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気付くと囚われの身。
木造の部屋に鉄格子、窓があるけどそこにも鉄格子。
そして手足には鎖吐きの手錠の様な物が付けられ、鎖の先は壁に繋がっている。
警察に捕まる様な、何か悪い事したっけ?
いや、そんなわけない。というか、こんな捕まえられ方人権無視過ぎる。
私は凶悪犯かっての。
ここ警察じゃなさそうだし。
じゃあ、誘拐か?
でも私、家で寝てた筈なんだけど。家族も居るし、不法侵入して私を誘拐して牢屋に入れるとか随分アグレッシブな誘拐犯だな。
窓から外を見てみたいけど、鎖の長さ的に無理そうだし。
ただ、なんか漣の音が聞こえるというか、もしかして海傍?
というか、この部屋揺れてない?
もしかして海傍どころか海上?船の中?
木造船とか天然記念物じゃない?
あっ、人造だから天然じゃないか。
……いや、問題はそこじゃないよね。
ここが、船の中でそこにある牢屋の中かと言われると、それっぽい気がする。
映画とかで見た、昔の海軍や海賊の船で見た感じによく似てる。
あっ、わかった!これ夢だ。
そうだよね、家で寝てて目が覚めると木造船の牢屋で囚われの身とか夢以外の何物でもないよね!
うんうん、夢でしかありえないっていうか。
……手錠付いてる手足が痛いけど、夢でも痛み感じる事もあるって言うよね。
……うん、現実感ある夢だよね。
……すみません。現実逃避してみました。
ちょっと夢を結論にするには、無理があるかも。
まあ、夢落ちを少しは期待しつつ、現実であると思ってこれからどうするべきか考えようか。
とはいえ出来る事なんて何も無いんだよね。
手の届く所にはベッド位しかないし。それもかなり粗末なベッド。
刑務所のベッドの方がまだ上等だと思う。今迄これで寝ていたせいで身体が痛いし。
出来るのはこの寝たら身体が痛くなるベッドで寝る位しかない。
かなり良くない状況だとは思うんだけど、何も起きないせいで悲壮感も危機感も抱けない。
ここは私も目覚めた事だし、そろそろ誘拐犯の登場とか無いだろうか?
なんて事を考えていた私の願いが通じたのか、こちらに向かう足音が聞こえてきた。
変化を求めてはいたけど、変化が起きたら起きたで凄い緊張してきた。
そんなドキドキする私の前に現れたのは、十二、三位の少年だった。
ふむ、ぼさぼさの髪や汚れた顔、ボロボロの服のせいか微妙だけど、素材はかなり良さそうだ。
これはイケメンになるだろう。
風呂に入れて体中洗って、髪を整えて、服を着せ替えしてみたい。
別の意味でドキドキしてきた。
……いや、そんな状況じゃない。
「起きたのか……メシだ」
少年は少年の体中を凝視する私を見ると、そう言って持っていたスープとパンを鉄格子の隙間から中に入れる。
いや、そこだと届かないんですけど!
というか、少年の態度が凶暴なライオンに餌を与える様な感じなんですけど!?
やっぱり私は凶悪犯ですか!?
いやいや、私は人畜無害だよ!ショタ好きだから少年にとっては違うかも知んないけど!
あっ、動揺して趣味暴露しちゃった。
いや、そんな事はどうでもいい。
こんな乙女を捕まえて、その態度はおかしいんじゃないかな!?
そして、そのまま立ち去ろうとする少年に、私は慌てて待ったを掛ける。
「ちょっと!その位置だと私届かないんだけど!?」
「……」
手足の手錠を掲げながら私がそう言うと、少年は手錠と鎖とメシを見比べる。
そして、嫌そうな表情を浮かべると恐る恐る手を伸ばしメシを私の方に押し出していく。
……いや、中に入ってよ。そんなに私が怖いんか?
マジで泣きたくなってきた私を無視して、少年は手では無理だと思ったか今度は足で押し出し始める。
ご飯を足蹴にするな!
