本能君の疑問と考察
しかしコイツは本当に人間だったのか?魂は本来の姿形を成すはず、蟲の集合体であるオレは対象の魂を観察できる魂視の力を獲得したがコイツの魂は人間はおろか生物の形すらしていない、無数の脚や手や触手が球体から浮かび上がったり互いに攻撃している。これは…そう怖ろしく深い沼の中に取り込んだもの達が沈まないように足掻き、もがきながら逃げ出せずに引きずり込まれているようだ。深い深い沼の星の中心部にコイツの魂の核が有るんだろうが確認は出来ないな。オレは今足掻いてる奴らの成れの果てなんだろうがアレに触れたら多分逃げられないのだろうな。そうか、言うなれば惑星と衛星のような関係か、近付きすぎると星同士がぶつかり再生不可能なまでに破壊され尽くす。逆に離れすぎると衛星は無窮の暗闇を永遠にさ迷う事となる。つかず離れずが一番いい、現状維持を続けろと言うことか。─
(どうしたんだ本能君?急に黙り込んで、まさか魂が足らないから一日に数分しか話せないとか?)
『チガウ。カンガエゴトヲ、シテイタダケダ。ソレヨリモ。ハラハ、ヘラナイノカ?サキホドハ、トビダソウト、シテイタノニ』
─少し前からコイツの魂の表層で足掻いていた奴らが力尽きたのか、完全に沈み込み沼の水面が凪いでいてまるで…─
(いや、翅が有るなら飛んでみたくなるだろ?)
『ヒトデアッタ、オマエガ、サイショカラ、トベルワケナイダロウ。シカタナイカラ、イキタイホウコウダケ、ツタエロ。コチラデ、ウゴカス』
─コイツは何なんだ一体、考えてみれば判るだろうに、滑空できれば御の字だな、そもそも思考が一直線過ぎる、悩まない、一度捕食を強制的に行ったら、直ぐに躊躇うことすらしなくなったな。…嗚呼、馬鹿なだけか。魂の姿も完璧故の形ではなく阿呆、もとい純粋故の球体なのだろう─
(お?あれって蟻か?よし!あそこに頼む!)
『ワカッタ。タノムカラトンデイル、アイダハ、ナニモシナイデクレヨ?カンショウ、サレルト、オチル』
(お、おう。了解だ)
─今はコイツと運命共同体だからな、何かいい方法が判るまで大人しくサポートしていよう─