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25、トイレの神様

「おはよーマキマキー、下痢便大丈夫?」


 トイレを後にし教室に入ると沖田が開口一番にそんなことをにこやかに口にした。女子が声を大にしてそんなこと言うな。隣で佐有さんが訝しげな眼でこっち見てるだろ。


「印牧君、お腹悪いの? 大丈夫?」


 純粋に心配する瞳が俺を見つめる。その気持ちは大変嬉しいのですが、誤解です佐有さん。そんな誤解を招く羽目になった諸悪の根源はというと……。


「おい! 重朝! デマ流すな!」

「もう腹はいいのか、忠世」


 俺の姿を見て近寄ってくる重朝に怒鳴りつけるも、相手はへらへらと笑うばかりで何の効果もない。俺を心配するようなセリフも佐有さんとは全く違い、完全に面白がっている口調だ。


「っで、礼の手紙はラブレターだったわけ? それとも不幸の手紙か?」


 ガシッと肩に腕を回し、顔を近づけて俺以外には聞こえない音声で聞いてきた。こいつ、俺が手紙貰ったの気が付いていたのか。


「っチ、気づいてたのかよ」

「その場で指摘しなかったんだから感謝しろよ」


 あの場には俺たち以外にも多くの生徒がいた。あの時に重朝が口にしていたら不特定多数に知られていた可能性もあっただろう。そう思うと賢明な判断だとは思う。だがしかし、ニマニマ笑うその顔は正直ムカつく。


「っで、どうなんだ?」


 このまま沈黙をつらぬことにした俺を重朝が許すはずもなく、なおも追撃の手を緩めない。


「うるせーお前に関係ないだろ」

「佐有さーん、忠世のやつさ……」

「あ――! やめろ!」


 余計なことを言う重朝の口を慌ててとっさに塞ぐ。こいつなんちゅーことしてんだよ。不思議そうにこちらを見ている佐有さんに何でもないと言って笑顔で誤魔化す。


「ヤ・メ・ロ、バカ!」


 壁際に追い詰め睨みを利かせるが、重朝は以前ニヤニヤしたままだ。ムカつく。


「ラブレターだったのか?」


 これは答えるまでは絶対にしつこく聞いてくる。下手すると佐有さんや乃恵にまで言い出しかねないので俺は致し方なく諦めることとなった。


「……わからないけど、差出人は女子だと思う」

「ヒュー、やるじゃん」


 ヒューって口で言う奴初めて見たわ。懐から先ほどの手紙を渡す。重朝は手紙を開いて一目見ると一言、


「これは確実に告白だな」


 この男言い切った。


「マジで?」


 俺も八十%はそうじゃないかとは思っていたが、残りの二十%はまだ誰かの悪戯ではないかと疑っていたのだ。


「便せんや文字を見るかぎりでは忠世の言う通りこの手紙の差出人は間違いなく女子だ。そして、この文面は百%間違いなく告白だ。数多のラブレターを貰ってきた俺が言うのだから間違いない!」


 どや顔がめちゃめちゃ腹立つが、確かに説得力はある。こいつがモテる様を俺は嫌というほど見てきた。自他ともに認めるモテ男の重朝が言うなら間違いないと確信できた。


「心当たりあんのか?」

「まったくない」


 自他ともに認める非モテの俺に告白してくるような奴は全く心当たりがない。しかも『かねまき先輩』と書いているように相手は一年生だろう。同じ学年なら多少話す女子もいないではないが、後輩となると校舎も違うため会話すらしたことがない。中学時代の知り合いという線もあるが、ずっと帰宅部である俺には知り合いの後輩はいないのだ。


「まあ、相手が誰にしろ断るんだから関係ないけどな」

「そうか、断るのか」


 当然だ。相手がどんな美少女でも俺にとっての一番は佐有さんである。その気持ちは揺るがない。

「殴られないよう頑張れよ」


 と経験者が言った。

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