3.分析は大切なお話
熊さんと戦ったエリアから、わたしは急いで待ち合わせ場所である街の中央広場の噴水前へ。
あ、そうそうなっちゃんとのウィスパーで、この街にはタートっていうちゃんとした名前があるっていうことも教えられたっけ。初心者とか始まりの街とかだと思ってたからまったく気にしてなかったよ……。
それからこの中央広場の噴水、見た感じだと中央から水が吹きあげているだけの簡単なものに見えるんだけど、なっちゃんが言うには、朝と夜に1回ずつちょっとしたショーになるらしいんだ。機会があったらちょっと見てみたいな。
そんなことを考えてたら、なっちゃんから声をかけられた。急いできたけど、結構待たせちゃったかな?
アバターは、耳がとんがってるからエルフにしたみたい。身長は低めで、多分現実と同じぐらいだろうから150cmあるかどうかぐらいかな?全体的にちっちゃくてかわいいかも。
「ユキちゃん、こっちこっち!思ったより早かったね」
「あ、なっちゃん。ごめんね、ちょっと遅くなっちゃったかな?」
「ううん、そんなことないよ。電話できいてたけど、その髪!わかりやすくていい!」
特徴的なひざ裏までの長さと白っぽいグレーの髪色でわかりやすい、とのこと。
「それじゃフレンド登録すませちゃお!それと、どうだった?南のほうは」
にひひといった感じでちょっと悪い笑みが浮かんでる・・・・・。って多分わかっててあえて南を推したみたい。
「結構大変だったけど、面白かったよ?そうそう、それに合わせて聞きたいことと相談したいことがあるんだけど」
「登録完了っと。そっちの話はパーティ組んで、そっちのチャットにしよ!」
早速なっちゃんからパーティ申請がきたので、すぐに承認してチャットを切り替えることに。
「よし、それじゃえっと聞きたいことと相談したいことだっけ。聞きたいことっていうのは?」
「たぶんモンスターのドロップアイテムだと思うんだけど、それが『???』でちょっとよくわからないんだよね。それでどうすればいいのかな、って」
そこまでいったところで、なっちゃんから大きなため息が。えっと、わたし何か変なこといったのかな?
「まったく、その分だと【分析】のこと忘れてたんでしょ。モンスターのドロップアイテムとか、フィールドの拾得物とかは基本的に未鑑定品で存在してるんだよね。だから【分析】をっていってたのに……。とりあえず、あのスキルをアイテムに向かって使えば解決するよ?」
「あっ、そういえばそんなことも言われてた……かも……」
すっかり忘れてたよ。レベルをあげたらまず【分析】、っていわれてたのにね。確かにそれならため息もつきたくなるかも……あはは。
改めてスキルリストから【分析】を探して取得する。消費SPは1、まだ一度も使ってなくてSP4あるから、これで残りは3かな。
早速【分析】をストレージの例の2種類のアイテムに使ってみることに。
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小兎の毛皮
― スモールラビの毛皮。
柔らかいが、小さいためそのままでは使い難い。
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茶熊の毛皮
― ブラウンベアの毛皮、そこそこ大きい。
比較的堅いため、防具などに使われることも。
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さっきまでよくわかってなかった毛皮のような何かの詳細がわかって、すっきりした!っていうか、やっぱり毛皮だったんだね。
「ちゃんと確認できたよ、なっちゃんありがとう」
「まったく。それで、相談事っていうのは?」
「木剣と木盾がぼろぼろになっちゃって。代わりの装備とか何がいいかなぁっていう相談なんだけど」
「それって初期装備のやつ、だよね?・・・・・っていうか壊れた?」
「うん。多分見てもらったほうが早いと思うんだけど」
そういって、ストレージに入っていた壊れた木剣と木盾を取り出してなっちゃんに渡すと、
「……確かに両方ともぼろぼろで、完全に壊れてる。え、なんで?何か岩とか殴ったの?っていうか何したの、これ。」
「熊さんと戦ってたら壊れちゃったんだ」
「え゛っ、熊さん……?もしかして、ブラウンベア?」
「う~ん、多分……そんな名前だったかも」
なっちゃんに、南門を出てからのことを説明したんだけど、半信半疑って感じだったから、熊さんのドロップアイテムの毛皮を見せたらあきれたような顔になっちゃった。
「うん、途中までは予想通りだったけど、熊のあたりは完全に予想外だよ……。っていうか、よく勝てたね」
「結構動きがわかりやすかったから」
「うん、やっぱり、ユキちゃんはユキちゃんだった……」
さらにあきれたように溜息まで。その後教えてもらえたんだけど、普通に遊んでいればそうそう初期装備はぼろぼろにならないらしい。それと熊さんことブラウンベアはこの街周辺で結構強い部類にはいるそうで、レベルはなんと13~15もあるんだって!そりゃ強いのも当然だよね、ってそんなことを言ったら今度はじと目。そんな変なこといったかな?
