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29、勉強会

 ピンポーン


 軽快な音が鳴り響く。重朝からもうすぐ着くとLI●Eが来てから五分。重朝たちに違いない。おふくろには俺が出ると言って玄関へと向かう。ガチャリと音をたてて開いた扉からは予想通りの顔が覗く。


「お邪魔しまーす」

「どうぞー」


 勝手知ったる他人の家といった感じの重朝。物珍しそうにキョロキョロ見回している乃恵。緊張した面持ちでゆっくりと中へと入ってくる佐有さん。三者三様だ。


「おばさんお久しぶりです。これ、おふくろからです」


 重朝が手にしたビニール袋をリビングから顔を覗かせたおふくろに手渡した。


「あらあら、立派な梅ね。いつもありがとねー」


 重朝のじいちゃんが持っている山に梅の木があるとかで毎年大量の梅を貰っている。持ち山とか聞くとすごい金持ちをイメージするかもしれないが、田舎では普通だ。うちの父方のじいちゃんも山を持っており、毎年タケノコを送ってくれる。


「忠世、お前の部屋でいいよな」

「おー先上がってて」


 俺は冷蔵庫に入れた飲み物と人数分のグラスを持っていくためにキッチンへと入る。


「忠世! あんたちょっと!」


 お盆を取り出していたらおふくろに腕を引かれる。ちょっと危ないって。グラスを持っていなくてよかった。


「あんた重朝君以外の友達いたの? しかも女の子が来るとか聞いてないわよ! で、どっちが重朝君の彼女なの? 二人とも美人さんねー、さすがは重朝君」


 バシバシと背中を叩きながら興奮した様子で聞いてくる。痛いからやめて。

 重朝とは小学校からの付き合いなので、当然親とも顔見知りだ。俺も重朝の家族のことはよく知っている。しかし、重朝以外を家に連れてきたことがないせいでどうやらおふくろは、俺に重朝以外の友達がいないとでも思っていたらしい。まあ、確かに多くはないけれど。


 それにしても、普通家に女の子連れてきたら息子の彼女と思うのが普通なのではないだろうか? なんで重朝の彼女前提なんだ。せめて二人のうち一人が俺の彼女だと思ってほしいのだが。 まあ、どっちにしろ彼女ではないんですけどね。

 あれこれ聞きたがるおふくろを適当にあしらって、お盆を手にし俺は二階の自室へと上がっていく。


「おまたせー」


 片手で扉を開ける。いつもの定位置に座り、テーブルに置いていたお菓子をあさっている重朝。すでに教科書とノートを広げている佐有さん。ベッドの下を覗き込んでいる乃恵。


「おい、何してんだ乃恵!」


 ホントなにしてんだ、こいつは。


「エロ本ないかなーって思って探してた!」

「ねーよ!」


 やめろ! ホントやめろ。佐有さんに見られたら気まずいだろ。ホント押しいれにしまいなおしてよかった。


「あ、もしかして押しいれにあるのかな?」

「勉強するぞ!」


 押しいれに手を掛けようとした乃恵を押しとどめ、机に向かわせる。ったく、油断も隙もあったもんじゃない……。


 ◆



 一悶着はあったものの、一度勉強が始まると乃恵も静かになった。


「ねー、シュット。ここちょっとわかんないんだけど……」

「どこ? あーこれは、こっちの文法を使って……」


 乃恵に聞かれた重朝は、乃恵が指さす先を見て丁寧に教えている。このメンバーの中では重朝が間違いなく一番頭がいい。その次は佐有さんで、俺と乃恵はどっこいどっこいといったとこだろう。


「なー、重朝。数学なんだけど……」


 順調に進めていたが、途中わからないところが出てきた。俺はいつものように重朝に助けを求める。


「あー悪い。今乃恵に教えてるから……。数学なら俺より佐有さんの方が得意だから佐有さんに聞けよ」


 そう言うと重朝は再び乃恵への方へ視線を戻す。仕方かないので佐有さんに聞こうと視線を向けるが、佐有さんの視線は教科書に向けられたままだ。


「……佐有さん」


 遠慮がちに声をかけるが、視線は上がらない。意識が教科書に向いているためか、聞こえていないようだ。集中しているところ、邪魔をするのは悪いので後でいいかと一旦わからない問題は置いて次の問題にとりかかろうとする。


「さーゆゆん。呼んでるよ!」


 乃恵が佐有さんの肩を揺さぶり、意識をこちらに引っ張り上げる。ちょっ、そこまでしなくていいって!


「どうしたの?」


 乃恵に言われた佐有さんは俺に顔を向ける。


「集中してるところごめん。ちょっとわからないとこあって……」

「いいよ、どこ?」


 集中しているところ邪魔されたというのに、佐有さんは機嫌を悪くすることもなく快く受け入れる。


「あーと、ここ」

「それはね……」


 指さすと佐有さんは真横に席を移す。そして、もう少しで肩が触れる距離まで来た。近い! もう少しで肩当たりそう。

 今日の佐有さんはノンスリーブなので制服の時には見えない二の腕が大胆に晒されている。白くて細い。今にも折れてしまそう。う、めっちゃいい匂いする。香水でもしているのだろうか。


「印牧君?」


 意識が別の方向にぶっ飛んでいる俺に更に顔を近づけ聞いてくる。うわー、これ以上近づくと理性ヤバイんですって!


「ごめんごめん、もう一回いいかな?」


 しかし、俺は平静を装い勉強へと頭を切り替える。集中しろ俺。

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