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先送りにする事にした。
いや、このまま全部ポイント使い切ったら後悔しちゃう気がしたからね。
取り敢えずもっと材料集めてからにしようかなと。
で、次の日再び少年がやって来た。怯えも殆ど無くなっていて、話しかけると普通に返してくれる様になっていた。
エルクと仲良くなる事と材料を集める事を目的に、少しずつ話をする事にする。
「ねえ、後何日位で目的地に着くの?」
「予定では後五日だな。まあ何も無ければだけど」
「何処に向かってるの?」
「シリケの港町だな。ちょっと前に商船、つっても小さいやつだけど、襲って得た物を売りに行くんだ」
「その町、海賊が物を売りに行って問題無いの?」
「まあ、堂々とは無理だけど、そんなに厳しくも無いぜ。多分お前も……」
「朱璃!」
「……シュリもそこで売られるんじゃねえか?」
「むう……」
次の日。
「ねえエルクくん、この船ってどういう船なの?」
「海賊船だぜ。あとエルクで良いぞ、エルクんは絶対やめろよ」
「うん、わかった。海賊船かぁ、凄い海賊だったりするのかな?」
「いや、弱小だぜ。船もこの小さいの一隻しか持ってねえし、乗組員も十人も居ねえぜ」
「ふーん」
次の日。
「エルクはどうしてこの海賊船に居るの?」
「前の船長が拾ってくれたんだよ。その時はこの海賊も結構凄かったし、俺も作業はきつくても色々仕事覚えられたし良かったんだけどな」
「今は駄目なんだ?」
「前の船長が死んで、何人か船を離れて、替わりに嫌な奴が増えた。今の船長も喧嘩は強えけど船の扱いはいまいちだし」
「そっか……」
次の日。
「エルクのステータス見せて!私も見せるから!」
「……わかった、いいぜ、ほら」
エルク 13歳
種族 平人 LV10
ジョブ 船乗り LV4
STR F VIT E DEX F AGI F INT G MEN F
スキル 操船 鷹の眼
「へえ、13歳なんだぁ、船乗りかぁ、ん?ポイントは?隠してるの?」
「ポイント?って何だ?何にも隠してねえぞ」
「えっ?スキルとか覚えるのに使うやつ」
「何だそれ?スキルは鍛錬でジョブに見合ったものを覚えるだろ。魔物倒すと覚えが早いって聞くけど」
もしかしてポイント制なのは私、若しくは異人だけ?自分で好きに出来るってのは有利ではありそう。
……魔物とか居るんだ。
「じゃあ、次私の番ね、はい」
「……おっ、ジョブ二つ持ってんのか、でも弱えな」
「弱いってエルクとそんなに変わらないじゃん」
「まあ、でもやっぱ異人じゃん。それならもっと凄えステータスかなって思ってさ。あっ、でも魔術師はいいなー、俺も魔法使いてー」
「へへーん」
次の日。
そろそろ町に着いてしまうので決断を迫られていた私だけど、今はそれどころじゃない命の危険に曝されていた。
「きゃあ!あ痛っ!」
「うおっ!危ねっ!」
今、この船は嵐に遭っていた。今にも沈みそうでかなり心配だ。エルクは本当は嵐を乗り切る為に作業しなきゃいけないんだけど、私を心配して様子見に来てくれた。
壁に打ち付けた頭を押さえながら、なんとか体勢の維持に努める私。
エルクも鉄格子を掴んで転ばない様に頑張っている。
「これ、やべえな、あいつらじゃあ乗り切れねえかも」
「そうなの?……エルクなら?」
「出来るかもしれねえけど、あいつら俺の言う事聞きゃあしねえだろうし、無理だろうな」
言う事聞いてくれれば出来るわけだ。
「やっぱり人手要るよね?」
「そりゃあな、操船のスキル使えば人数少なくても動かせるけど、この状況だったら他に四人は欲しいな」
「誰か協力してくれる人とか他に居ない?」
「二人心当たりあるぞ、ってどうする気だ?」
二人か、私も入れても一人足りないけど、魔法が役立つ事を祈ろう。まだ一度も使った事無いのにチャレンジャーだとは思うけど。
「この船乗っ取る。私の魔法も使えばその人数で出来るかも知れない」
「……生活魔法しか持ってねえだろ、隠してたのか?」
ちょっと疑う目で見られた。まあ、そうだよね、ポイントで覚えられるの説明し辛いし。
「ううん、でも下級までだったら今直ぐ覚えられる。私異人だからね」
「……でも、その封魔付きの手錠はどうする気だ?」
「それも考えがある。どうする?後はエルク次第、このまま乗り切るのを祈ってるか、一か八かに賭けるか」
多分エルクも現状を変えたいと思っていたんだと思う。一度俯いて、顔を上げた時には目に決意が浮かんでいた。
「……わかった、やってやる」
「よし!じゃあ、ちょっと待って」
先ずはジョブ聖母に就く。覚えたスキルは譲渡。
残りポイントは25P。船の操船に必要そうな下級水魔法と風魔法を覚える。聖母に就いた事で覚えられるスキルが増えたみたいだけど、ポイントが一杯要るみたいだから後回し。
残り15P。出力はあるだけ必要だろうから全部INTに注ぎ込む。ジョブ魔術師に就いた時に補正とやらでEまでは上がっていたので、今回のポイントでギリギリDまで上がった。
まだ一度も魔法を使った事も見た事も無い身では、INTがDでの下級魔法がどこまで役立つかはわからないけど、頑張るしかあるまい。
「よし!エルク、私のステータス見て!」
「?……!何で?」
手を伸ばしエルクにステータスを見せると、エルクの目が驚きで見開かれる。
「今は私が異人だからって事で納得しといて!それで、これからエルクにジョブ盗賊と鍵開けのスキルを譲渡するから、私を解放して!」
「……わかった」
使い方はわかる。このスキルを覚えたらその使い方もわかるようになるのは本当に有り難い。
『譲渡』は相手と接触していれば出来るので、ステータスを見せる時に握った手を通して、これから譲渡するジョブとスキルを思い浮かべる。
「じゃあ行くよ、『譲渡』!」
「!これは……」
エルクは突然身に付いたジョブとスキルに戸惑っているようだ。エルクの話ではジョブもスキルも鍛錬や戦闘の果てに身に付くらしいから、ポイントで身に付ける私と同じ様な感覚を今感じているんだろう。
あれは、変な感じだった。突然身に付く力と知識に結構びっくりした。
「どう?手錠外せそう?」
「……あっ、ああ、出来ると思う。……開いた」
持っていた小さく細いナイフを取り出すと、鍵に突っ込むエルク。一分もしない内に私は約一週間囚われていた手錠と鎖から解放されていた。
「やった!よし、次はこの船の乗っ取りだ!行くよ!」
「お、おう……」
まだ、エルクは色々と整理が着いてないみたいだけど、今は時間が無い。
私もまだいまいち整理着いてるとは言い難いんだ。
このまま死んでたまるか!