6.相談事と夜のお話
『ユキちゃん、やっほー!今大丈夫?』
「うん、大丈夫。何かあった?」
『もう!後で連絡するっていったでしょ?それで、一緒に狩りに行こうって』
「……うん、忘れて、ないよ?もうそんな時間だったんだね」
夕方ぐらいに連絡するって言ってたのを思い出しました……。決して熊さんと戦ってたのが楽しくて夢中になっていたわけではない……はず……。
『ほんとかな~?まぁいつものことだからいいけども。それでどうかな。それともまだ狩りとかの途中だったり?』
「えっと。実は今パーティ組んじゃってるんだよね。一段落したところではあるんだけど」
『もうパーティ組んでたのね。ん~、その人はあたしも知ってる人?』
「多分知ってると思うよ。2人いて一人はユリさんで、もう一人はドラコさんっていう人」
『おおっ、ユリさんだけじゃなくてドラコさんもいるんだね!なら丁度いいかも』
なんでも、わたしに声をかけて大丈夫だったら、ユリさんとドラコさんも一緒に誘うつもりだったとか。そこで丁度いい具合に全員がそろっているから、聞いてみてほしいとのこと。
「えっと、ユリさんとドラコさん。ちょっと大丈夫かな?」
「うん、一段落したから大丈夫よ。どうしたの、ユキちゃん」
「うむ、我も問題ない。それで、何か夏絡みで何か問題でもあったのか?」
なんかちょっとわかってる風のドラコさん。こういうってことは、結構何かやらかしてたのかな……?うん、なっちゃんだしあり得る……。
とはいっても今回は問題じゃなくて相談なんだけども。
「えっと、なっちゃんと狩りの約束をしててその連絡だったんだけど、二人も一緒に行かないっていうか、ちょうどわたしたちが一緒だったから、このまま一緒にパーティに入れてってことみたいなんだけど」
「私は問題ないかな。というか面白そうだしね」
「うむ、我も問題はない。むしろ先約を邪魔してしまったのではないか?」
「ううん、ぜんぜん大丈夫。というより言ってなかったのはわたしだし……。それに、声かける予定だったってなっちゃん言ってたから、むしろちょうどよかったぐらいだと思う」
「それならばよいが。ともかく、どこかで合流する必要があるのだが、どうするか」
「それなら、一度戻ってもいいんじゃない?何処行くにしても街なら移動しやすいから」
「なるほど、確かに。それじゃぁ、ちょっとそれでなっちゃんに連絡しちゃうよ」
早速、なっちゃんにも連絡したら、それで大丈夫ってことなので、3人で街まで戻ることに。ちなみに集合場所は街の南門なのです。う~ん、何か忘れてるような気もするけど、きっと気のせいだよね。というわけでとりあえず、レッツゴー!
○●○●○
行きと同じく、帰りも雑談してたらあっという間に南門です。
その中には、今回の狩りの主な戦利品の茶熊の毛皮の使い道とかもあったりするんだけど、そのうち三人分の防具分を除いた分をドラコさんが加工して、その売上げを三等分することになったんだ。
三人分の防具ももちろんドラコさんが作成するみたい。性能のほうは任せてくれ、っていってたから結構期待してます。それと、ついでにわたしが一人で倒した時の分もせっかくなので合算してもらうように頼んであります。
そんな感じで戻ってきたんだけど、やっぱり毎回思うんだけど、門のすぐそばのうさぎさんエリアはところどころでうさぎさんがまったりしててかわいいんだよね。
それと出発したときと同じく、やっぱりこの辺りに狩りに来てる人はほとんど増えてなくて数人だった。あまり人がいないのはちょっと寂しいけど、モンスターがのんびりのびのびしてるのはほんわかしていいかも。
一緒にごろごろしたりしたいけど、かわいく見えても敵モンスターだから下手に手が出せないのがちょっと残念。仲間にしたりできるスキルとかあるのかな?後で確認しなきゃ。
そんな感じで周りを見てると、門の近くで発見です!お昼の時に分かれた時から衣装が変わってて、ちょっと魔女っ娘っぽくなってます。小柄なアバターと相まって、まさに魔女っ子っていう感じです。
「ユキちゃんっ!こっち!こっちだよー!」
ぶんぶんといった感じで、杖の下のほうをもって大きく振り回してて、すっごい目立ってる。門のところにいる衛兵のNPCさんは、ほほえましいものを見るような、ちょっとあたたかい目で見てる。うん、めっちゃ目立ってます。
