幕間2
平日とは違って金曜日の0時付近のアクセス数の少なさと、
12時付近のアクセス数の多さに日本の闇を感じました。
さていうワイもちょっと疲労が。
申し訳ないですが、幕間です。
●大阪市内、某所にて
「どうだった?」
「いやー、ハズレだったわ。ま、身体だけは良かったけど」
大阪市の端っこの外れ。笑いながら髭面の男が告げると、外で待っていた仲間の男はタバコを吹かした。吸い殻を地面に捨て、足で踏みにじる。
「さっさと移動するぞ。ポリはまだまだ動けんだろうが、いらん揉め事はゴメンだ」
「へいへい。ったく、お硬いねえ相棒は。出張ってきても蹴散らせるだろうによ」
ヒゲの男は知っている。相棒と読んでいる男のレベルが、20を越えていることを。ダンジョンをクリアしただけでは、そうはならない。高くてレベル10がいい所だ。
それだけでなく、職業:武士も今の時点では破格の性能を持っている。何が来ようとも自分の意志を押し通せる力があるのに、我慢をする理由があるのだろうか。
(ま、今は大人しくしておくか。前世持ちとかいう訳分かんね―奴も居ることだし)
ラリってるかと思ったらマジだった、と男はため息をついた。そういうのはオタクどもだけで十分だろ、と心底面倒くさそうな顔で。
「っと。そういえば、証拠隠滅はしてなかったな―――炎嵐」
ただの単語だけで、魔術が発動する。男の指から放たれた炎の塊は風に乗って目の前の家を包み、あちこちに燃え移っていった。
男達は中から聞こえる断末魔を他所に、散歩に行くような足取りで移動を始めた。
「なあ、次は心斎橋に行こうぜ。女優とかアイドルとかあそこらへんに集中してるって話だしよぉ」
「つまりは激戦区という訳だ。……いや、逆にチャンスか。手練の背中を刺せる可能性がある。経験値稼ぎにはもってこいだ」
「そういうこと。じゃ、行こうぜ」
「せっかちだな。理由は分かるが」
「だろ? 楽しまなきゃ損だろうぜ―――こんな世界なんて」
いつからだろう。どうしようもない、停滞感を世界に感じたのは。閉塞感だけしか味わえない現代。何をするにしてもケチをつけられ、真面目で在れと罵倒される。
どっちが狂っているんだ? 男は、いつもそれだけを考えていた。
平等ではあり得ない、生まれの貧富の差で人生の大体が決まってしまう。
ハズレくじを捨てるのは、英断を言えるのかどうか。そんな事を考えていた所に、声がかけられた。
ヒゲの男が車を回してきたのだ。呼びかけられた男が、道路に停めていた電気自動車に乗り込む。10年ものの年代ものだが、問題なく稼働する優良車両だだった。その助手席に、相棒と呼ばれた片目の男が乗り込む。
「……“チャラ男”。本業は忘れるなよ。聞き忘れていたが、さっきのコトでレベルはいくつ上がった?」
「たった1だけだ。ったく、もっと歯応えが欲しいぜ、クソ共が」
舌打ちしながら吐き捨てる。そう腐るな、という労う声を聞いた“チャラ男”と呼ばれた男が電気自動車の動力をONにした。
「それじゃ、レッツゴー! ……ってのは令和を通り越して平成のオジサン臭いか」
「アラサーの言うことか。いや、これも死語か」
「お前も細かいなぁ。いいだろうが、言葉尻をとやかく言う連中はもう居ないんだから。揚げ足を取るような連中は殺してしまえばいい。つまらない常識なんぞ、いい加減うんざりだ」
いい子であれという呪いがあった時代。それはもう消え去ったのだから。
皮肉げに笑いあいながら、男たちは去っていった。
燃え盛る家を置き去りに、次の狩場へ移動するために。
●三姉妹の悩み
現在の攻略回数は、9階。あと一階をクリアすればチュートリアルは終了という所で、黒烏の三姉妹は緊急の会議を開いていた。
議題は“肌の状態がヤバイ”というもの。肉食とカップ麺だけでは限界であることを、乙女たちは悟っていた。野菜を取らなければ女として死ぬ。だが、何をどうすればモンスターが野菜を落とすのか、3人とも心当たりすら持っていなかった。
「兎とか落とすと思ったんだけどな……ホーンドラビット。肉は美味しかったけど」
「草食動物の肉食べて野菜とか、現代人の発想じゃないでしょ。玲の治癒魔法だとあんまり効果無かったし」
「限界まで酷使させといてそれ? いい加減にしないと“混ぜ”るよ、お姉ちゃん達」
「「ご、ごめんなさい」」
目だけが笑っていない末妹を見た燐と嵐が、謝る。洒落にならない固有スキルとかいう話ではなく、純粋な恐怖を覚えて。
もう、と玲が疲労の色濃いため息をついた。
