16.学校と告知のお話
開けて翌日、本日は学校なので制服に着替えて出発です。当然ながら途中でなっちゃんを回収しに隣の家へ。ちなみにだけど、たまになっちゃんを起こしたりもしてるので、なっちゃんのママさんからは、
「ごめんね、ユキちゃん。うちの夏が手間かけさせちゃって。まったくもう、どっちかが男だったらよかったのに」
なんてことを言われたり。うん、非常に返答に困ります……。はてさて、チャイムを鳴らしてしばらく待ってると、バタバタとした音とともにドアが――
「あ゛いたっ」
「なっちゃんっ?!」
ぼーっとしてたら、玄関のドアがごちんって。うぅ……まさかの罠だよ……。
「ごめんねっ、ユキちゃん……」
「てて……。ううん、大丈夫。ぼーっとしてたのが悪いから。って、それよりも!早くいかないと遅刻だよ!」
実は今日は寝坊しちゃって時間ぎりぎりなんだよね……。普段だとなっちゃんのほうが寝坊する場合があるんだけど、珍しくわたしなのです。だって夢にもふもふさんたちが出てきて、一緒に遊んでたんだもん。もふもふさんがあんなにかわいいのが悪いんです。
「うぎゃ、ほんとだっ!急がなきゃ!」
○●○●○
急いだおかげか、何とか遅刻せずに間に合ったけど、これからは気を付けないとね……。それから、1限と2限が終わって現在はお昼休みです。
「ユキちゃんユキちゃんっ!告知みたっ?新しいイベントの告知っ!」
「告知?何それ?」
2限が終わると同時に、わたしのところにやってきての開口一番。イベントってなんだろう。おいしい……じゃないじゃない。えっと、ゲームのイベントかな?
「ふっふっふー。お教えしようっ!なんと――」
「今週末からイベントを開始すると、運営が告知したのですわ。それから、隣失礼しますわね」
「ちょっとっ!あたしが言おうと思ったのにー!」
この人は、久遠春美さん。財閥のご令嬢っていうまさに、これぞお嬢様って感じの女の子です。ちょっと釣り目がちできつい印象を与えがちなんだけど、結構面白い女の子です。わたしとなっちゃんとは中学から一緒なんだよね。ちなみにもう1人ほど、中学から一緒で仲がいい子がいるんだよね。それはさておき、イベントって今やってるやつのかな?
「W3でいいんだっけ、それの運営?っていうかハルちゃんやってたんだね。はい、椅子どうぞ」
「ありがとうですわ。ええ、わたくしも夏と同じβ組。当然ながら初日からやっておりましてよ。1次転職も終えて、今はLv18ですわ」
「ええっ!もう18なのっ!あたしなんてまだ17だよ~」
「うふふ、夏に勝ちましたわ!」
これからわかる通り、お嬢様っていいつつ重度のゲーマーで、なっちゃんと同じ世界の住人です。よくなっちゃんと張り合って、レベルがいくつだーとか、あんな強いの倒したーとかやってます。
「おう、盛り上がってんな。俺も一緒するぜ。お春が勝ち誇ってるってことは、夏にレベルでも買ったのか?」
「あ、しゅうちゃん。お席どーぞ。ちなみにご想像の通りだよ」
「おう、サンキュー」
この人がわたしたち仲良しグループの最後の1人の北條秋ちゃん。男っぽいしゃべり方をするんだけど、れっきとした女の子です。本人は体育会系で、引き締まった体つきをしてるけど出るとこは出てたり、それでいてかわいい系が大好きだったり。ちなみにその男らしい口調と、整った顔立ちで結構女の子に人気みたい。
この子も中学からの友達です。ちなみに4人そろうと春夏秋冬がそろうので、シーズンズとか呼ばれたりしてるんだけど、よく春ちゃんとなっちゃんがやらかしたりするので、ちょっと問題児扱いされてたり……。この話を3人にすると、お前が言うな!っていつも突っ込まれるんだけど、なんでだろう。ちょっとしょんぼりです。
「いいところに来ましたわ、秋!わたくし、W3のレベルで夏を上回ってるのですわ!」
「ぐぬぬ~、すぐに追い抜いてやるんだからっ!」
「おーっほっほ!このまま逃げ切ってやりますわ!」
「むきー!」
春ちゃんとなっちゃんは白熱してるみたい。
「なんだ、いつも通りじゃないか。それで、本当は何の話だったんだ?」
「うん、W3でイベント告知があったんだって」
「あー、あれか。ってか雪もやってるんだな。俺も春に誘われてっていうか引っ張りこまれたんだよなぁ」
「あはは、わたしはなっちゃんだよ」