「とりあえず新しい装備がほしいんだよね。ちょっとβの時の知合いに伝手があるから、連絡してみる!」
「お願いします」
「ふっふっふ、オーフネに乗ったつもりでまかせなさいっ!」
そんなやり取りをしていると、なにやらこちらに近づいてくる人影が。
「あら、夏じゃないの。狩りにいってるんじゃなかった?こんなところで一体何やってるの?」
話しかけてきたのは身長が高めの女の人です。髪をアップでまとめてて、しゅっとした目鼻立ちに、大きな胸。うわ、すごい。ばいんばいんしてる。眼鏡もしてて、知的な女性って感じです。なんとなく秘書とか教師みたいなのが似合いそうな雰囲気をもってます。ただ、声の感じはきつそうっていうよりも、すごいやわらかな女性らしい感じがして、ちょっと不思議な人かも。
なっちゃんに声をかけてたから知り合いなのかな?
「あ、ユリじゃん!こんにちは、丁度今連絡をしようと思ってたとこ!」
「こんにちは。連絡って、何かあったの?」
「剣と盾を作ってもらえないかなって。あ、ユキちゃん。紹介するね、この人はユリで鍛冶師なんだよ!それからユリ、この子はあたしの友達のユキちゃんこと雪花。今日から新しく始めたんだ」
「ああ、じゃぁこの子が噂の子なのね。始めまして、私はユリっていうの。ユキちゃんでいいのかな?」
「はい、はじめましてユリさん。雪花っていいます。呼び方はそれで大丈夫ですよ」
ユリさんって鍛冶師なんだ。それになっちゃんの話からするとこの人がそうなのかな?
「わかったわ、よろしくね、ユキちゃん。それで、武器っていうのはこの子の?まだサービス始まったばかりだもの、たいしたものはないけどいいの?というか初期の装備品があるんじゃないの?」
「あ~、ちょっと説明すると長くなるっていうか。ユキちゃんがやらかしたというか」
「なんか面白そうな話?それなら場所をかえましょうか。喫茶店辺りで一息つきながらその辺とか装備品とかの話をしましょ」
「賛成!」
広場近くの喫茶店に移動することに。NPC経営のちょっとした喫茶店で、他にも軽食屋とか酒場とかもあって、いろいろと雰囲気が味わえるようになってて、時々NPCが食事とかにくることもあるんだとか。結構高度なAIが使われてるそうで、現実のわたしたちみたいにゲームの中で独自の生活を送ってるってきいてちょっと驚いちゃった。
とはいってもNPC経営のほうは今のところ特に名前はなくて、それぞれ軽食屋とか喫茶店とか、そんな感じで呼ばれているそうで、プレイヤー経営の場合は、それぞれが自分でお店の名前を設定できるから、結構いろいろ変わってるみたい。今のところは、そういった点でわかりやすく差別化されてるってユリさんが教えてくれたんだ。
他にはNPC経営は品質が普通で、決まったものしか出てこないともいってたっけ。
喫茶店のほうは店内が満席でテラス席に。広場の外側ということもあって、噴水が見えるのが結構いいかも。
席についてそれぞれ紅茶とケーキのセットを注文。わたしとユリさんはチョコレートで、なっちゃんはイチゴショート。なっちゃん、イチゴ好きなんだよね。
そうしてそれぞれの注文の品が運ばれてきたところで、いよいよ本題の話に。
「それで、剣と盾だったかしら。あるにはあるんだけど、まだ始まったばかりで素材もないのとスキルも低いから、ろくなのないのだけど。それに初期装備品があるんじゃないの?」
「そこは大丈夫!ユリの作ったのなら結構安心だし。初期装備のほうは事情があるんだよね?ユキちゃん」
「えっと、なんていったらいいのか。壊れちゃったんです、木剣も木盾も」
「えっ?」
それからなっちゃんにしたのと同じように説明をしたんだけど、ユリさんは最初あっけにとられたような表情になったと思ったら、だんだんあきれたような表情になって、ブラウンベアの毛皮を出したところでもう一度驚いて。最後には思いっきり溜息までついちゃってた。
なっちゃんとまったく同じパターンだけど、そんな変な話なのかな?なっちゃんのほうは途中からくすくす笑い始めちゃうし。
