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19、全人類恋人いると思うなよ

 夕飯を食べ終えてソファーに座りボケっとテレビを見ていたら望美姉ちゃんからねえねえとお声が掛かる。何だろうかと視線を向けるとほんのり頬を赤くした望美姉ちゃん。ああ、今日も酔っていらっしゃる。酔っ払いは碌な事言わないことは重々承知しているのでつい身構えてしまう。


「忠世って彼女いるの?」

「いませんけど何か?」


 自分が彼氏とラブラブだからって全人類恋人いると思うなよ。若干ぶっきらぼうな返答になったのは仕方のないことだろう。


「怒るな怒るな」


 何が面白いのか望美姉ちゃんはやけに楽しそうに笑う。笑い上戸だな。


「まあ、友達とでもいいからこれあげるからいってきなさい」


 そう言いながら渡されたのは二枚のチケット。チケットには大きく印象派展と書かれている。そういえば県内の美術館で有名な作品の展示会が行われているとテレビで言っていた気がする。おそらくそれのチケットだろ。


「どうしたのこれ?」


 望美姉ちゃんの趣味ではないような気がして、彼女がこのチケットを持っているのに違和感を感じた。


「友達に貰ったの。でも私もカレシも興味ないからあげる」


 そうは言うものの、俺の知り合いにもこういった類に興味のありそうな人が思い当たらない。


「もしかして、忠世友達もいないとか?」

「流石にそれはいる」


 このいとこはいったい俺のことを何だと思っているのだろうか。まあ、その友人もたいして多くはないので当たらずとも遠からずといったところなのだが……。

 望美姉ちゃんはにんまりと笑みを作ると、ずいと顔を寄せてきた。こんな笑みの望美姉ちゃんは碌なことを言い出さない。


「なんならさ、これ持って例の子さそいなよー。あんたが好きだって言ってた子。まだ告白すらしてないんでしょ?」

「な……!」


 俺が反論する前に望美姉ちゃんは俺から距離をとると「頑張れ少年」と言いながらサムズアップした。

 全て見透かされた感じがなんかむず痒くなり俺は「うるせー」と悪態をつきながら風呂場へ向かった。後ろからおふくろが「望美ちゃんになんて口の利き方してんの!」と叫んでいるのが聞こえてきたが、無視だ無視。

 なんだかんだで返しそびれ、手に握ったままの美術展のチケットの存在を思い出し、戸棚からタオルを取り出しながらどうするかなと呟いた。



 一晩中考えた結果、俺はダメ元で佐有さんを誘ってみることにした。べつに望美姉ちゃんに言われたからではない。佐有さんはもしかしたらこういうの好きかもしれなと思ったからだ。

 しかしよくよく考えると、俺は佐有さんのことをよく知らない。好きなものや嫌いなもの。趣味や特技などなど。俺の知っていることと言えば、少しだけ耳が悪く、オムライスが好きで、ボウリングが得意ではなく、私服はかわいい系で、中学時代はいじめられていたことと、笑うとものすごく可愛いというぐらいだ。


 美術系に佐有さんが興味がなかったとしても、これをきっかけに趣味など聞きだしてみるのもいいかもしれない。その時は望美姉ちゃんの友人には悪いが、チケットはゴミ箱行きだ。

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