そしてそれでも無理だと悟った少年は、やっと中に入ってきた。
鍵を取り出すと鉄格子の扉を開け恐る恐る入ってくる。
中に入っても、鉄格子に背を向けた状態で蟹歩きで、極力私に近付かないようにしてなんとかメシを私の手の届く場所まで押し出した。
ここまで怖がられると自棄になって、少年がメシを押し出すミッションが終わってほっとした所に、がばっ!といきなり動いてやった。
「ひっ!?」
すると、少年は飛び跳ねて逃げていった。
おーい、鍵掛けて無いぞー。いいのかー?
いやね、ちょっと大人気ないかな?とは思ったよ。でも、あそこまで怖がられるとさぁ。
……はあ、ご飯食べよ。
ごちそうさま。
うん、パンもスープも不味い。というか味がしない。
パンは固いし、スープは具どころか塩も殆ど入ってない。
まあ、完食したけどね。他人に作って貰ったものを残しはしません。
さて、食事も終わった所で、幾つか考える材料が増えたので考察してみる。
先ずさっきの少年は外人っぽかった。
髪は汚れてたけど金髪だったし、目の色は緑色だった。
でも言葉は通じたんだよね。ちょっと違和感あったけど。
そして、私は凄く怖がられてた。
なんでだろうなぁ、手錠で繋がれてるか弱い女をそこまで怖がる理由がよくわかんない。
どちらかと言うと怯えるのは私の方じゃない?
下卑た海賊みたいな輩が現れて、へっへっへっお嬢ちゃん気持ち良くしてやるよとか言って、あーれーって感じになるかも知れないのを覚悟してたんだけど。
いや、ならなくて良かったけどね。でも可愛い少年に怯えられるのもちょっと。
そして、考察位しかやる事の無い私はそのまま考察を続け、辺りが暗くなり始める。
暗くなり始めた頃には考察の内容は少年に似合うファッションは何かとかに変わっていたけど、まあ考察材料が殆ど無いから仕方が無いと思う。
何も起きないし、寝ようかと考えた所で再び足音が聞こえた。
この足音はあの少年に違いない!
いや、足音で人物の判別とか付かないけどね、なんとなく決め付けてみただけだよ。
当然、私のそんな推理等当たるわけも無く、来たのはこれぞ海賊の下っ端と思える男だった。
キョロキョロと辺りを見回しながらで不審者っぽい。
「ヒヒ、中々美人だなぁ……お?鍵掛かってねえじゃねえか、ヒヒヒ」
少年ー!鍵忘れちゃダメじゃないか!……はい、私の自業自得です。
やばい、貞操の危機か!?
「おい!何してる!」
そこにもう一人下っ端が現れる。
止めてくれそうだ、やった!
「い、いや、ちょっと様子見に来ただけだ」
「傷一つでも付けると船長に殺されるぞ、値段が下がるかも知れんからな」
「わかってるよ」
「それに、『異人』だぞ、どんな能力を持ってるかわからんぞ」
「ああ、そうだな……ちっ」
最後止めた方の下っ端Bに聞こえない位に小さく舌打ちすると、下っ端Aは部屋を出て行き下っ端Bと共に立ち去った。
ふう、危なかった。
でも材料が増えたな。
値段が下がるとか言ってたし、私は売られようとしてるわけか。
人身売買かぁ……やばいな。
あと、『異人』だからどんな能力を持ってるかわからんかぁ。ここら辺に少年が怯える理由とかありそうだけど……私ただの女子大生なんだけど、この状態で何か出来る能力なんて持ってねえよ。
もう訳わかんないなぁ、これは誰かと交流するしか無いかな。
交流するとしたらやっぱり少年かな?明日もご飯持ってきてくれる事を信じよう。
よし、そう決めたらもう暗いし、寝ちゃおう。
でも、一日一食なのか、お腹空いたなぁ……