「うん。夏のいってたことが少しわかった気がするわ。確かに規格外ね」
「でしょ?そういうわけで、剣と盾をお願いしたいんだ」
なっちゃんが一体なんていってたのかちょっと気になるから、後でちょっと聞いてみようかな?そんなことを思ってたら話が先に進んじゃってた。
「でもそのぐらいなら店売り品とかでもいいんじゃない?まだそこまで差はないはずよ?」
「少しでも強いのはできるでしょ?それに顔見せっていう意味合いもあったから。何せ期待の超新星だからね!きっと今後も面白いことが起こると思うんだ」
「確かに、ここまでのはめったにというかまずいないわね。そういうことならいいでしょう。現時点で一番いいのを用意しましょ」
どうやらいつの間にか話がまとまってたみたい。
「ありがとう、ユリ。ほら、ユキちゃんも」
「あ、うん。よろしくお願いします」
「まかされましたた。ちゃちゃっとやってくるから、できたら連絡するわ。多分そんなにはかからないとは思うけど、そろそろリアルでお昼の時間だからのんびり食べてきちゃったらどうかしら?」
「そういえばそんな時間だっけ。あたしもご飯食べてこようかな。ユキちゃんも食べてきたら?」
「あれ、お昼ってもうとっくにすぎちゃったよね?」
「「えっ?」」
ユリさんとなっちゃんがきれいにハモってる。表示時間は後少しで14時になろうかというところ。そんな話をしたんだけど、おかしなことをいったかな?
「……ユキちゃん、それこのゲーム内の時間だと思うよ?」
「このゲームは現実の時間とリンクしてないから、現実の1時間がこっちの世界の2時間分なのよ」
「そういえば、そんなことを聞いたような……」
そこでなっちゃんとユリさんは2人して噴出して笑い出しちゃった。うぅ、やっちゃった、結構はずかしい。2人して一頻り笑い終わった後に、
「ふふ、面白かった。それじゃ、私はちょっと作業に入るから、また後でね」
「うぅ、はい。お願いします。あ、ところで装備代とかはどうしましょう?」
「あ、それぐらいならあたしが出しとくから、ユキちゃんは気にしないで。それに南門を最初にオススメしたのもあたしだからそのお詫びってことで」
「あ、うん。それじゃその辺は任せるね」
そうしてなっちゃんと共に、お昼のためにいったんログアウト。
いろいろ作ったりするものもあるみたいで、ゲーム内で3~4時間ぐらいすれば、できるかもとかいってたから現実で2時間後ぐらいに行けばいいのかな。連絡先としてお互いにフレンド登録もしたから、少し早めにいって作ってるところ見せてもらうのもいいかも。
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「ふぅ~」
ログアウトして現実に戻ってきたところで思わず一息。まだ始まったばかりだけど、いきなり知合いができたのはちょっとびっくりだったかな?これからどんどん知合いも増えて、一緒に冒険にいったりするのかな、ちょっと楽しみかも。
それから軽めのお昼ご飯を食べ終わって、後片付けも終わったあたりでスマホに着信が。あ、なっちゃんからみたい。
「もしもし、なっちゃん?」
『やっほー、ユキちゃん。まだ始まったばかりだけど、どう?WWWは。楽しめそう?』
「うん、やっぱりまだ最初だし覚えなきゃいけないことも多いけど、結構楽しめそうかな」
『ならよかった!大人数でやっと倒せるボスとかもいるから、これからどんどん楽しくなってくるよ!ところで、午後はどうするの?』
「う~ん、とりあえずユリさんの装備品が出来上がってから、かな?多分熊さんのところにいくと思うけど」
『うん、やっぱり熊さんなんだね……』
「結構緊張感あって面白いよ?」
電話口からまちょっとあきれたような笑い声が。それから少しゲームの話とかユリさんの話とかを聞いたり。それから、夕方ごろに一緒に狩りに行く約束をして通話は終了。行く時にウィスパーで連絡をくれるっていってたから、今度はちゃんと見落とさないようにしなきゃ。