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21、デート(仮)

 その後当日まで俺は、佐有さんが好きだというユトリロをとことん調べ上げた。ネットで片っ端検索して、近所の図書館にも通った(こじんまりした図書館なので碌なものはなかったが)。佐有さんと話が合うようにその他の絵画の勉強もした。こんなに勉強したのは高校受験以来だ。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。


 待ちに待った日曜日。俺は万全の態勢で今日のデートに臨む。そう、デートだ。誰が何と言おうとデート。

 今日の待ち合わせ場所は現地集合で県立美術館の謎のオブジェの前。なんで美術館とか博物館って入り口前に謎のオブジェ置いてることが多いんだろうな。

 今はまだ待ち合わせの十分前。佐有さんはまだ来ていない。


「印牧くん。待たせちゃって、ごめんね」


 俺の姿を見つけた佐有さんが小走りで駆けてくる。


「全然待ってないよ、今来たところ」


 この会話すっごいデートっぽい! もうこれだけで幸せだ。いやいや、ここから先が本番だぞ印牧忠世!


「日差し強いし、中に入ろう」

「うん」


 じめっとした暑さの外と違い中は冷房が効いており涼しかった。入り口でチケットをもぎってもらい、展示室へと入っていく。


「私今日すごい楽しみで、昨日眠れなかったの」

「そうなんだ。実は俺もあんまり寝てなくて……」


 今日の為に絵画、特に印象派の作家を片っ端から調べつくし記憶に叩き込んでいました。



 展示室は思ったよりも人が多かった。普段美術館に行かない俺はこういうところは年寄りが多いイメージだったのだけれど、予想外に若い人が多い。人の多さの割には館内とても静かでなんだか異様な空間に迷い込んだ気さえする。来場者一人一人が真剣に絵と向き合っている。

 ちらりと横目で見た佐有さんも同様に真剣な眼差しで、目の前の絵と向き合っていた。

 この空間の中で俺一人が不純な動機でこの場所に来たように感じられてひどく肩身が狭く感じる。そう思うと、途端に絵画やそれを描いた画家たちにたいして失礼なことをしている気持になり申し訳なく思った。

 それから先はなんだか恥ずかしくて飾っている絵をまともに見ることが出来なかった。


 ◆


「すごく良かったね。特にルノワール! 私すごい好きだから見れて嬉しかった」


 展示室から退室したすぐに匹田さんは嬉しそうに感想を語り出した。あれだけ熱い眼差しで見つめていたのだ。堰を切ったかのようにとめどなく熱い思いを語る。

 俺は三歩程後ろから彼女が語る姿を眺めていた。


「印牧君? どうしたの、疲れた?」


 振り返った佐有さんは俺の様子に気が付き、気遣ってくれる。ただ彼女の気を引くためだけに付け焼刃の知識を身に着けた自分が情けなくなった。


「すぐそこにカフェあるから休憩しようか。私もお腹減っちゃったから」


 そんな気遣いすら申し訳ない。今すぐ消えてなくなりたかった。


 ◆


 向かいの席でクラブサンドを美味しそうに頬張る佐有さんとは対照的に俺の目の前に置かれたエビグラタンは一向減る気配がない。おそらくそれなりにはおいしいだろうに、今の俺は全く味を感じられない。


「印牧君、全然減ってないけど口に合わなかった?」


 箸の進まない俺を心配した佐有さんが、声を潜めて聞いてくる。この無垢な瞳にさらされるのはこれ以上耐え切れない。俺は懺悔することを決めた。


「ごめん、佐有さん。俺嘘ついてた」

「え?」


 迷える子羊は口を開く。

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