表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星が恋した3分戦争  作者: 岳
12/14

10話:やったろうじゃねえかの1月16日


「さあ、説明してもらおうじゃないか」


リビングの中、炬燵の上で正座するテルルに迅は優しく告げた。


あれは無い、と。


「レベル50ってお前、チュートリアルで出てきていいランクじゃないだろ。ちゃんと仕事してる?」


「は、はいー」


「つーかなんで地下5階の中ボスが上がって来てんの?」


「そ、それは……分からないですー」


「分からないで済んだら会計検査は要らないんだよ。責任者連れてこい、責任者」


圧迫面接の如き威圧感を放つ迅。大きすぎる理不尽に、彼の心にはちょっとだけ罅が入っていた。


テルルは目を閉じながらプルプルと震えていた。迅が、ため息を浴びせかける。


「ちょっとお客さん? 黙ってても問題は解決しないんだけど」


「そ、それは……その、何かの勘違いじゃないかなって思うのですー」


「は?」


迫真の声。横にいるロンが半眼で告げた。


「あんなアグレッシブな幻覚があるか。久しぶりに死を感じたぞ」


「と、とは言いましてもー」


「あくまで勘違いで押し通すつもりか。証言者、前へ」


ロンがリビング横の扉を開ける。そこには縛られたコボルトが居た。


地下2階から逃れた時の最後、戦鬼―――恐怖の赤鬼から逃げる際に一緒になった個体だった。指揮持ちで、されど地下一階には上がれず。哀れにも命乞いをしてきたので、迅は自分達に危害を加えないことを約束させる代わりに地下1階へと引っ張り込んだ。


「さて、供述してもらおうか」


「えっと……これなんの茶番?」


のたまうコボルトの尻に、ロンが蹴りを入れた。ロン同じく前世持ちであることは確認済みだった。ロンの知り合いでもあるようで、記憶もはっきりとしているという報告があった。