「取り敢えず、ダンジョンのクリアを急ごうよ。そうしないとお兄ちゃんの安否も確認できないんだよ?」
「う……そうだね。分かってたつもりだけど、朝に顔を洗う度に、ね?」
美容とは戦いである。努力をした者が報われるとは限らない。だが、“最低限整ってたらいいやー”と諦めた者から負けていく。なんだ、やっぱり戦いじゃないか。燐は深く頷いていた。
「付き合う相手もいないくせに。そういうのを取り越し苦労っていうんだよ?」
「言いたい放題だな妹。ま、誰かとお付き合いしてる場合じゃないのは確かなんだが」
三つ子達は挑んでいるダンジョンから、おおよその逆算を済ませていた。
一般家庭の規模でクリアにかかる日数はおよそ3週間ほど。挑める心の強さがあるならば、死にはしないだろう。家族内のごたごたを無視しての、楽観的な試算だったが、およそ7割は生き残る。燐達はそう確信しながら、その後のことを考えていた。
地獄が来る。間違いなく。職業を得てから、信じられないような力を手に入れた。
強くなった力はモンスターの肉を千切り骨を割り、気軽に命にまで届くほど。
使えることが問題なのではない。使われれば、と思ってしまうことが最悪だった。
「私としては性善説を推したいんだけど」
「人は善良だから問題なく暮らせました、めでたしめでたし。……ないでしょ、それは」
燐の言葉に、嵐が即答した。自分でも信じていない理想論は、バカの考えに似る。つまりは何もしないのと同じだ。三姉妹の中で一番のリアリストである嵐は時間を無駄にするよりも、最優先とするべきである安全について提言した。
女3人だけでは、どうしても不安が残る。善良な協力者を募り、共同で問題に対処していけば乗り切ることができるだろうと。
「うん……嵐にしては良い意見ね。それでいきましょうか」
「ほ? 珍しいねー、てっきりアホかと反対されるかと思った」
「しないわよ。ま、アンタがアホなのは昔からだし?」
「燐姉には言われたくないかなー、アハハ」
言葉で応酬しながら、ガンを飛ばし合う2人。
横で見ていた玲は、慌てて2人を止めた。
――本気ではなく、フリで。気がついたからだ。2人の姉が、自分を気遣っていつもの日常の光景を意図的に演出してくれていることに。
(こういうこと見抜くから、可愛くないって言われるんだろうなー。……なんて悩みができるのが贅沢だって、思ってもみなかったよ)
閉じ込められて3人だけ、他に頼れる誰かもなく。その中で9階まで、ようやくたどり着けた。決して簡単ではなかった。その途中で、玲は痛感していた。次に誰かが死ぬかもしれない、そう考えなくても済むあの日常が、どうしようもなく尊いものであったことを。
それを支えているのが、治癒術士である自分。玲は自負しながらも、震えていた。ダンジョンの初日に動脈を切られて死にかけた、姉である燐の姿を。
(……自分がこんなに弱いだなんて、思わなかった)
能力がある。普通にやればいい。だけど、なんて弱音を吐く自分が居るなんて、信じられなかった。玲は情けないと思いつつも、どこかで期待していた。
お兄ちゃんが、助けに来てくれるということを。
「……玲?」
「え、なに? どうしたの、お姉ちゃん達」
「なんでもないわよ。あんたこそ、疲れてるなら休みなさいよ」
「うん。ありがとうね」
答えるなり、玲は自分の部屋へと戻っていった。
残された2人の口から、ため息が溢れた。
「……限界ね。いちばんしんどい事させてるのは分かってたけど」
つもりだったようね。燐の呟きに、嵐が頷いた。
治癒という役割は一見して楽に思えるが、それが肉親ともなれば心労の度合いは跳ね上がる。自分が失敗をすれば死ぬという現実をダイレクトに受け止める他にないからだ。
最終のボス戦で取り返しのつかない傷を負った時に、玲がどう思うのか。
妹想いの2人は、互いに視線を交わして誓いあった。
「無傷で勝つぞ。できないかどうかなんて、知らない」
「よくぞ言った、姉。……心配そうな顔をするな。へそくりで取っておいたDPがある
あれでポーションを買えば万事解決だ」
とっておきの90DPはこの時のためにあったんだと、嵐が自慢する。
燐は苦笑しながら、内心で妹達を褒めていた。
(2人は苦しみながらも頑張ってる。ここで、私がヘタを打つ訳にはいかないわよね)
辛いけれど、ここを乗り越えることができたなら。
長女としての責任感を持っている燐は、今になって初めて祈った。
どこかに居るかもしれない神様に願う。どうか嵐と玲、ついでに迅兄さんに幸運が訪れますように、と。
(せめて、もう一度。今年は一緒に墓参りをしようね……誰一人欠けることなく)
