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私とエルクは甲板に出る少し前で呼吸と気持ちを落ち着けている。この大暴れの船の中を進むのは思ったより大変だった。

今、私達以外の船に乗ってる者は全員甲板に出ているらしい。

その10人の中からエルクに味方してくれそうな二人に話を付けて、船長以下邪魔になりそうな奴等を排除しないといけない。

私が使える魔法についてはエルクに説明をしてある。とはいえ、簡単な魔法を一度使って試しただけで、全部の魔法を試す余裕は無かったからぶっつけ本番だけど。

人殺しはちょっと勘弁なので、もしかしたら必要になる可能性もあるけど、なんとか先制攻撃でぶっ倒して船の中に放り込みたいと思う。

こっちは魔法が使えるとは言っても喧嘩もした事ない女と13歳の子供で、あっちは弱小とはいえいっぱしの海賊で船長は喧嘩が強いらしい。

本当に勝てるかも心配だけど、一番やばいのが、そのごたごたの時に船が沈んじゃわないかという事だ。

そこはもう賭けでしかない。

なんかさっきから船の暴れ方が酷くなってきてるし、みしみし言ってたりもする。

突然嵐が治まったりでもしない限り、このままだと沈むとエルクが確信したので、もう後に退けない。


「よし!行くよエルク!」

「おう!」


私はエルクと共に負けられない戦いを始める為に扉を開いた。



終わった。


……あれ?船長は船の扱いは下手だけど、喧嘩は強いんじゃなかった?

仲間になってくれそうなのは二人だけで、他八人との厳しい戦いがあるんじゃ?

しかも嵐に船が沈む前に、出来るだけ早く制圧して主導権を手に入れなきゃいけない難易度の高いミッションだった筈では?


どうなったかと言うと、甲板に出た私は目の前に居た奴を直ぐ風魔法の『ブラストプレス』でぶっ倒した。

『ブラストプレス』は風の圧力で攻撃する魔法で、今回は上から掛けて潰してやった。

倒した後、もしかしたら仲間になる予定の方かも知れない事に気付いた。

かなりテンパってたのをその時自覚した。

慌ててエルクに目をやると、よくやったと言われたのでほっとした。

ちなみに、後で気付いたけどそいつは下っ端Aだった。

その時点で、まだ他の奴は誰も私達に気付いていなかった。見ると私以上のテンパり具合だった。

で、そいつは船の中に適当に放り込み、なんとか船長が視界に入る所まで近付いた。その時には何人かに気付かれていたようだけど、嵐のせいで声も届かず、船長は気付かなかった。

視界に入ったと同時に再び『ブラストプレス』を発動、船長は床に叩きつけられ気絶した。

そこで、全員が私達に気付いたけど、余りにもあっさり船長が倒れた事に全員の時間が止まった。勿論私も。

ただ、私達の時間が止まっても、嵐は止まってくれない訳で、船の転覆の危機が迫る。

そこで、唯一動きを止めなかった男が舵を握る。エルクだ。

握ったと同時に声を張り上げるエルク。


「ガイさん!ドリーさん!力を貸して下さい!取り舵行きます!……よし!

他の奴等はこいつ連れて船の中に入ってろ!邪魔するなら海に突き落とすぞ!」


エルクの言葉に二人の男が動き出す。少しして船が少し動いて、体勢を立て直した。

正気に戻った私はいつでも魔法を放てるように集中して、動かない男達を睨み付ける。

でも、船長をあっさり倒したからか嵐の対応で疲れていたからか逆らう気力は無かった様で、一番近くに居た奴二人が船長を連れて、船の中に入っていった。


そうして、船の制圧は簡単に済んだが、ここからが本番だ。

私はエルクの指示に合わせて目一杯魔法を使う。嵐に逆らうように風を当てたり、船に当てて動きを補助したり、波を抑える様に水を操作したり、船に入り込んだ水を排水したり。

凄く頑張ったけど、嵐の前には魔法もちっぽけなものでしかなく、ほんの小さな助けにしかならなかったと思う。


なので、今こうして嵐が過ぎ去った後の晴天の下、船が無事な姿をしているのはエルクの力が物凄く大きいだろう。

小さいと言ってたけど、私から見れば充分大きな船を操り、私と他二名に指示を出しながら、嵐に歯向かわず受け流し、大波が来たらそれに乗り、それでいて流される事も無かった。