「体感的には10日ぐらい前か? 地下の階段から、あの鬼が上がって来てな。誰かの返り血を浴びたまま、嬉しそうに笑ってたぜ」


恐らくは地下5階から3階までのモンスターを狩り続けたのだろう。既に手がつけられないほどの強さになっていた鬼は、2階でも蹂躙を始めた。


そして、クラスチェンジをしたのが三日前。今では爆撃打撃を使いこなす、肉体抹消兵器として好き勝手やっているらしい。


「で、でもー。迅さんがすぐに攻略しないからこういう事態になったんじゃ……すみません、忘れて下さい」


突き詰めれば行き過ぎた難易度が原因である。それを自覚したのだろう、テルルは落ち込み涙目になった。


妖精というサイズではあるが、その容姿は幼いながらも非情に整っている。そんな幼女に、迅は優しく語りかけた。


「別にテルルを責めてる訳じゃないんだ。間違いは誰にだってある、そうだろう?」


「じ、ジンさん……!」


「なにも今からあの鬼を倒せ……って言ってる訳じゃない。流石にそれは無茶だ。だけど、ちょっと手伝ってくれないか、と思ってるだけなんだよ」


「で、でも、わたしに何が出来るんですー?」


「戦闘に参加しなくてもいい。ただ、ちょっと情報が欲しいな、って……ああ、無理だったらいいんだ。一か八か、俺の最後の意地をあの無礼者に見せつけてやろうかなって」


「だ、ダメです! 爆熱鉄鬼(バーストオーガ)は直接戦闘能力だけならハイクラスで、束になっても敵いません!」


「へえ……でも、なんでだ? 俺たちも結構やるかな、って思ってるんだけど」


「む、無理です! 挑んだ所で勝てません、だってあの鬼は―――」


テルルは必死に止めようと、言葉を尽くした。迅はうんうんと頷き、最後まで話を聞いた後に優しく微笑んだ。


「ありがとう。そんなに心配してくれてるんだな」


「は、はい。だって、いくらなんでもアレはあんまりだと思うんですよー」


「そうか……分かった。何か、策を考えてみるよ。テルルは休んでおいてくれ。スポット参戦とはいえ、疲れただろう?」


労いの言葉と共に迅は飴を渡した。DPで買える、蜂蜜入りの飴だった。


「色々と話させて悪かった。ありがとうな、テルル」


「は、はいー。……わたし、ジンさんのことを見誤っていましたー。てっきり無茶振りばかりするひどい人かとー。でも、違ったんですねー」


それからテルルはほわほわとした様子で、個室に戻っていった。広い部屋の中、テルルが自分で決めた部屋の中へ。


気配が遠ざかっていく。1分後、完全に気配が消えたのを見計らって、ロンが口を開いた。


「詐欺師の才能があったとは思わなかった。やるな、ジン」


「こんなの、社会だと一般技能だっての」


飴と鞭または良い警官と悪い警官戦術という。不良が善行をした時に感じる錯覚と同じものだ。責めた後で、助け舟を出す。それをされたテルルは感激のあまり、迅達に情報を漏らしていた。恐らくはテルルの権限だと、許されないだろう範囲まで。


「弱点は額の紅玉。魔力の源泉にもなっているあれを砕けば―――と言っていたけど」


「正攻法では絶対に無理だ。位置が高すぎる」


硬度も相当なものだという。4m上のデカブツを標的に、高威力の攻撃を直撃させる必要があるということ。


弓矢では威力が足りない。最低でも、重量物である斧か剣。それも、威力が最も出る大上段からの打ち下ろしでなければ砕けないだろう。


「俺の部下を出す。牽制は任せろ。あとは隙を突いて、跳躍からの攻撃をぶちかませばいい」


迅達に捕縛された、コボルト達の指揮官。


前世持ちであるコボルトジェネラル―――ケンと名付けられた男は、いいアイデアだろ、と笑う。


ロンは、アホかお前はと尻を蹴った。


「飛び上がってる間は、隙だらけになるんだぞ? 途中で掴まれて握りつぶされるか、壁に叩きつけられた後にあの爆撃を受けて即死だ。2度も塵にされるのは、もうゴメンなんだが」


「その役割をケンが担ってくれるってことだろう。勇気ある決断を尊敬する。ゴッドスピード、ケン」


迅とロンが親指を下に向けたまま祈りを捧げる。


ケンは、オレが悪かったと素直に謝った。


2人は笑顔で許した。もちろん、ケンが提供してくれる情報に感謝を捧げてのことだった。迅達は根掘り葉掘り聞いたあと、条件を整理した。


「正面からは無理筋だな。大勢でかかっても蹴散らされるだけだ」


手足や身体の防御力は相当なもので、コボルト程度のものだと皮膚に数ミリ突き刺さるだけで致命傷には程遠い。用意できる範囲での毒を使った所で生命力が高い高レベルのモンスターへの効果は薄いため、どう足掻いても数だけでは倒せない。


そうなると、何とか隙を見て振り下ろしの一撃――だけでは足りない。万全の状態で、スキルを併用した上での最高威力を直撃させなければいけない。高さ4mの弱点に向けて、凶悪な攻撃力を持つ鬼の迎撃を回避しながら。


無理だろ、とケンが小さく笑った。


「生前の隊長ならともかく、こんなモンスターに落ちぶれた俺たちが多少頑張った所でどうにかなる相手じゃねえよ。持久戦と行こうぜ、なあ」


一理ある。ケンの方針は正しいことを迅は認めた。殴り合いをするなど自殺行為で、毒殺か持久戦か、時間と知恵を使ってじわじわと削るのが賢い人間がする最善の選択であると。


妹たちとの約束があるとはいえ、死ねばそこで終わりだ。


堅実に、確実に勝てる方策を取るべきだろう。


(―――それで、もし間に合わなかったら?)


迅は視線を落とした。


そして10秒、迷う“フリ”をした後に宣言した。


「やろう。作戦次第で、勝てる。真正面から出し抜けばいい」


「は? いや、どんな攻撃をしたってあのデカブツを崩せる手立ては」


「無理だと諦めるより、方法を探せ。ようは最後の一撃に至るまでの道筋を作ればいいんだ」


迅が告げ、ケンが反対し、ロンが両者の言いたいことを理解しながら意図を組む。


迅は、少し考えた後に絶対に変えられない部分だけを告げた。


「トドメは……ロンに任せる。一番威力を出せるのはロンだ」


「了解。だが、死ねという命令しは従えないぞ」


「分かってる。何の遠慮もなく最高の一撃をぶちかませるような状態を俺たちで用意するさ」


その上で、と迅は作戦を告げた。


独りよがりでは命を賭けさせられない。すれば反発されるだろう。それは裏切りではない。むしろ、自分が約束を破る行為になる。


(だけど、やりようはある。どんなことだって、絶対にダメなんてことはないんだ)


