現状確認②
俺は十匹程ゴキちゃん達を平らげ腹が満たされて、ようやく自分の身体以外、この倒木周辺の状況を確認する段階に入った。
(落チ葉ガ有ルッテコトハ広葉樹ガ有ルッテコトダナ…トリアエズコノ知識ノ事ハ置イトクカ考エテモ答ガ判ル訳デモナイシ。…俺、飛べルノカ?翅有ルシ、後ハ糸ガ出セルンダカラ巣モ作レルナ。マア考テモショウガネーカラ、先ズハ衣…ハ置イトイテ食ハマア何デモ喰エソウダナ、テコトハ住カ…確カ背ノ低イ街路樹ニ洞穴ミタイニ巣ヲ張ッテル蜘蛛ヲ見タ事ガ有ッタヨウナ…)
ひとまず俺は倒木を離れて巣を作れる場所を捜すことにした。
(此処ハ葉ガ少ナイナ…。此処ハ…ダメダモウ居ルカ。オ?此処ハ大丈夫ソウダナ)
俺の体長がわからないのではっきりとしないが倒木からの距離が大体10m位の場所にいい感じの低木が繁っていたので、其処をひとまずの住処とするため慎重に周りを警戒しながら登り始めた。
(オ?思ッテタヨリモ登リヤスイナ、ナンカ身体ガ自然ニ思ッタトウリニ動クシスゲー身体ガ軽イ)
想定していたよりも早く地上60㎝位まで登り終え早速、丁度良い場所が無いか辺りを探るがなかなか見つからない。
(ショウガナイ葉ッパ喰イ千切ッテ広ゲルカ枝ハ無理ッポイケド)
先ずは出入り口。この後糸で網を張って周囲を囲む為、かなり広めに喰い広げる。その先は枝を身体が十分通れるだけの空間を作るために糸で括りつけていく。でもって身体四つ分位まで低木の中に入ったら、今度は自分の寝床の為のスペースを…
(ダメダ、枝ガ多スギテスペースガ作レン)
寝床を諦めて通路で寝るかと考えていたら、身体の支配権がいきなり本能君に奪われた。そしておもむろに俺の脚よりも太くて固そうな枝に噛みついたと思ったら何の抵抗もなく枝を噛み砕いてへし折ってしまうと俺に支配権が帰ってきた。
(…俺ニ教エタカッタノカ?アレクライ気ニセズニ喰イ千切レルッテノヲ)
いきなり支配権を奪ってゴキちゃんを食べたのは頭にくるが俺のしたい事をサポートしてくれるのは有り難い、本能君に少し感謝しながら俺の満足できる位のスペースを確保して糸で枝と枝を繋いでいった。
数時間後出入り口から寝床までまんべんなく糸で周りを固めて、ようやく住処が出来上がった。
(ヨシ、コレデ安心シテ寝レルナ…?ナンカ揺レテル?)
寝床で糸を張り終えて休んでいると、何故か巣全体が小刻みに揺れ始めた。地震ではなさそうだし雨が降ってきた訳でもない。出入り口から寝床が直線に成らないように横から見ると逆への字に成るよう寝床が出入り口よりも身体一つ分高く作った、その為外の状況が判らないが何かが出入り口の糸にくっつきもがいて居るようだった。
(コンナ事ガ判ルノモ本能君ノオカゲカナ?)
巣を作り終えて、腹も減っていたのでとりあえず見るだけ見て、喰えそうもなかったら糸で丸めて捨ててしまおうと考えながら、出入り口に降りていった。
(コイツッテ……蜘蛛カ。ナンデ蜘蛛ガ蜘蛛ノ巣ニカカルンダヨ、蜘蛛ノ脚ッテ糸ニクッツカナインジャネーノ?…マアイイヤ、イタダキマス)
俺は俺よりも一回りほど大きな蜘蛛の丸々とした腹に食らいつき、体液を吸い出し嚥下していく。ゴキちゃんと同じように最初は暴れながら俺の甲殻に脚を叩きつけていたがひっかき傷一つつける事無く徐々に動きが鈍くなり、丸かった腹がぺったんこになる頃には痙攣すらしなくなっていた。
食い足りない俺は奴の頭に目を付け鋏角を突き立てた。
(ヤッパリ噛ミ砕ケルナラ体液ダケジャナクテ外側モ喰エルナ……御馳走様デシタ…!?マタカヨ!)
蜘蛛を丸々一匹頂いた途端にまたしてもあの抗えない眠気と痛みに襲われた、俺は急いで出入り口に糸で封をして寝床に這いずっていく。寝床に転がり込むと支配権を本能君に奪われ、自分の身体を自ら糸でぐるぐる巻きにし始めた。完全に糸に覆われると俺はまた前回のように深い眠りに落ちた。