そう、私達は嵐を乗り切ったのだ。

太陽の光で明るくなった事で、陸と町の姿も見える。


嵐が過ぎ去って、暫くは呆然としていたけど、直ぐに喜びが押し寄せてくる。


「やった!やったね、エルク!」


まだ気を抜かず舵を放さない、今回最大の功労者に向かって飛びつく。


「おう!……あっ」


エルクも私を受け止めて抱き合ったけど、私の身体を見たエルクは直ぐに身を離し目を逸らす。


「ん?……ああ、ふふっ、どう?魅力的?」


私の服はパジャマのままで、嵐でずぶ濡れ、透けて身体に張り付いていた。

私はそんな自分の身体を充分に見せ付けてやる。


「……うん、綺麗……っていや違う、ほら、早く着替えてこいよ、盗んだやつが倉庫に多分ある筈だから」

「ふふふっ、うん、行って来るね」


うーん、さっきまでは男らしくて大人っぽかったけど、やっぱり男の子なんだなぁって思う。



上機嫌で船の中への扉を開いた私だけど、そこには八人の男達が居た。


あっ、やばい忘れてた。


船長も下っ端Aも起きていて、何の警戒もしていなかった私は直ぐに捕まった。

魔法を使おうとしたけど、嵐の対処で目一杯魔法を使った私には、魔力的なものが残っておらず頭痛が起こり魔法は発動しなかった。


「さっきはよくもやってくれたな、来い!」


腕を取られ甲板に出される。

エルクと目が合い、エルクがしまったという顔をする。


「ごめんねエルク」

「いや、俺も油断してた。すまん」


私とエルクがお互いに謝っていると、船長が前に出て来る。


「ハミルが可愛がっていたから死んだ後も船に置いてやったのに、恩を仇で返しやがって」

「お前に恩を感じた事はねーよ、嵐から助けてやったんだからそっちが恩を感じてくれねーか?」

「ちっ、馬鹿にしやがって、俺がこの船の船長だぞ!」

「あの程度の嵐も乗り切れない奴を船長として認める気はねーな」

「口の利き方に気を付けろ!」

「痛っ!」


激昂した船長は、私の腕を握る手に力を込める。

それを見て更にエルクの顔が悔しそうに歪む。


「ふん、この異人を誑かして船を乗っ取ろうとしたようだが、こいつも魔力切れのようだしな、力はそれ程でも無い。お前はもう終わりだよ」

「……」

「おい、お前等あいつをこっちに連れて来い。いつまでもこの船の舵を触らせてんじゃねえ」

「「はい」」


二人の男がエルクを捕まえに向かう。


ああ、どうしよう、何かないかなっ?ステータス!おっ、レベル上がってる!でもポイント10Pで何が出来る?ジョブも使えそうなの無いし、STRに振っても振りほどけそうにない。INTに振ったら魔力回復しないかな?しないだろうな。スキルは多過ぎる!何か無いかな?あー、もうわからん!

あの手伝ってくれたお二人さんとかは?ああ、船長の手下の内四人が見張ってる。二人も悔しそうにこっち見てるけど、どうする事も出来ないみたい。というかこいつ等動き良過ぎない?嵐の時にもっと頑張れよ!何?船乗りとしては駄目で、戦うとかは得意なの?

やばい、何も思いつかん!ああ、ごめんねエルク。私が船の乗っ取りなんて誘ったばっかりに。

あれ?何、あの強い視線。もしかして、何かやる気?


エルクと再度目を合わせたら、強い視線で見返された。

何か起きると、心構えをした所で、エルクが舵を回す。そして、それと同時に起きる突風。

それは、嵐が最後に起こした強風。それを予期していたであろうエルクの手によって、その突風を真っ向から受ける様に帆が動く。

船の横から吹く突風にその正面に広がる帆、当然船は煽られ、嵐の時と同じ様に、いやそれ以上に船が傾く。

船長が私を離し落ちない様に必死でしがみ付き、私は風と共に滑り出す。


「そのまま海に飛び込むぞ!」


声に目をやると、エルクは斜めになった船を走り私の方に向かっている。

甲板の端まで滑った所でエルクが私に追い付き、私の手を取りそのまま海に飛び込んだ。


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