ちなみに春ちゃんとしゅうちゃんは幼馴染さんです。昔から春ちゃんによく振り回されてきたってしゅうちゃんがいってました。最初にあった時も、春ちゃんとなっちゃんがゲームのことで言い合いを始めちゃったことだったんだよね。おかげで知り合ってからはあっという間に仲良くなりました。
「やっぱりみんなやってるんだな。雪はどのぐらいになったんだ?俺のほうは、1次転職終わってLv15ぐらいなんだよな。まぁ春に連れまわされてるのが大きいんだけどさ」
「わたしも1次転職終わって今Lv17だったかな?後ショコラっていうポテリスくんが仲間になってくれて、そっちも1次転職?でいいのかな。それが終わって今Lv15になったんだよね」
ショコラは実質1日でLv15だもん、かなりのハイペースだよね。頑張りが見えるようです、うんうん。
「ポテリスってあれか、熊の森にでるっていうぽてっとした奴」
「そだよ。もふもふでとってもかわいいんだよ~」
「いいなぁ~。俺も見てみたいぜ。春に引っ張られて、ずっと最前線近くで戦ってるんだぜ、こっちは。おかげでもう2つ目の街にはいけたんだけどさ」
ポテリスとかモフッビとか、ぬいぐるみのような愛らしさもあるからしゅうちゃんには結構ドストライクだと思うんだよね。きっと夜の森は天国になるんじゃないかな。
「……はっ!少々思考が停止してしまいましたわ」
「ほんとだよっ!ショコラって一昨日の寝るときに仲間にしたばっかりだったよねっ。なんでもうあたしと同じぐらいなのっ!」
ちょっと静かだな~って思ってたら、2人とも固まってたみたい。
「うん?そこはほら、ひよこさんサクッとやった後に、ずっとうさぎさんとか1人で倒してもらってたんだよね。それからなっちゃんとかと一緒に灰熊さんとか白熊さんとかいったでしょ?だから結構ポンポン上がったみたいなんだよね」
「仲間にしたばっかりの大切なペットになんてハードモードなんですの……。それに、それをこなせちゃうショコラもちょっと意味がわかりませんわ……」
「うん、そうだよね……。そもそもだよ、ポテリスって戦闘面ちょっと貧弱だったはずだから、スモールラビとかだいぶきついはずなのにね……」
「ええ、そうですわね……。ペットは飼い主に似るといいますが――」
「「これはひどい(ですわ)!!」」
「思えば昔からこうでしたわね。ボスが倒せなくて人が必死にレベルをあげてる横で、あっさりと倒してしまったりとか……」
「うんうん。レベルを上げて殴るんじゃなくて、基本スペックでごり押しだもんね……」
それから2人して遠くを見始めちゃいました。いったいどうしたんだろう。
「おーい、2人とも戻ってこい。それで話を戻すんだが、イベントってどんな内容なんだ?」
「おほん。ええ、イベントでしたわね。今回のイベントはレイド形式ですが、概要は攻城戦に近くなるかもしれませんわ」
ざっくりとした内容だけど、開始日は今日を入れて5日後の土曜日。舞台はタートの街をそのまま利用して、対象のモンスターをを倒したら終わりって話だそうです。恐らく街をそっくりそのまま利用した攻城戦に近い感じで最奥にボスみたいな配置にするんじゃないかなっていうのが春ちゃんとなっちゃんの読みみたい。
報酬なんだけど、クリアできた場合には参加者全員にちょっとしたアイテムが配布されるみたい。後は貢献度で追加があったり、当然ながら守りを固めているモンスターたちのレアドロップがあるかも?とかって話で、一部では盛り上がってるみたい。
それから4人でイベントの話で盛り上がってお昼休みは終了。イベントの詳細はWEBで!ってなっちゃんがいってたので、後で見てみようかな。
他は特に変わったこともなく本日の学校は終わって、いよいよログインです。
○●○●○
「ドラコさん、来たよ~」
「うむ、ユキか。すまん、少し待っててくれ」
「わかったよ」
何やら忙しそうに連絡を取ってるドラコさん。
一週間はあるけどイベントに向けて、少しずつ準備は必要だよねっていうことで。とりあえず、ショコラが持ってる枝の加工と、専用の防具の作成をお願いしようと思ってドラコさんに連絡を取ったんです。
そしたら、レンタル工房――貸出の生産用の部屋――にこもってるからそこまで来てくれということで、現在街の西にある工房までやってきました。いろいろできるみたいだから、専用の工房とか持ってたりするのかなって思ったんだけど、