諦めた途端、人の視野は時に驚くほど狭くなる。主観だけで動けば、死角――見逃していた欠点に命を奪われることがままるのだ。迅も、会社に居た頃は幾度となく経験していた。


チェックした筈なのに、という言い訳は通じない。怒られる度に迅は学んだ。合っているだろうと思いこんでいる時ほど、間違いを犯すことを。


ましてや、殺し合い。この場に必要なのは、納得だ。いやいやではなく、約束に縛られているからという言い訳でもない、複数の参加者による勝算を共有できて初めて挑む価値があると迅は考えていた。


さりとて、相手はレベル50。慎重を突き詰めてもなお無謀である強敵だ。


コボルトを相手に隠密をしていたのは何だったのか、という桁外れの相手を前に、迅の頭の中では一種の箍が外れた状態に在った。


くだらない遠慮など、何の役にもたたない。倫理や道徳、常識さえも。


夜通し話し合った3人は、明け方に共通の意見を持つに至った。



―――勝てる、という喜びを。誰か一人の主観だけではない確信と共に抱きながら。














「やっぱりここに居たんスね」


爆熱鉄鬼(バーストオーガ)戦を明日に控えた、真夜中の午後一時。大きい窓から突きを見上げていたロンに、ケンは苦笑していた。。


「ロマンチストな所は変わらないですね、姐さん。どーせ月だけは古代から変わらないとか何とか、感傷にふけってたんでしょ?」


「……“ジャスカル”。お前こそ、減らず口は死んでも治らなかったようだな」


告げて、笑い合う。


――かつて、戦争があった。そこでロンとケンは上司と部下の関係だった。などということを努めて語る趣味もない。そう思いながらも、ロンは聞きたいことがあった。


「私は95階で死んだ。お前達を犠牲にしたのに、この様だ。笑ってくれてもいいぞ」


「それは無理な話っす。オレも、姐さんが上に進んですぐに死にましたんで」


死因は覚えている。仲間と共に、止めきれなかった高位モンスターの氷結魔法の直撃を受けたからだ。自分の身体が千々に砕かれていく様を、ぼんやりとだが“ジャスカル”改めケンというコボルトは覚えていた。


「私も、死に様だけは覚えているな。天門との戦闘で、2位と共闘していたんだが……両者が放った分子分解の余波に巻き込まれてな」


指先から内臓に至るまで、かつての自分の痕跡は消された。


痛みは無かったぞ、という言葉にケンは目を丸くしながら驚いていた。


「え、与太話じゃなかったんすか? 分子分解を受けても痛く“は”ねえってマジだったんすね。そんなの上が意図的に流したデマだと思ってましたよ」


「私もだ。最も、上層部のクソ共より先に死ぬ己の無様がどうしようもなく悔しかったが」


絶滅戦争の終盤。何もかもが壊れていた世界。生きてどうなる、という葛藤が常につきまとう地獄の釜の底。それでも、と抗う者たちは少ないけれど存在していた。


勝てるなんて、思っていた訳ではない。だが、先に死んだ方が負けだというちっぽけな勝負に拘ることしかできなかった。


結局は死んだ。そして、気がつけば互いにモンスターになっていた。だが、ロンもケンも今の自分の立場を憂うことはなかった。


だって、まだ死んではいない。ならば殺されるまで必死に生き足掻くのが、当然の行為であると考えていたからだった。


「とはいえ、今の私達ではアレを相手取るのは厳しいな」


「またまた~。ついさっきまで言ってたじゃないっすか、勝算はあるって」


作戦は最後まで煮詰めた。不純物を取り去り、純粋な勝機だけが残るまで。それでも爆熱鉄鬼(バーストオーガ)は強敵だ。甘く見積もっても、勝算は6割程度だとケンは考えていた。


