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これだから大人ってヤツは信じられない(中)

「……反省しましたか」

「しました」

「しました」


 濡れ鼠のリヒト上級神官と傭兵のベルクが、しょんぼりと座り込んでいる。

 私はその姿を見ながら先程のことを思い出し――胸の痛みに付随して、思わず瞳からこみ上げてきた熱いものを、ローブの袖で拭った。


 ――あんた、すごい迷惑――


 最後のその言葉を思い出すと、再び眼の根っこの辺りが熱くなるような気がする。引き結んだ唇が震えているのを自覚しながら、私は眼の前のおっさん2人を睨みつけた。

 あれから、ブチ切れたタクトに魔力で追い立てられて、無理やり部屋を追い出された。

 おっさん達は酔っていて目を白黒させていたので、たった今、井戸の前に並べて頭から水をぶっかけたところだ。ようやく正気が戻ってきた大人2人が、並んで申し訳なさそうにこちらを見上げている。


「……っ……せっかく、おな、同い年くら……初め、て仲良くなっ……」

「おう!? そ、そうか。お前さんにとっちゃ初めての友達か」

「そうなの? まさか神官さま、友達いない――」

「とっ……とも、友達なれ、ると思った、のに……」

「悪かったよ。お前さん達を置いてこっちで盛り上がっちゃって」

「うん、おれも悪かったと思って――おい、そんな泣くなよ」

「んなっ泣いてま……せんぅ……!」


 ごしごしと袖で両眼を擦っていたら、びっちょびちょの手でリヒト上級神官が頭を撫でてきた。


「よしよし、悪かった、悪かった」

「あーあ、まさか勇者さまが酒を一滴も飲まないとは」

「男同士、酒盛りすりゃ、大体仲良くなれるもんなんだがなぁ、飲まないんじゃどうしようもないし」

「後は、連れ立って娼館に行くって手もありますなぁ」

「ふぃっ……あなた方は! そんなのしか思い付かないのですか、もう! もうっ!」


 ぶんぶん両手を振って、頭に乗ったリヒト上級神官の手を振り払う。


「ひっく……もう良いです! あなた方にはもう頼りませんから!」

「え、イヤほら、おれ達も悪かったからさぁ、あれだ。お詫びに何か……」

「そうそう。神官さま、何かねだって良いですよ」

「あれか? 新しいドレス仕立ててやろうか? ほら、こないだのは気に食わなかったから」

「あ、馴染みの女紹介しましょうか? 良い女だし。それとも一緒に娼館行きますか?」

「――っこのばか大人が!」


 おろおろする大人2人を置いて、私は駆け出した。

 2人とも、私の気持ちなんか分かっちゃいない。

 折角仲良くなれそうだったタクトに、どうしようもなく嫌われてしまった私の気持ちなんか。

 勝手なことばっかり言うんだから――と、宮殿の中へ駆け込みながら、ふとタクトの言葉を思い出した。


 ――良かれと思ってやれば、何でも受け容れられると思ってるの? いつもいつも黙って勝手に話を進めやがって――


 それって、もしかしてこういうこと?

 私の気持ち全然分かってないって、私がリヒト上級神官やベルクに怒るのと同じように、タクトも――私に、分かって欲しいと思ってるってことなんだろうか。

 しゅんしゅん鼻をすすりながら、自分の部屋へと駆け戻った。



●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●



 目が覚めたら、真っ暗だった。

 寝落ちしたらしい。

 さっきまで確か、机に向かってタクトとの仲直り大作戦を考えていたはずだったのだが。


 身体を起こして初めて、自分がきちんとベッドに寝転んでいたことに気付いた。

 おかしい、と思いつつ起き上がり机上を見ると、晩餐代わりに麦餅とチーズが置いてあった。

 ついでに、机上に広げっぱなしのパピルスに、上級神官以上だけが使える赤インクで訂正が入っている。


 どうやら寝ている間にリヒト上級神官がきたらしい。

 それに……朱書きの内容を見るに、傭兵のベルクも一緒だったみたいだ。文字はリヒト上級神官のものだから、代書してるのだろうけれど。


『ボツ』

『これはマズいですよ、神官さま』

『こういう時は平謝りが一番』

『訳分からん策とか、止めた方が良いです』


 私の考えていた『突然の魔物の襲撃。平和なはずの宮殿に入り込んだ魔物が向かう先はただ1つ。とっさにタクトを庇うのはルイーネ上位神官。身を呈した友情にタクトの心は揺れる。次回、仲直りの行方』作戦は、ダメ出しの嵐だった。何故。

 一眠りした後でも、タクトのことを思い出すと、今すぐもう一度謝りにいきたい気持ちになる。


『とりあえずこれ食って、一晩ゆっくり寝て頭落ち着けろ』

『勢いで始まったケンカってのは、頭冷やせば何とかなりますから』

『くれぐれも、このまま勇者さまの部屋に突撃しようとか思うなよ』

『勢いに勢いを重ねて、良いことなんかありませんからね』


 くきゅるぅ、とお腹が鳴った。

 おっさん達のアドバイスに従う訳ではないが――やはり、今日はもう少し頭を冷やそう。

 机上の麦餅に手を伸ばしながら、最後に端っこの小さな朱書きを発見した。


『色々悪かったな』

『ごめん』


 私だってタクトの部屋へと2人を誘ったのに、全部2人のせいにした。

 そんな自分は2人に謝るべきだ、と今更思っても、そんな隙はくれないつもりらしい。

 大人達が謝罪して、そして私は――甘やかされたまま、これで明日からは元通りだ。

 ……これだから、大人は。


 言葉の後に「ずるい」と「すごい」を交互に入れつつ、私はシーツの中に潜り直した。

 何もかも、もう……明日にする。明日こそはタクトに謝りに行くんだから。

 そのついでに、リヒト上級神官とベルクのところへも行こう。

 謝罪と、そしてお礼の為に。

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