表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/43

26、水色の傘の少女

 待ちに待った放課後。未だに降り続ける雨はやむ気配を見せない。


「忠世、行くのか? 俺も付いて行ってやるよ」


 帰る準備をしていると重朝がそばに来た。偉そうなことを言っているがただ野次馬したいだけだろ。


「お前部活は?」

「雨だから休み」

「お前の方はラブレターの相手はいいのか?」


 こいつも朝ラブレターを貰っていた。その返事はいいのだろうか?

「それは昼に断った」

「また断ったのか?」


 こいつはとてもモテるが、現在俺の知る限りでは彼女はいない。だというのに毎回告白は断ってる。例えそれがすごい美女だったとしてもだ。

 中学時代は何度か彼女を作ったのを知っているが、高校に入ってからは聞いたことがない。本人曰く今は部活優先とのことだ。


「女泣かせなやつだなー。いい加減刺されるぞ」

「こっぴどく振ったりしてないので大丈夫ですー。そんなことより今はお前だ! 行くぞ!」


 何言っても無駄だと俺は諦め、重朝と共に体育館裏に向かうことにした。


「シュット―、マキマキ―。さゆゆんとカラオケ行こって話してたんだけど一緒いこー」


 途中に乃恵がいつものようにタックルしながら飛びかかってきた。痛いっての!


「悪いけど、俺たち用があるから今日は無理」

「なになに? 何の用事?」

「男同士の秘密だ」


 意味深な感じで重朝が答える。何格好つけてんの。


「えー、なにそれ! ずるい。いいもん私もさゆゆんと仲良くするから」


 乃恵は行こうさゆゆんといって佐有さんの手を取って行ってしまった。教室を出る際に控えめに手を振る佐有が可愛いかった。


 ◆


 指定されていた体育館裏へと来た。見渡す限りまだ誰もきていない。ちなみに重朝は物陰に隠れてこちらの様子を伺っている。

 体育館裏だなんて今までほとんど訪れたことはなかったが、思っていたよりすっきりしている。もっとゴミや雑草で荒れているのかと思っていた。きっと用務員さんのおかげだろう。体育館内からバスケ部とバレー部の声が聞こえるが、野外の部活は雨のため休みで外は静かだ。


 フェンスの向こうに見える車道をぼんやり眺めていると、足音が聞こえてきた。振り向くとそこには水色の傘をさした女の子が立っていた。リボンの色は赤、一年生だ。この子が手紙の差出人だろうか? 薄い茶髪のショートヘアがよく似合う小柄な少女。目がクリクリしていて小動物のように愛らしい。

 こんな可愛らしい子が俺に何の用事がるのだろうか。それにしてもこの子どこかで見たことあるような気がするが思い出せない。同じ中学だったりしただろうか。


「君が手紙の差出人?」


 目の前の少女はこくりと頷く。


「あの、センパイ……」


 鈴を転がすような可愛らしい声が俺の名前を呼ぶ。高まる緊張感。こんなに可愛らしい子を今から振らなければいけないなんて罪悪感を感じてしまう。ごくりと唾をつばを飲み込む音がやけに大きく聞こえた。

 少女は傘の中から俺を見つめ、意を決したように口を開いた。


「佐有センパイに近づかないでくれません?」

「え?」


 全く予想外の言葉が少女の口から飛び出て、俺はその場に固まった。完全に告白の雰囲気だったじゃん? え? 一体どういうこと? 佐有先輩って佐有さんのことだよな? 佐有さんの知り合いなのか?


「なんですかその目は? もしかして私が告白するとでも思っていたんですか? 気持ちわるい」


 虫を見るようなすごく冷めた目で見られた上に吐き捨てるように言った。こわ! そんな目で見ないで! 俺はその手の性癖は持ち合わせてないからな。目覚める気もないし!


「では、忠告はしましたので。さようなら」


 それだけ言うと少女は帰ってしまった。訳もわからず俺は途方に暮れるばかりだ。

 てかなんで初対面の少女にそんなことを言われなければならないんだ。時間差で今更ながらにイライラしてきた。


「いったい何だったんだ今の子?」


 物陰に隠れていた重朝が困惑した顔で出てきた。


「知るかよ! あー、なんか腹立つ!」


 ちょっとかわいいからって調子乗りやがって! ちょっとじゃなくて結構可愛かったけど……。いや、そうじゃない。


「100%告白っつったじゃん! 嘘つき!」

「まあ、外れることもあるさ。何はともあれ、残念だったな」


 重朝が慰めのつもりか声をかけてくるが、そんなもので俺の心は癒されない。


「重朝、カラオケ行くぞ」


 そのあと俺たちは、佐有さんと乃恵のカラオケに合流してめちゃくちゃ歌った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