とりあえず早く合流しなきゃ、だよね。というわけで、お二人に断わってからなっちゃんの元へダッシュです。
「なっちゃん、ごめんね。だいぶ待った?」
「ううん、ぜんっぜん大丈夫。今来たとこだよっ。それより、狩りのほうは順調だった?ユリさんの装備は大丈夫だったかな?」
「うん、どれも順調だったかな。ユリさんの装備はかなりすごかったよ。もらっちゃったのがちょっと申し訳ないぐらいかな」
「ならよかった!初日なのに殆ど放置状態だったから、ちょっと心配だったんだよね……。でも順調ならよかったよ~。それから、ドラコさんとユリさんは戦闘も結構すごかったでしょ?」
「うん、二人とも凄く的確で、熊さんがかなりサクサクだったんだよね。それより、なっちゃんもお昼の時はまだ始めたばっかりの冒険者っぽい服装だったのに、今は魔女っ子になってるんだもん、びっくりしちゃったよ」
「この服かわいーでしょ?もう少しで転職だし、そこそこお金もたまってたから、脱初心者もかねて新調したんだ!ふふん、あたしは正義の魔女っ娘なのだー!」
そんなことを言いながら、腰に手を当ててポージングしてる。うん、ぴったりとはまってる感じ。そんな風にしてきゃいきゃい盛り上がってます。
「うむ、夏にユキよ。盛り上がるのはかまわないのだが、我らを忘れていないか」「いやー、夏。その恰好と相まって、見事なロリっ娘ね。すごいお持ち帰りしたい感じ」
「あ、ドラコさんにユリさん!ドラコさんはお久しぶりで、ユリさんはお昼ぶり!どうどう、この格好。似合ってるでしょ?」
なっちゃんは、びしっと片手を上げて挨拶をした後に、さっきと同じように一回転して決めポーズ。
うん、やっぱりはまってる感じがする。アニメとかのキャラクターにあこがれる女の子って感じで、見た目と相まってかわいい。
「うむ、似合っているはいるが、な……。それより、ユキと狩りに行くのに我らがいて丁度よかった、とのことだったが。何かでかいのでもやるのか?」
「ドラコ、それもいいんだけど、帰ってきたばかりなんだから。準備が必要かもしれないし、いったんどこかで落ち着いて話ましょ」
「それなら、お昼の時の喫茶店とかどうかな?ちょうど広場にあるから、いろいろ動きやすいしね。そ・れ・に、ユキちゃんに見せたいものもあるしねっ」
「ふむ、そういえばそろそろそんな時間か。うむ、ならばそこにするか」
全員賛成で、お昼の時の喫茶店に向かうことに。あそこケーキ美味しかったんだよね。結局、なっちゃんに何があるの?って聞いてみたけど、行けばわかるよっていうだけで。当然ながらユリさんとドラコさんからも同じような感じ。
う~ん、とりあえず横に置いとくとして。みんなで喫茶店に出発です。いざ、ケーキのために!なんちゃって。
○●○●○
「う~ん、おいしー!やっぱり、ケーキはイチゴショートだよねっ!」
注文の品が運ばれてきて、目の前に置かれたら早速とばかりに、口に運ぶなっちゃん。顔が幸せそうににやけてます。ここのケーキおいしいから、その気持ちはちょっとわかるんだよね。今回もお昼の時と同じく4人でテラス席に。なっちゃんと私がイチゴショート、ユリさんはチョコレート、ドラコさんはモンブランです。
早速わたしも一口。ん~、おいしー!熊さんとの戦闘で疲れた体に甘さが染み渡ります。かなりスプーンがすすんじゃって、あっという間に食べ終わっちゃった。うん、ケーキを追加しましょう。なっちゃんは、いつの間に追加注文したのか、2個目をつついてます。
「それで、夏。何処に狩りに行く予定なのだ。普通であればサクッと決まるのだろうが、ユキがいる。逆に選びにくい気がするのだが」
「そうねぇ。ユキちゃんがいればたいていのところは何とかなりそうだものね……」
「ふっふっふー。実はもう行先は決めてあるのだ!標的は~、な・ん・と!灰色熊だよっ」
「な、なんだってー?!……って普通ならいうところだけど、ユキちゃんがいるものね」
「そうだな。しかしだからこそこの時間か。ところで――」
3人で何やら行先を話し合ってるみたいだけど、わたしはよくわからないので、すべてお任せです。聞こえてきたところ灰色熊とかってのを倒しに行くのかな?う~ん、動物園とかにいる白熊さんの親戚なのかな?
