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春の陸 イチゴジャム

 早春はイチゴの季節だ。


 ビクターの働いている農産物の直売所にも、かなり早い時期から地元のハウス栽培のイチゴが並ぶ。

 ビクターにとってイチゴは、好きな方だけどわざわざ自分で買って食べるほど大好きというほどではない果物だった。

 イチゴが並ぶのを見ても、今年もそんな時期が来たかと思う程度だった。


 ただ、毎年気になっていることがある。

 それはジャム用イチゴ。

 一キロくらい入るパックにぎっしり詰められて、だいたい千円くらい。

 形の悪いイチゴや小さくて正規品として売るには申し訳ないようなものを、ジャム用として売っている物だった。


 「……今年は作るかぁ……」


 ビクターは毎日パンを食べる生活はしていない。

 できれば朝食も色々な物を食べたいと思ってしまう。さらにパンでも味付けを色々変えたい。

 ジャムを作ると早く消費する必要があり、同じものが続くのが嫌なビクターは避けていた。

 ならば瓶詰にして保存すればいいと思うかもしれないが、一食分の瓶を多数準備するのが面倒だったのだ。


 ただ、今年は何となく作ってみたい気分になって、一パック買ってみた。


 それからホームセンターに行って、一食分のジャムが入る程度の保存用の小瓶を買ってきた。

 掌に数個乗るくらいの、小さな瓶だ。


 帰宅後にまず、イチゴをきれいに洗ってヘタを取る。

 ここでイチゴを食べやすい大きさに切っておいてもいいが、ビクターは丸ごとだ。その方が美味しそうだから!


 イチゴの重量を計って、重量の五割の重さのグラニュー糖を準備した。砂糖が多い方が保存がきくが、甘さは好みでいいだろう。早めに食べて保存を考えないなら、減らしてあっさりとしたジャムにしてもいい。

 とりあえず、今回は試しと言うことで五割の重量だ。


 イチゴをボウルに入れ、グラニュー糖をぶっ掛ける。

 第一段階はそれで終了だ。


 そのまま半日以上放置して、イチゴから水分が出てグラニュー糖が溶けるまで待つ。

 たまに思いついたときにかき混ぜて、グラニュー糖を馴染ませながら待った。


 「いい香りがしてる!」

挿絵(By みてみん)

 半日ほどするとグラニュー糖にイチゴの水分が吸い出されたせいか、周囲でもイチゴの良い香りがしていた。


 「さて、煮るか。その前に瓶を準備しないと」


 先に保存用の瓶を洗って、煮沸消毒をする。

 いきなり熱湯に冷えている瓶を入れると割れることもあるので、水の入った鍋に瓶と蓋を入れて沸騰するまで温めていく。


 沸騰したら火傷に注意しながら取り出し、お湯を切って乾燥だ。使う時に多少水滴が付いていても大丈夫だが、気になるようならこの段階でキッチンペーパーなどで拭き取っておくといい。

 そこまでできたら、本番のジャムに取り掛かった。


 水分が出たジャムとグラニュー糖を鍋に移しレモン一個分のレモン汁を加えて、ゆっくりと加熱。

 最初は出ている水分が少なくて焦げ付く可能性もあるので、まめにかき混ぜて温めていった。

 レモンを入れるのは、ジャムがトロリと固まるようにするのと、色をよくするためらしい。なんかそういう成分があるとかないとか……。


 とにかく、煮て行って水分が出てふつふつと沸騰してきたら、吹きこぼれない程度に火力を調整して煮込んでいく。

 ここまできたら、ほとんど焦げないのでかき混ぜるのはやめても大丈夫。


 灰汁がでてくるので、適度に取り除く。

 煮込むとイチゴから色が抜けていくが、焦らない。さらに煮込めば色が鮮やかに戻ってくるのだ。

 不思議だが、面白い。


 「もういいかな?いいよな?」


 色が戻ったあたりで加熱は終了。

 火を止めて、熱々のまま速攻で瓶に入れる。

 そしてしっかりとふたを閉めて、瓶をひっくり返した。


 ひっくり返すことで、瓶の内側や蓋の裏にまんべんなく熱々のジャムがくっ付き、最終的な加熱殺菌ができるらしい。ビクターは菌は見えないので、そういうものなのかと信じるしかない。

 そのまま冷まして蓋の真ん中を抑えてベコベコした指触りがなければ、上手く中が真空に近くなっているので長期保存可能だ。

 熱したものを入れると中の空気が膨張して、冷えると空気が縮んで真空に近くなる……これはこちらの世界に来てから知った知識だった。

 ただ瓶詰のような保存食は以前の世界でもあったので、ビクターが知らなかっただけかもしれない。

 読み書き計算くらいしかまともな教育は受けていなかったビクターだった。


 とにかく、中の空気が真空に近くなっていないと外気が入って腐りやすくなるので、その場合は早く食べないといけないらしい。


 「よし、完成!」


 掌にのるほどの一食分の小瓶に入れた、鮮やかな色のイチゴジャムを見て、ビクターは満足そうに微笑んだ。

挿絵(By みてみん)


 「瓶が足りなかったなぁ」


 予想よりイチゴの量があったのと、グラニュー糖の分が増えるのを考えていなかったために、保存用に買った小瓶が足りなくなってしまった。

 仕方がないので小瓶に入りきらなかった分は、少し大きめの瓶に入れて早めに食べてしまうことにした。

 数日は朝ごはんにパンが続くことになるが、まあ仕方ないだろう。


 「こうなると美味しい食パンが欲しくなるな。買いに行くか」


 ジャムにはフランスパンなどより、断然、食パンだろう。

 そちらの方が甘みに合う。


 ビクターは一息つくと、パンを買いに出かけるのだった。




 そして次の日の朝。

 イチゴジャムの出番が来た。


 ビクターは両面焼いたトーストにバターを塗り、そこにジャムを乗せるのが好きだ。


 「うまそう!」

挿絵(By みてみん)


 煮込む時間が短かったのか、ジャムが固まらず流れてしまったが、粒そのままで大きく美味しそうなのは間違いない。

 後日ネットで調べてみると、固まるジャムになるか調べるジャムチェックと言うのがあるらしい。

 煮ている最中に水に少量のジャムを落としてみて、散らばらず底まで落ちていったら固まるジャムになるそうだ。

 次に作る時は忘れずに試さないといけないと心に刻んだ。


 とにかく、今はジャムトーストだ。


 ビクターは大粒のイチゴを落とさないように注意しながら、肉食獣ぽく大口を開けてパンを齧る。

 さっくりとしたトーストが、イチゴのしっかりとした味と香りを受け止めてくれる。繋ぎになるのはコッテリとしてわずかに塩味を感じるバターだ。


 「美味いなー。来年も作るか。保存用の小さな瓶も買っちゃったことだし」


 去年までは作る気すらなかったくせに、食べ始めるとそんなことを考えてしまうビクターだった。




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