4.試し切りと熊さんのお話
それから改めてWWWにログイン。現実時間だとログアウト1時間半ぐらいだから、ゲーム内だと3時間ぐらいたったのかな。
相変わらずの街並みがやっぱり新鮮。暫くしたらこれも慣れるのかな?まぁそれはともかくとして、とりあえず装備品がどうなってるのか、ユリさんに連絡してみようかな。というわけで、早速ウィスパーの申請を出してみることに。
『あ、ユキちゃん?もう少しで終わるけど、受け渡しはどうしようかしら?』
「あ、本当ですか?それなら取りに行っても大丈夫ですか?」
『うん、大丈夫よ。それじゃちょっと工房までお願いね』
ユリさんから工房の場所を聞いて、取りに行くことに。広場から西のほうは職人街というか、製造関係の初歩の練習ができる施設がそろっているんだとか。ユリさんに教えられた工房もNPC運営の鍛冶の初歩を鍛えられる共有施設みたい。
工房に入ると、丁度奥からユリさんが出てくるのを見つけられた。丁度いいタイミングだったのかな?
「あ、ユリさん。終わったところですか?」
「あら、ユキちゃん。ええ、丁度いいタイミングね。ついさっき終わったところよ。それじゃ、ちょっと確認してみてくれるかしら」
そういって剣と盾を渡されました。
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鉄の剣
STR+4 耐久:A 品質:A
― 鉄でできた直剣。片手で扱えるように作られており、扱いやすい。
品質がよく若干性能がよい。
製造者:ユリ
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鉄の盾
VIT+4 耐久:A 品質:A
― 鉄で造られた丸盾。小ぶりながらも頑丈に作られており、扱いやすい。
品質がよく若干性能がよい。
製造者:ユリ
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手に持ったりして感じを確かめてみると、しっかりとしたつくりで扱いやすい感じ。木剣や木盾に比べると少し重量感があって、いかにもっていう感じ。うん、やっぱりこうでなくっちゃ。いけない、ちょっと口元がにやけちゃってるかも……。
しかも、木剣と木盾から比べるとそれぞれの数値が明らかに上がってる。こんなのをもらっちゃっていいのかな、って思っちゃったり。とか思いつつ、ちゃんとありがたくいただいて使わせていただきましょう、後は実際に熊さんと戦えばわかるかな?
耐久っていうのは、いわゆる武器の耐久度でAからEの5段階。Aに近いほど耐久性が高いとかで、丈夫なんだとか。またずっと使いっぱなしでいいというわけではないみたいで、定期的にメンテナンスは必要とのこと。
品質は、なんでも製造によって作られたものには必ずついて回るそうで、こちらもAからEの5段階。Aに近くなるほど品質がよくなって、装備品がちょっと強くなるんだとかで、威力が上がったり耐久性があがったりだとか。
お店とかで販売されているものは基本的に耐久も品質も共にC~D相当っていうことも教えてもらえた。
「どうかしら、問題なさそう?」
「はい、大丈夫だと思います。どうもありがとうございました」
「それじゃ、後は実際に使ってみて、って感じになるかしら。それから装備品のメンテも受け付けるから、何かあったら連絡してね」
「わかりました、その時連絡します」
木剣と木盾に比べてどれぐらいかわったか、試しに行かなくちゃ。やっぱり熊さんかな?
