えた。


「じゃあいくぞ。始め!」

「武器のセーフティを解除します」


 哲範の訓練開始の合図とともに、真由は右大腿部からサブマシンガンを取り出して、深尋へ連射。訓練弾が、銀色と赤色の胸部にすべて命中する。


 深尋は、真由のサブマシンガンが弾切れになったタイミングで彼女へ走り、近接戦へ。

 真由はサブマシンガンを右大腿部に仕舞って応戦。そして深尋のパンチを払い除け、彼の胸部に拳をねじ込んだ。


 深尋は衝撃で後ろに下がる。


「桐谷、ホバー移動を使ってみろ」

「了解」


 哲範の指示を受け、真由はスカートのように後ろに垂れ下がったジェットエンジンを点火。ホバー移動を駆使して深尋を衝突するように捕まえ、彼ごと高く飛び上がる。車庫の高い天井付近を、円を描いて飛行し、真由はマットの真上に辿り着く寸前で彼から手を放した。


 どうもがいても、空中に掴める物は何もない。深尋はマットの中心に吸い寄せられるように墜落した。

 サブマシンガンに訓練弾を再装填した真由は、ジェットエンジンの出力を徐々に弱めて体を降ろしながら、訓練弾を深尋に連射し、深尋を起き上がらせない。彼女は深尋に覆い被さる形で、片膝を立てて着地する。


「良い戦い方だ」


 息を切らした深尋は、ヘルメットの裏で小さく笑う。



    ◇



 ――その夜、とある場所で、少女は鬼と会っていた。


「これが、超ヒト体細胞の注射器。腕に打ち込むだけで、簡単に鬼の力が手に入るわ」


 若い女の声で話す鬼は、目の前の少女にその注射器を手渡す。


「覚悟は決まったかしら?」

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