幼年時代、冬 part2
時は砂時計。不可逆的に流れる時間を誰も巻き戻すことはできない。少年と少女は中学生二年生になっていた。
二人の住む街に記録的な積雪が観測された。たぐいまれな豪雪の年だった。
「お父さんとお母さんが家に帰らないの。どうしよう、どうしたらいいんだろう」
少女はひどく取り乱していた。荒れた暗い吹雪の中、助けを求めに少年とおじいの家まで駆けつけてきたのだ。街はポツリポツリとその灯りを落とし始めていた。
「まずは、おじいに相談してみよう」と少年は努めて落ち着いた口調で言った。そして、少女の手を連れておじいのもとへ走った。
「おじい!」
事情を聞いたおじいは困ったという顔をした。
「両親はお仕事で街の外に出てるんだろう?おそらく、この大雪のせいで立往生を食らっているんだろうな。ちょっと様子だけでも見てくるから、二人で待っといてくれ」
そう言うとおじいは、軽トラの雪をあらかた落とし、エンジンをふかして車を出した。
二人はおじいの部屋で待機した。木の匂いが漂っている。カマドの中で橙赤色の炎が揺れ、時おり激しく火花を散らした。窓には結露した水滴が涙のように垂れていた。体育座りをして腕の中に顔を埋めた少女は、体を小刻みに震わせながら、やはり泣いていた。
少年には、少女の置かれている状況がどうしても他人事だとは思えなかった。寂しくて寂しくてぶるぶる震えるような孤独で寒い夜を、少年は知っていたから。
少年は少女の肩に緑色の毛布をかけた。しばらくして少年は、途方もない暗闇に火を灯すように、静かに少女に語りかけた。
「僕たちが最後にまともに話した時のこと覚えてる?去年、入学式の日の放課後、おじいときみの両親が喋っている間の、ほんのわずかな時間のこと」
少年は指でなぞるようにその日のことを思い出しながら語り始めた。少女は黙って耳を傾けていた。
・・・
「クラス、離れちゃったね」
「うん」
「…あのさ」と少女は言った。
「なに?」
「私の目って変かな?」
「目?」
「うん」
少年は促されるようにして少女の瞳をみつめた。何も変わらない、透き通った芯の強い目。まつ毛が長くて、天然の二重。それでいてちょっと青い瞳の色。…青い瞳?
「私には、ロシアの血が流れてるんだって」
・・・