だが、長期戦となればもっと確率は減るだろう。即死級の毒物は用意できない。頑張った所で、体力の半分を削る所までだろう。その次は警戒されて通じなくなる。盛られたと気がつけば、一目散逃げられてしまう。追撃で仕留められなければ、覚悟しなければならない。逆襲に怯える罅が訪れるからだ。


そう考えれば、迅が提案した作戦は上等なものだと言えた。少なくても、失敗した所で無駄死にとは思えない点が、ケンは気に入っていた。


「いつの間にか乗せられちまいました。中々の策士ですね。事前の印象とはかな~り違うっつーか」


「……その言葉が出るということは、この機会を狙っていたな?」


隠密は相手への感知を鈍らせる効果がある。だが、それだけだ。同じく隠密を使用している者の気配を察知できるものではない。


(降りてからずっと、補足されていたと考えるべきだろう。元密偵の面目躍如か)


こちらも、試されていたということか。皮肉げに、ロンは笑った。


「ここは有りがたと感謝するべきだろうな。その調子で頼りにしているぞ、ケン」


「わんわんわん、っと。ご主人サマの期待にはいつでも喜んで。昔からずっと、オレには犬が似合っていると思ってたんですよ」


謙遜や皮肉ではない、心からの言葉。私もだ、とゴブリンになったロンは答えた。


子鬼(ゴブリン)か。相応しいと言われれば頷く他にない。……ケン。お前は死んだ後のことを覚えているか?」


「いーえ、なんにも。きれいさっぱりです。ただ、なんつーか……大きな川に流されてる感触だけはずっとありましたよ」


死んだと思ってから、どれだけの時間が経っただろう。覚えてはいないケンだが、水とも光とも取れない何かに包まれ、揺られながら運ばれていた感触だけは覚えていた。


自分を溶かそうとしてくるそれに耐えながら、ずっと流されていたと。


「で、気がつけばこれっす。一体全体どうなんでしょうね。オレ達は生き返ったのか、生まれ変わったのか」


死の先にあるものを解析できたものは、ついぞ現れなかった。


だが、これがそうならば。最高で最低だと、ケンは告げた。


「大人しく死なせてくれれば静かに眠り続ける言い訳できたのに、ねぇ」


「それが出来ないあたり、お前も律義者ということだ。誇れよ? 私が男を褒めることは、めったにないんだ」


「へーい。ま、ご主人サマ次第ですが―――決戦ですか。ま、いざという時に切り捨てられる覚悟だけはしておきますよ」


裏切られるのには慣れている。それでも、と求める自分が居ることをケンは肯定した。


「隊長が従ってる……いや、同盟ですか。認めてる意味も分からんです。同情ですか?」


「まさか。私はそんなに甘い人間だったか?」


「いーえ。でも、疑うのがオレの仕事だったんでね。分かるでしょ?」


「ああ。だが、保証する。少なくとも悪い結果にはならないだろう」


「お言葉ありがたく。でも、無理でしょう。ありゃあ強がってるだけだ。……こんな決死戦なんてしなくていい、普通の人間ですよ」


「同感だ。だが、それでもと思わせてくれる何かをアイツは持っている」


「本当っすかぁ? ま、オレの予想が当たらないことを祈りますよ。じゃ、オレはこれで。色々と指示をまとめなきゃならないんで――おやすみです、アザレイア隊長」


雑に告げながら、ケンは去っていった。


生前から変わっていない皮肉屋の背中に向けて、アザレイアと呼ばれた戦士は思いを馳せた。


「勝つさ。……軽い覚悟じゃないだろうしな」


避けて通るのが、次善。だが、リスクが高すぎると迅は判断したのだろう。ダンジョンは地下2階で終わりではない。これから探索を続けていく中で遭遇して殺される方が危険だと判断したが故の決断。


(隠していたようだがな。震えているくせに、よくも平静を装える)


思えば、殴り合いの時もそうだった。土壇場になって現れたそれは、決意の炎に燃え盛る人間の意志そのもの。そういえばと、ロンは思う。


自分ではない、誰かのために。そんな戦い方もあったか、と懐かしむように。


久しく忘れていた感覚に、ガラでもないとロンは苦笑する。


(―――それでも。そう思えるのは、悪くないな)


暗い夜の屋敷の中、窓ガラスの向こうの月だけが、言いようのない何かに対し期待を抱くロンを照らし続けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