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32、夏休みの予定

 口の中に残る甘さと苦さと酸っぱさをかき消すため弁当を口に突っ込む。三つの味がそれぞれに独立し、主張し合うなんてどんな最悪の三権分立だよ。いつまでも抹茶の味が居座って弁当の味がわからない。


「ねえねえー、皆夏休みの予定とかある?」


 重箱レベルのデカい弁当を目の前に広げ乃恵が聞いてくる。帰宅部なのにこの弁当の大きさ異常だろ。


 テストですっかり忘れていたが、そう言えば後数週間で夏休みに入る。赤点からは逃れたので補修の予定はない。夏休みは丸っと遊び放題だ。いや、宿題のことを忘れているわけではないけど。

 とはいっても、休みの日は基本引きこもりの俺に夏休みの予定なんてものはない。去年は重朝と近所の祭りに行ったくらいだ。それも途中で中学時代のクラスメイトの女子と鉢合わせしてしまい、重朝は連行された。その後俺は一人淋しく花火を見ることになったのは秘密だ。


「部活の合宿と、ばあちゃんの初盆があるから盆はおふくろの実家に帰るくらいだな……」

「私もお盆にお父さんの実家行くぐらい」


 俺は両親とも市内出身なので特に里帰りの予定などない。田舎のじいちゃんばあちゃんちで避暑とかちょっと憧れる。


「へーいいなー。うちは母方の祖父母は両方とももういないし、父方は同居してるから里帰りなんてしたことないんだよねえ」

「とはいっても俺は県内だ。車で一時間かかるかかからないかくらいだぞ」

「それでも、お泊りでしょ? いいなー! さゆゆんはどこ行くの?」

「A県」

「まじで! 新幹線で行くの? いいなー!」


 我が県には新幹線なんてハイテクなもの通っていない。鉄オタの乃恵からしたら新幹線に乗れるだけでもめちゃめちゃ羨ましいのだろう。


「マキマキは予定ないよね?」

「勝手に決めつけるなよ! 俺だってひと夏のアバンチュールがあるかも……」

「あるのか?」


 重朝が全てを見透かすような眼で問うてくる。


「……ないです」


 そんな目で見られたら正直に吐くしかなかった。少しぐらい見栄張らせてくれ。


「せっかく夏休みなんだからみんなで遊ぼうよ! 海行って夏祭りいって、キャンプいって、プールいって、花火しよ!!」

「全部は無理だろ」


 いくら一か月ちょい夏休みがあるとはいっても、宿題もたんまりあるし学生なので金もない。やることは限られる。


「忠世の言う通り全部は無理だけど、どれかはしたいよな。今月末俺たちの近所で夏祭りあるけど行くか? その日なら部活の合宿はもう終わってるし」


 去年二人で行って一人で帰ってきた祭りのことだ。今年も去年同様に開催予定だ。


「行きたい! ね、さゆゆんも一緒に行こう!」

「うん、私も行きたい!」

「って言ってもたいして大きな祭りではないからそれほど面白くはないかも。あ、でも、晴れてれば祭りの最後に花火も打ち上げるからそれは結構見ごたえあるかな」


 有名な大きな花火大会と比べたら貧相なものだけれど、市内では三大花火祭りに数えられている。


「じゃー、それ行こう! 決定!」


 ということで、夏休みの予定が一つ決まった。今年は一人で花火を見るだなんてせつないことにはならないだろうと信じている。


 ◆


「おい、そろそろ移動するぞ」


 弁当を食べ終え、夏休みの予定も決まりのんびりしていると重朝が声をかけてきた。昼休みが終わるまでまだ十分ほどあるのだけど、どこに行くのだろうか? 次の授業は何だったっけ?


「忘れてんのか? 次の授業は調理実習だろ。調理実習室行くぞ」

「あー!」


 完全に忘れていた。そういえば今日の家庭科の授業は調理実習と言われていた。何作るんだっけ? あー思い出したクッキーだ。クラスの女子たちが彼氏やあこがれの先輩、意中の男子に上げるとキャイキャイ騒いでいた。


「どうせお前はいっぱい貰うんだろうな……」


 今日も今日とてイケメンの友人をしげしげと眺める。それにたいして俺は一つも貰えるわけがない。すでに分かり切っている。なんで人生こんなに不平等なんだろうな。悲しくなってきた。


「なんか言ったか?」

「……なんでもない」


 イケメン爆ぜろと心中で呪いながら、重朝の後を追って調子実習室を目指した。

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