「うむ。そうは思ったのだが、手広くやりすぎてな……。先行投資と思えればいいのだが、今のところ全部が全部手を付けているわけでもなし、かといって全てを設置するには資金がかかりすぎてな……」
といった感じで、いろいろできるってのも善し悪しみたいです。
結構生産関係をやる人って多いみたいで、頻繁に部屋に出入りしてる人が結構いるみたい。わたしみたいに依頼したり、受け渡ししたりとかも結構見られます。そんな他の人たちのやり取りとぼーっと見ながら、のんびり待ってるとドラコさんの用も一段落したみたいです。
「すまない、またせたな」
「ううん、大丈夫。というよりも、結構忙しいの?」
「うむ、イベントのせいでな……。馬鹿共から、いい装備を作ってくれ!ってさんざん連絡が来るのだ」
イベントに向けて装備を変えようというのはみんな一緒みたいだね……。おかげであっちこっちから連絡がきて鬱陶しいとかなんとか。最後のほうは、あいつらモンスターにひかれまくって、デスペナくらえばいいのにとか恨み節になってました。
「――すまない、愚痴っぽくなってしまったな。それで、何か装備で相談があるんだったか」
「うん、実はショコラの装備を作ってもらえないかなって」
ショコラが武器なし防具なしなので、枝を気にいったこともあって何とかならないかなっていう話をドラコさんに。
「その程度ならお安い御用だ。皆の装備を作るときについでにやってしまおう」
あっさりと受けてもらえたので、そのまま枝も渡してお任せしてきました。デザインのほうもわたしとショコラの両方とも結構悩んでたけど、決まらなかったのでお任せしちゃいました。
はてさて、装備のほうは明日にはできるだろうということなので、それまではのんびりのんびり……。って、そうでした。イベントの確認しちゃいましょう。
レンタル工房から中央広場に戻ってきて、いつもの喫茶店に。ケーキを2つ注文して、早速ショコラと一緒にイベント告知を確認しましょう。
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~インフォメーション~
W3運営チームです。
今週末の土曜日、オープン記念を兼ねた第1回公式イベント~黄昏に沈む街~を開催いたします。
本イベントに関する情報等は下記で順次発表いたします。
~黄昏に沈む街~
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公式ページを開けてすぐに、こんな感じのインフォメーションがありました。そのままイベントページに飛んで得られた情報はお昼に聞いた話と大体同じでした。
ざっくりまとめるとこんな感じ。
・イベント開催場所はタートの街で、内容はモンスターの討伐。
・本イベント専用に強化されたモンスターが出現。
・報酬は全参加者共通のほか、イベントの貢献度に応じて追加。
・本イベントは動画として撮影編集されて後日公開。
あ、それから一応バックストーリーもありました。とはいっても、まだ少ししか乗ってなかったんだけどね。
この街の領主さんなんだけど、結構気さくな人で、いろんな人々の話をしっかりと聞いたり、困ってる人は率先して助けたりと、住人達から高い人気があったそうなんです。
でも、ある時急に人が変わってしまって、いきなり重税を課したり、今までだと気にしないような、ほんとうに些細なことで重罪になったり。まるで悪魔に取りつかれたかのように、住人達を虐げるようになってしまいます。
それからほどなく、たびたび住人が失踪する事件が続発します。最初は何かに巻き込まれたんだとか、事故か何かで亡くなったんだろうとか。周りにモンスターもいたりする世界なので、あまり気にされてなかったみたいです。
しかし、夜中に時々何かの唸り声や呻き声、それに混じる悲鳴などが聞こえるようになり、人々は日々恐怖を感じるようになっていきました。
と、まぁこんな具合でした。前提として提示されているイベント内容から考えて、領主が悪魔召喚とかでやらかしちゃって、そのモンスターを討伐しようみたいな感じになりそうです。
それから、なっちゃんからお勧めって言われてたスキルの【杖】と【鎧】、それから【闇魔法】をショコラに覚えてもらいました。これでちょっと戦力アップかな?
それからはもう日課となりつつある夜の森でもふもふさんたちと遊んで、本日はログアウトです。