大望でもない、できるならばという控えめの願い。
燐は思ってもみなかった。そんな細やかな希望が、敵わないということを。
―――2日後、黒烏燐を筆頭とした三つ子の三姉妹はダンジョンを踏破した。
クリア時のレベル18という、区内で50位内に入るほどの高水準で。
●ケンという男
「え、じゃあロンの部下だったのか?」
「まーな。本業は偵察兵よ。指揮も、まあできるっちゃできる」
訓練の途中、迅はケンに話を聞いていた。前世はどうったのか、ロンと同じで断片的にしか思い出せないが、違った視点からの当時の世界を教えられた迅は、眉をひそめた。
最初の1年で無才能者と特権階級との殺し合いが勃発。
次の1年で、モンスターの大規模侵攻があった。内輪もめで疲弊していた人類側は、その半数の戦力を失った。
このままではダメだと、生き残った上層部が私財を投じて対ガイア攻略部隊となる、天壊戦士団を設立。戦う意志がある者が集められ、そこから本格的な戦争が始まった。
「……ガイアって、地球のことか?」
「ああ。俺たちはそう呼んでた。で、ロンさんは俺たちの隊長でな。8人しかいない天士でも一目置かれる存在だった」
今で言う所のDDを最も使いこなしていた中の一人。上層部からの期待は大きく、下からも慕われていたんだと、ケンは自慢げに語った。
「天士のほとんどが元は法天家出身のぼっちゃまお嬢さんばかりだったからな。唯一スラムから這い上がったあの人はもう、オレ達のような底辺出身者にとっちゃ希望の星だった訳よ。天士になれないぼっちゃま連中なんかはもう、メチャクチャ嫉妬してた」
法天家とは、貴族と富豪が合わさった上層階級のセレブのことだ。魔法か超能力の才能を遺伝的に受け継いでいる、生まれながらの勝ち組のことを示す。
「細かい問題が起きちゃあ、ぼっちゃま連中に色々と突っかかれてたな。でもいざ前に出ると、あの人の覇気の前になんにも言えないでやんの」
「……覇気?」
「当時は、な。生前のあの人はもっとギラギラしてた。死んで大人しくなった、なんてことは考えにくいけど」
死ぬことで、色々と取りこぼしてしまったのだろうか。
呟くケンに、それを経験したことがない迅は何も言えなかった。
「……ま、そういう事もあるってことだ。単純に、ゴブリンにされて凹んでるってだけかもしれねーし。オレも2日ぐらいは自分の姿が信じられなかったもん」
死んで生き返ったらコボルトである。ジェネラル種という高位だが、人間ではない。迅はケンの顔が柴犬っぽい感じなので嫌いではなかったが、「じゃあ明日から人間辞めてね」と宣告されればそれはそれで断りたいのも事実だった。
「ま、PP稼いで転職――クラスチェンジすれば、人間に戻れる可能性はあるからな。ぜひとも頼むぜ、隊長代理殿」
「分かった。俺も死ぬのはゴメンだしな。でも、代理か」
「悪く思わんでくれな。でも、俺が隊長って崇める人には2つ条件が必要なのよ。一つ、揺るがない強さを持ってる奴。ついていきたいって思わせられるような、な。もう一つは、見ているだけで眼福な人。どちらかっていうと2つめが最重要」
「眼福となると……筋肉とかか?」
「そんなもんだ。いや、今のは忘れてくれ」
いっけね、とケンが呟く。迅は首を傾げながらも、聞かないことにした。
「にしても、本当にいいのか? 部下のコボルトが大勢死にかねない作戦だけど」
立案したからこそ、責任がある。そう考えての迅の発言だった。
ケンは、目を丸くしながら驚いていた。
「……そうだな。今、実感したよ。ここはもう、俺たちが生きていた世界じゃないんだな」
「え……どういう意味だ?」
「何でも。ま、隊長代理殿の気遣いは嬉しいってこと」
それきり会話を打ち切ったケンは、訓練を開始した。
その中で、苦笑しながら昔のことを思い出していた。
(死ねと言われれば死ぬしかない、人の命なんて駒の数だったのにな)
隊長が隊長とはいえ、絶望だけが当たりに漂う末期的世界。使われることに違和感を覚えず、“死ぬ”という選択肢は戦う、逃げると同じ位置での扱いだった。隊長に拾われる前は、スラムの中で殺して奪い合うだけの、モンスターのような生活を送っていた。ケンは、自分に問いかけた。生まれてからこれまで、気遣われたことなんてあっただろうか。
ケンは苦笑しながら、迅の評価を一つ上げた。
(それだけで全面的に協力する、ってこたぁねーけど……ま、悪くはねえな)
すべては明後日の作戦次第。ケンは冷酷な目を隠しながら、密かな決意を抱いていた。