「ユキちゃんはこの後、熊のところに行くのよね、多分だけど。よかったら私も一緒にいっていいかしら?」
「大丈夫ですよ。というかわたしも誘うかと思ってたので」
「本当に?それならよろしくね。それともう一人ほど誘ってもいいかしら?皮製品を扱える知り合いがいるから、数確保したら防具にしてくれると思うの」
おお、新しい職人さん!新しい防具は魅力だし、職人さんにはこれからお世話になる確率が高いし、願ってもない申し出だよね。
「わたしは大丈夫です、っていうか熊の毛皮ってそこそこいいんですか?」
「序盤では結構強いって感じかしら。まだ狩れる人は殆どいない、っていうより間違いなくいないと思うから、儲けも期待できるのよ。試しが終わったら狩りに参加させてほしもらえたら、と思って」
うふふって、ちょっと悪い感じで笑うユリさん。なるほど、確かに儲けられるっていうはちょっと魅力的。わたしも特に問題ないし、それにパーティで狩りっていうのも興味があったから、即承認。なっちゃんからも誘われてるけど、そっちはリアルで夕方ぐらいからだからまだ時間はあるしね。
「それじゃ、ちょっと連絡してみるわ。それから私相手に別に敬語使う必要はないわよ。普通で大丈夫だから」
「うん、わかり……わかったよ」
「そうそう、そんな感じでフランクにいきましょう。それじゃちょっとまっててね」
なっちゃんも敬語抜きで話してたから、そういう話し方のほうが親しみやすくていいとかってことなのかな?兎も角これからは普段通りを心がけなきゃ。ちょっと敬語がでかかっちゃったし。
「よしっと、連絡もついたからいきましょ。南門前にくるようにいっておいたから。先にパーティくんじゃいましょ」
そういってユリさんからパーティ申請が飛んできたので即承認。いったいどんな人なんだろ。ついたらわかるんだけど、気になってユリさんにきいても、ちょっとかわってるとしか教えてくれなかった。う~ん、ますます気になっちゃった……。それから初のパーティ狩りだから、こっちも楽しみ。
そうして南門についてユリさんに紹介された人は、ユリさんがいった通りちょっと変わった人だったんだ。
「こんにちは、ドラコ。まった?」
「ユリか。いや、我も来たばかりだ。それより面白いことがあるといっていたが」
「ええ、面白いことっていうか、一儲けしに行きましょうっていうお誘い」
「ふむ、一儲けときたか。我を呼んだということは、当然乗らせてもらえるんだろう?」
「そういうことね。何しろ品物が毛皮だから、ドラコの管轄でしょう?とりあえずパーティ申請送るわね」
「うむ、承知した。ところで、ユリ。そちらの綺麗なお嬢さんは紹介してもらえないのか?」
「これから紹介するつもりだったのよ。こちら雪花で、通称ユキちゃん。夏の友達だそうよ」
「はじめまして、雪花っていいます」
「うむ、我はドラコという。よろしく頼む」
そういって右手を差し出してくるドラコさん。思わず握手しちゃった。このドラコさん、見た目はヒューマンの男性なんだけど、その特徴は全身が黒いこと。黒いって言うか黒ずくめの衣装っていえばいいのかな?マントまではおってるんだけど、外側は真っ黒で内側は真っ赤。後、目が真っ赤で、髪は黒で肩より少し長いぐらいのストレートです。
そしてやたら尊大な口調で話してる。ロールプレイ、っていうやつ……なのかな。
「我もユキ、と呼ばせてもらってもかまわないかな?それから我にも敬語は不要だ」
「はい、大丈夫で……大丈夫」
「うむ。それとあまり驚かないのだな。我とはじめて会った者は大体驚いて固まるのだが」
「?それはだって、ユリさんから変わった人っていわれてたから。確かに、ちょっと変わった人だな~って」
「……ユリよ、こやつ大分大物かもしれんな」
「……そうね。あなたのことをちょっと変わった人とかいう人は始めてみたわ。後、夏がいうにはただの天然だとか」
「?」
何かわたしまた変なこといったのかな?
「まぁよい。それでユリ、南門集合といっていたが、何処に向かうのだ?」
「場所のほうは着いてからのお楽しみね」
「ふむ、そうか。ならば楽しみにしておこう」
「それじゃ行こっか。ユキちゃんも出発して大丈夫かしら?」
「あ、うん、大丈夫」
「それじゃ、さくっといきましょう」
そうしてわたしは装備の試し切り兼、はじめてのパーティ狩りに出発です。
○●○●○
熊さんのところへ向かいながら話しているうちにだんだん和やかムードに。やっぱりロールプレイみたいで、せっかくのゲームだからってことらしい。それからユリさんは慣れたものらしくて、何でもβテストの時もこの調子だったんだとか。ドラコさんなんだけど、皮革職人かと思いきや!結構幅広くやってるとのことでした。いろいろできる人みたいです。
それからいろいろお話してたんだけど、ドラコさんもなっちゃんのことを知っているそうで、3人でなっちゃんの話で盛り上がったり。
いろいろと話を聞きつつ熊さんのエリアへ。最初のスモールラビやコケッコのエリアも、わたしが最初に狩りに行ったときとはかわって、数人で狩りに来てるのを見かけることができたから、狩場を移動した人とかがいるのかな?