そんなことを思ってると、追加のケーキが運ばれてきました。店員さんありがとー!追加のケーキはチョコレートにしました。うん、程よい甘さでおいしいです。
は~、幸せ~。それにゲームだから太らない!これ大切!は~、うまうま。
「……ユキよ。話を聞いてるか?」
「ほぇ?……あぁ、うん。き、きいてましたヨ?熊さんだっけ?」
「……まぁ、間違ってはいないが、な。対象はアッシュベアで、名前の通りの灰色熊だ」
うん、熊さんです。間違ってはいません。決してケーキがおいしくて、話が完全に飛んでたわけではないのです。
「あはは。まぁ、ここのケーキおいしいもんね。ざっくりいえば、灰色熊の討伐かな。詳しく説明すると――」
それから改めて説明をいただきました。
狩りの目標はアッシュベアっていう灰色の熊さん。何でもさっきまでいた茶色の熊さんのところの森の奥にいるボスモンスター兼ユニークモンスターらしいんだ。
情報としては、茶色の熊さんがそのまま強くなったような感じらしいのと、夜にしか出てこないこと、稀に灰色熊じゃない個体が出る場合があるとのこと。
「なるほど。あれ?それなら、最初から森のところで集合すればって思うんだけど」
「それこそが落とし穴なのだよ、ユキちゃん!ユキちゃんはそもそも、防具類が盾しかないでしょ?仮にもボスなんだから、事前準備はしないと、ねっ。それから、もうちょっとで面白いものが見られるからねっ」
そういって、なっちゃんは噴水のほうを指さしたんだけど、噴水で何かあるのかな。
そうして噴水のほうを見て少ししたら、徐々に空が暗くなってきたのです。昼から夜にちょうど移り変わる時間帯だったみたい。……って、夜で噴水っていったらもしかして!
あっという間に、あたりが真っ暗になったところで、噴水から勢いよく4本の水柱が吹き上がりました。それぞれ、赤、青、黄、緑の光が下からあたってるみたいで、それぞれの色に光り輝いてます!
暫くしたら、今度は断続的に打ち出される形になって、それぞれに四色の光が切り替わりながらあてられて、まるでカラフルな螺旋が空中に伸びてくように。一段落してまた真っ暗闇になったと思ったら、噴水の中央を隠すように水が噴き出して、水のヴェールの出来上がり。これも当然色とりどりに光り輝いてます。
そして、水のヴェールに隠された中央から、今度は真っ白い光に照らされた水がゆっくりと吹き上がってます。まるで星が天に向けて登っていくようで、とっても綺。
徐々にその光が高くなり、水のヴェールから完全に顔を出してきたところではじけるとともに、噴水は元通りの穏やかな放水にかわっちゃった。それとともに、周囲の街頭に火がともって、周囲も明るく照らし始めて、夜の街並みの出来上がりといった感じに。
うん、とっても幻想的でした。終わった後も、噴水でとんだ水が霧状にあたりに漂ってて、まるでダイヤモンドダストのようにきらきらしてて、幻想的な雰囲気に拍車をかけてます。
ほえ~、これは確かにすごいかも!これは街にいるときは毎回でも見たいぐらいです。
○●○
「ユキちゃん、どうどう?すんごいでしょ!初めてだと結構衝撃的だよね!……ユキちゃん?おーい、生きてるかーい?」
「うむ、返事がないな。まぁしばらくすれば戻ってくるだろう。我も初めて見たときは感動したものだ。まぁそれはさておき、灰色熊に向かうにあたっての準備だったか」
「ユリさんもドラコさんも装備面は特に問題ないよね?あたしも大丈夫だから、そうなるとユキちゃんが問題なのと、保険の消耗品類があればおっけーだよねっ」
「防具関連なら、ちょうどいいのがいるじゃない。ドラコ、さっきの茶熊の毛皮を使ってちゃちゃっと作っちゃえばいいんじゃないの。私もその間にユキに見せるって言ってた重盾作ってくるから」
「うむ、そうするか。とりあえず簡単なものを作ってくるとする。ユリよ、そちらは1時間ぐらいあれば大丈夫か?」
「うん、それだけあれば余裕よ、余裕。雑貨は夏、お願いね。それじゃ、また1時間後に集合場所は南門でいいよね?」
「おっけー!ユキちゃん再起動させたら、あたしは雑貨屋を巡ってくるよっ」
「うむ、ではまた後でな」
「さて、ユキちゃんを再起動させなくちゃっ。とりあえず、こういう時の定番は~、っと。ていっ」
○●○
「はうっ」
ぼーっと余韻に浸っていたら後頭部に衝撃が、あうぅ。振り返るとなっちゃんが仁王立ちしてます。
「あ、なっちゃん。あれ、ドラコさんとユリさんは?」
「みんな手分けして準備することになって、二人なら先ににいっちゃったよっ。あたしたちも早速いくよっ」
そういえば、灰色熊の討伐に行くんでした……。その準備としてなっちゃんと一緒に街をまわることに。ついでにお店を巡って案内もしてくれるって!この喫茶店ぐらいしか知らないから、ちょっと楽しみ。
というわけで、お店めぐり……じゃなかった。討伐準備にレッツゴー!