プロローグ ~全細胞沸騰しました~
今日は私の晴れ舞台。
受験戦争を何とか切り抜け、見事勝ち取った大学の入学式である。
これから私はこの大学で、勉学に励み数々の友とともに青春を謳歌するのだ。
・・・・。なんて小説家っぽく言ってみたけど、はっきり言ってもう帰りたい。
勉強のかいあって、少しは有名な大学に進学できたものの、いざ周りの顔ぶれを見てみるとため息が出る。
入学式には何百人もの人がいて、人混みが嫌いな僕には最悪だった。
大学デビューの野郎共がいきり散らしている。これだから「脳内お花畑ピーポー」は嫌いなんだ。
これが大学の正門を入ってわずか十秒の感想だ。ふー。これから先が思いやられるぜ。
様々な思いが込み上げてきたがとりあえず、入学式の会場に向かうことにした。
会場へ向かう道は、うぇーい男子やお花ちゃん女子(脳内お花畑女子)で大いに賑わっていた。
人混みが苦手な僕は、そうした人種を横目に、少しイライラしながら進んでいった。
どんよりとした気落ちで歩いているとふと後ろから声がかかった。
「おい!マサ!」
(マサ?あぁそうそう申し遅れました。わたくし百田正志と申します。以後お見知りおきを。)
聞きなれた声だったので振り向く前から誰だかわかった。
声の主は高校三年間を共に過ごしてきた相田健二だ。僕は彼をケンと呼んでいる。
口に出して言うのは照れ臭いが、親友と呼ぶにふさわしいのは彼だけだ。
「あぁケンか。おはよう。」
ケンはテンションの高い奴だ、それを僕はいつもスッと受け流す。
真正面から迎え撃つとたちまち僕のHPが0になってしまうからね。
「あぁとはなんだ!せっかくの入学式だぞ!元気よく行こうぜ!」とケンは肩を組んできた。
ケン以外に朝っぱらからこんなテンションで接されたらたまったもんじゃないなと思いつつも、ケンなら嫌にならないところが何とも不思議である。
百田正志の七不思議の一つと言っても過言ではない。
「うーん。とりあえず会場に向かおうぜ。」と言いつつ内心ではケンもウェーイ男子の匂いをプンプンさせているので、彼の今後がとても心配でならない。
しばらく二人でで歩いていると聞き覚えのある甲高い声が聞こえてきた。
「あ!いたいた!」
僕とケンは同時に声が聞こえた方に振り向いた。
横から声をかけてきたのは内橋まどかちゃん。高校3年生の時に同じクラスだった。
僕は普通に話せる程度だが、ケンは彼女と仲がいい。
内橋さんも気さくな性格で、ノリの良いケンとは高校3年生のクラス替えのときにすぐに仲良くなったようだった。
「一人でこんな人数の中、歩くの大変だったんだからね!」
と内橋さんは言うが待ち合わせした覚えなど全くない。
「あ!忘れてた!」
とケンは言うが、なにを忘れていたのかは全く知らないし知りたくもない。
「この大学茶パデビュー野郎!」
と罵声を言いながら内橋さんはケンの後頭部を力の限り叩いていた。
「悪気はなかったんだ!ただただ忘れていただけなんだ!」
と言うケンに対し僕が救いの手を差し伸べる隙間はなかった。
こんな感じに高校時代からケンと内橋さんは結構言い合っている。
ケンカするほど仲がいいとよく言うし、巻き込まれたくないのでいつもほったらかしにしていた。
そうこうしているうちに、会場に着いた。ケンと内橋さんはまだ言い合っているが構わずに自分の席に着いた。
会場にだんだん人が集まってきた。流石にほぼ全員の入学生が集まると凄い人数だ。
只今の時刻は9:50。式が始まるまで後10分にまで迫っていた。
ふとケンが声をかけてきた。
「マサ!式が始まる前にトイレに行っておこうぜ!」
内橋さんとの言い合いも収まり、彼女は高校の女友達を発見しそちらに行ったみたいだ。
僕はあまり便意は感じていなかったが、ケンに付き合うことにした。
「そうしようか。」
二人でトイレに向かっていると、なんだかざわついている場所があった。
「あれなんだろうね?」
ケンに尋ねた時には、ケンはもうざわついている方に足を進めていた。
彼は野次馬魂も人一倍だからね。
仕方なくケンについていき、僕も何がそこにあるのか覗いてみた。
初めてだった。世界が止まって見えたんだ。
その瞬間僕の世界は、スローモーションに通り過ぎていく横顔と僕の心音だけだったんだ。
僕の全細胞が一気に沸騰した感覚だった。
百田正志18歳 彼女いない歴18年
これが恋ってやつですか?このやろう。
初めての作品で間違った表現なども多数あると思いますがご了承ください。