そのまま歩き続けて熊さんのエリアに到着したんだけど、こっちには誰もいなかったんだけどね。
「ところでユリよ。我にはここはブラウンベアの生息域だと思うのだが」
「ええ、そうね。間違いなくブラウンベアのエリアね。っていうかちらほら動いてるのが見えるもの」
「我には、痛めつけられて喜ぶような趣味はないぞ?」
「私にもなわよ。ここに来たのは、ユキちゃんの戦闘を見に来たのよ」
「ふむ、そうか。……は?お前は何を言ってるんだ。まだ上位層でもここを狩場にしているのはいないのに、ユキ一人でどうにかなるのか?」
「うん、なんとかなる……らしいわよ?私もちょっと半信半疑だから、実際に見てみようと思っているの」
なんかドラコさんとユリさんがいってるけど、わたしはもう熊さんをロックオンしていてあまり聞いてなかったり……。ユリさん作の装備品でどこまで変わるか、気になってうずうず、そわそわ。
「よし、それじゃちょっと試し切りにいってきてもいいかな?」
「ええ、どうぞどうぞ。そのために来たんだから。ってちょっとまって、一旦PT解除するわ」
「ほぇ?」
「はい、これで大丈夫。試し斬りは一人でやるんだもの、パーティ組んでいると経験値分配されちゃうから、ね」
「なるほど。それじゃぁ、改めていってきます」
そうして、近くの熊さんに目標を定めて近づいていく。どうやら向こうから先に攻撃を仕掛けてくることはないみたいだから、先制をいれちゃいましょう。
右手の鉄の剣を振り上げて、横を向いている熊さんの胴体へ振り下ろす。
「えいっ」
おお、木剣とは違ってきちんと斬った手ごたえがある!ちょっと流血とかあるのかと思って身構えたけど、どうやらそこはゲームらしく、斬撃の跡からはきらきらと小さなポリゴンの粒子が舞っていてちょっと綺麗かも。
「グルゥ」
そこで熊さんがようやくこっちに敵と認識したみたい。向き直った後に2足で立ち上がって両腕を上に。これは咆哮かな?
「グルゥアアアァァァ!!」
うん、やっぱり。そしてそのまま右腕を振り下ろしてくる。これは盾を試すチャンスだよね。すぐさま盾を構えて攻撃を受け止めることに。
次の瞬間、甲高い衝突音とズシンとした衝撃が伝わってくる。木盾のときもそうだったけど、やっぱり結構な衝撃。ちょっと後ろに下がっちゃった。流石は熊さんってことなのかな、STRとか高そうだよね。
そのまま熊さんは追撃で左腕も振り下ろしてくるけど、これも攻撃がわかっているから、もう一度しっかりと盾で受けとめる。だけど、これもちょっと下がっただけで、ちゃんと受け止められてるから木盾と比べて結構軽減してくれてるのかな?それにわたしのほうのHPバーも殆ど削れてないから、結構効果が高いかも!
対する熊さんのほうは初撃でぎりぎり1割いかないぐらいが削れてる、これもすごい!無防備なところに攻撃したからかもだけど、木剣だと1割削るのに4~5回は殴らないといけなかったことに比べるとかなりの攻撃力アップかな?
それからは、一度戦っていたこともあって危なげなく戦闘を進めることができた。身体をひねりながら繰り出された右腕のなぎ払いを素早く近づいて後ろに抜けながら胴体へ横薙ぎに一閃、さらに後ろに抜けたところで振り返りながら背中に縦斬り。
次の熊さんの振り返りながら下から上への掬い上げるような左腕の一撃は素早く後ろに下がって回避して、素早く距離をつめてがら空きの左脇へ。
今度は両腕を振り上げての叩きつけがきたけど、さっと横によけてさらに一撃。時々くる引っ掻き攻撃というかはたくという感じのは前進しながら盾で受けて、胴体にカウンターを放ったり。
そんなことを何度か繰り返して、熊さんは地面に崩れ落ちていった。うん、木剣のときはかなり長いこと戦っていた気がするけど、この鉄の剣に変わったらかなり楽になったかも。体感時間で半分ぐらいかな?……多分だけど。
盾のほうも木盾と比べるまでもなくかなりいい調子。木盾のときはガードしても結構HPバーを削られてたけど、そんなこともなかったから結構向上したよね?
