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プロローグ 目覚め

「――うん、この体はなかなか良いものだ」


 その研究所は、十分すぎるくらいに整った設備によって、不幸にも怪物を生み出してしまった。


 研究所には、その後の悲劇を知らせるように警告音が鳴り響き、辺り一面を警告灯が真っ赤に染め上げた。怪物の生まれたその一室も、漏れなくだ。


 怪物は、自分が生まれたそのカプセルから、十三段の階段を一段ずつ踏みしめながら下りていく。


 怪物の足音に、複数の足音が重なって駆けつけた。その部屋に押し寄せたのは、十二人の所員たち。

 怪物が階段を下りきって、双方は正面から向かい合う。そこで彼らの目に映ったものは、もう手遅れだと判断するに容易い代物であった。


 その姿は、濡烏色の肌をした裸の男。嘲笑うグレーの仮面を付けている。不気味なその仮面は、怪物の頭部と完全に一体化しているようだった。


 そんな姿を目の当たりにした人間は、いったいどうなるだろうか。その答えは簡単である。恐怖に慄き、言葉を失い、ただ眺めていることしかできないのだ。


「この体をプレゼントしてくれたことには、感謝してもしきれないね」


 怪物は流暢な日本語で話していた。それも、ここにいる所員の誰もが知る男の声――研究所の所長の声だ。

 その初老の声で、怪物は続けてこう話す。


「自己紹介をしよう。私の名は……そうだな……『ネメシス』としようか。そう長い名ではないから覚えやすいだろう?」


 所員の聞き馴染んだ声で、ネメシスと名乗ったそれに、所員たちはより強い恐怖を覚えた。声こそ同じだが、所長ではない。明確な知性をもった何者か。人間なのか、そうでないのかもわからない。ただ、これもすべては研究所が招いたこと。責任の所在は彼らにある――はずである。

 ともあれ、警戒するに越したことはない。現時点での彼らの筆頭――所長の妻が、所員たちをかき分けて前に出た。


「ネメシス、あなたの目的を教えて」


 ネメシスは、辺りの警告灯と同じような色をした単眼で、彼女を見る。


「なあに、心配することはない。私はただ、人間たちに滅んでほしくないだけだ」


 それはまるで、自分が人間ではないと主張しているよう。


「私には使命がある。君たちはここで待っていてくれ。……確かこんなとき、日本語じゃあこう言ったね」


 そう言うと、ネメシスの体は赤く発光する。


「いってきます!」


 瞬間、ネメシスを包む赤い光は、より眩しく光った。

 所員たちは目が眩み、ネメシスを直視できなくなる。彼らは得体の知れない怪物から、目を離してしまったのだ。


 光はすぐに消えた。所員たちはまだ回復しきっていない目で、すかさずネメシスを捉えようとする。しかし――。


「居ない……!!」


 所長の妻が視認したのは、誰も居ない階段下。ネメシスは光と共に消え去っていたのだった。



    ◇



 一方、ネメシスは研究所近くの公園に降り立っていた。これは明らかなる瞬間移動であろう。やはり、ネメシスは怪物に違いない。

 辺りは雲一つ無い夜であるため、その低い芝生の生える広場を見渡しても、人は少なかった。


「さあ! レゾンデートルの凱旋パレードだ!」


 ネメシスは、また何か特別な力を使って木々を――否、地面ごと大きく揺らしていた。意図的に地震を引き起こしたのだ。空を駆ける電線は、バチバチと火花を撒き散らしながら躍り狂う。悲鳴とともに、瓦礫や命が落ちていく。辺りは停電が連鎖していき、交通機関は麻痺していった。まるで止めようもなく果てしないドミノのよう。

 それは言うまでもなく、人類への反逆行為を意味していた。


 三十秒も経たずに、ネメシスは力を使うのをやめた――いや、中断したと言ったほうが適切であろう。その悲しき光景から、地震という悪の根源のみが取り除かれた。ただ、それでも、それが残していったものは片づけられない。


 自ら引き起こした地震で尻餅をついていたネメシスは、夜風に体を震わせた。


「挨拶程度の小さな地震にしたが、日本のほとんどは揺れただろう」


 その直後、ネメシスは目の前に白い発光体を見る。


「ん? この光は……」

「おはようございます、ヴィクター・ジン」

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