プロローグ
「今の気持ちを教えてください」
「とっても嬉しいです」
此処は桜林町にあるチェリーホール。このホールでは今日、名誉あるピアノコンクールが行われていました。その優勝賞品はフランスへの留学。その権利を手にし、記者に囲まれてインタビューを受けている子がこの物語の主人公、愛華です。
「今、貴女が感謝したい人は誰ですか?」
「ここまで私を導いて下さった先生ですね。それから支えてくれた父と兄、そして同じ学校のクラスメートたち。そして今は天国に居るピアニストだった母です」
「ではピアノはお母様から指導していただいたんですね?」
「はい、そうです」
「お母様の名前は?」
「私の母は幼少期からその名を知られていた天才ピアニスト、夢美園瑠璃です」
自分の母が著名なピアニストであった事を記者たちに話した途端、愛華は質問責めにされました。そんな愛華を遠くから見守っている人が2人居ました。愛華の父と兄です。
「やっぱり愛華には音楽の才能があるんだな」
「あぁ。俺よりもな」
「本当に良い演奏だった」
「愛華が決勝で弾いた曲は母さんの十八番だったからな。愛華の中でも大切な曲なんだろ」
「そうだな」
インタビューを受ける愛華の様子を見ながら、兄の聖夢は昔を思い出していました。ピアニストの母から指導を受けて実力を付けていった愛華。そんな妹が聖夢にとって自慢なのです。
「なぁ、父さん」
「何だ?聖夢」
「俺、母さんが亡くなる前に約束した事があるんだ」
「そうか」
「絶対に何があっても愛華を守るって」
「愛華想いの聖夢らしいな」
「まぁな。けど愛華が入院している時は愛華の幼馴染の銀河君に助けられた。愛華が最悪の宣告を受けた時は銀河君と愛華のクラスメートが来てくれた。年下だけど感謝してもしきれないな。父さんもだろ?」
「あぁ。本当に愛華には良い仲間が居るんだな」
「俺もそう思う」
「これから愛華はフランスに行く。きっとお礼がしたいだろうな」
「多分な。本人に聞いてみようぜ」
「えっ?」
兄の聖夢と父の聖二が見ていると記者に囲まれた愛華がこちらにやって来ていました。その愛華を導く同い年くらいの男子が1人。それは愛華の幼馴染である銀河だったのです。
「おめでとう、愛華。良かったな」
「うん!ありがとう、聖夢お兄ちゃん。ねぇ、お父さん」
「どうした?」
「お母さん、喜んでくれてるかな?」
「あぁ。絶対に」
「良かった」
「ねぇ、愛華。これで憧れだったフランスに音楽留学できるんだよね?」