むしろ初期装備の2つと比べるのは間違い・・・・・かも?
あっ、熊さんが消えた後にまた毛皮が!ちょっとラッキー?それからキャラクターとスキルの両方レベルアップしたみたい。これでLv6かな?相変わらずBPは即決でAGIに、SPの合計は4に。
スキルのほうは、【剣】【盾】【筋力上昇】【敏捷上昇】の4つ。今回は【鎧】があがらなかったみたい。やっぱりダメージを受けないとダメなのかな?
ステータスを確認してみるとこんな感じ。
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雪花 Lv6
種族:ヒューマン
職業:ファイター
-ステータス-
STR: 11 [+4, +1]
VIT: 10 [+4, +0]
INT: 3
DEX: 3
AGI: 9 [+0, +1]
-スキル-
【剣Lv7】【盾Lv7】【鎧Lv3】【神聖魔法Lv1】【筋力上昇Lv7】【敏捷上昇Lv7】【分析Lv1】
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装備分は片手剣と盾のぶんが乗ってる感じ。うん、後2で素のAGIが10になるから、そうしたら素のSTRを10になるまであげようかな?そういえば、DEXで攻撃の精度があがるんだっけ。こっちを上げてもいいのかな?
それよりも新しいスキルとか取得を考えてもいいのかな?そんなことを考えていたら、ドラコさんとユリさんが近づいてきた。
「実際に見てみるとすごいわね。本当に倒しちゃうんだもの。それと、剣と盾は問題なさそうね」
「戦闘にいってすぐに、ユリから初期装備でやりあったと聞いて冗談だと思ったが……。見事倒した今となっては、現実を受け入れがたくもあるのだが。それにしても、ユキ。レベルはいくつなんだ?確かβの時にブラウンベアの適正は最初のクラスチェンジのある10ぐらいからだったと思うのだが」
「えっと、今さっき6に上がったばかりかな?」
「なん……だと……?ユキはあれに【分析】はかけたことがあるのか?」
「まだかけたことがないけど、ちょっと強いぐらいの敵なんじゃないの?」
そんなことをいったら深くため息をつかれちゃった。詳しく聞いてみると、ブラウンベアはLv13~15ぐらいの敵で、この周辺では攻撃力がかなり高く、その上でタフ。その上、そこそこ動きも早いとかで、最低でもクラスチェンジをして装備がそこそこマシになってくる10ぐらいから、プレイヤーの攻撃力や防御力の面からみても同レベルか若干高いぐらいのほうが安定するんだとか。……そういえば同じようなことをなっちゃんから聞いたような気がする。新しい装備でテンション上がっててすっかり忘れてた……。
「なんていえばいいんだろうな、これは……」
「面白い子、とかでいいんじゃないの。夏から聞いた話によると、昔から運動神経抜群で、VRMMOは初めてだけど、他のVRゲームとかは抜群の運動センスを発揮してすごかったって話だそうで、それで規格外とかなんとか。純粋なプレイヤースキルっていうか才能なんじゃないかしら」
「面白いで片付けていいのか……?しかし才能、か。ユキ、何かスポーツとか武道とか、そういうのはやっているのか?」
「う~ん、うちのお爺ちゃんが剣術道場の師範で、小さいときにたまに遊びにいったりとか。後はよく助っ人でいろんな運動部に呼ばれるくらいかな?」
「ふむ、なるほどな。規格外か、あながちそれも間違いではないのかもな。ところでユリよ。話が変わるのだが、儲けというのはこの熊のこと、と思っていいのだな?」
「ええ、そういうことよ。これなら一儲けできるでしょう?それに、毛皮とくればドラコでしょう?」
「うむ、確かに我の領域の一つよ。それでユキも了解済みということでかまわないのだな?」
「うん。試し斬りついでに、ユリさんが丁度いい儲け話になるからって」
「なればよし。悪いがユキ、前衛は任せるが大丈夫か?他は、そうだな。ユリは槌だったはずだから、遊撃で熊の体勢を崩す方向での援護、我は後々は槍でも使おうとは思っているのだが、今は魔法がメイン故、遠距離からの援護をさせてもらおう。よいか?」
「ええ、わかったわ」
「大丈夫、前衛は任せてよ」
ドラコさんがリーダーシップを発揮して、あっさりと布陣も決定、いざ本格的なパーティ狩りへ!