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チョコよりも甘いーー…。

作者: 羽坂

バレンタインデーなので…!


挿絵(By みてみん)




――2月14日。




久しぶりに来たショッピングモールは、前来たより一段と明るくなっていた。明るくなっていたといっても証明が明るくなったとか、お店が新しくなったとか、そんな意味ではなく、ピンクと赤の甘甘な色彩で彩られていた。




「ああ………。もうこんな時期か」




黒いマフラーに口をうずめた。そんな風景が意味するものは、すぐに勘づく。お店の所々に飾られている、チラシや布に記された《Valentine's-Day》という文字がやけに目に付いた。




女性から男性へと渡される、年に一度の一大イベント。今日はその、バレンタインデーだった。






―――僕は正直、そういったイベントが嫌いだ。どうしてかって? ………普段からイチャイチャイチャイチャ甘甘な生活を送っているリア充どもが、このイベントのせいでさらに甘ったるい雰囲気を醸し出すからだ。唯でさえ普段から街中でそれを嫌でも見させられているのに、更にそんな醜態を晒されるのはうんざりなのだ。


それに僕は、本を買いに来たんだ。家に置いてある小説は全て読み干してしまい、新しい小説が欲しくなったから。学校がいつもより早く終わったからこれはチャンスだと思い、制服のまま本屋に立ち寄ろうと思った。


なのにこんな風景を目にし、今日がそのバレンタインデーだと実感させられ、僕は今ものすごく苛立っていた。だけれど本は買っていくつもり。こんな風景を目に焼き付けさせられ、黙って帰るわけにはいかない。此処まで来たんだから、本は欲しい。実際その為に来たのだから。


僕はくいっと中指で眼鏡の真ん中を押した。カチャ、と音が鳴る。


なるべく、周りのリア充どもは、見ないように歩いた。また、マフラーに口をうずめた。






◇◇◇






ゆっくりと、小説コーナーを見て回る。




……うん、いい。すごくいい。

先程とは違うこの雰囲気。この静けさといい、本のにおいといい、本に囲まれなんだかとても、気分がいい。あの甘ったるい空気の中此処まで耐えたこれた自分を褒めてやりたいものだ。その褒美に本を買おうとしよう。 ―――…なんか趣旨が違ってきてるような。まあいいか。


お気に入りになるような小説を見つけるため、念入りに小説を探す。表紙、本のタイトル、あらすじ――…その3つを基準に、自分に合う、自分の好みの小説を、何度も本を手に取りながら見つけ出す。直感で、コレだ。と思うものを。


お、これ良さそうだ。




トン。




……!

小説を取ろうと手を伸ばすと僕のより小さな手が、当たった。瞬間的にその手の主を見るため横向くと、丸々とした瞳とぱちりと目が合った。僕の肩ぐらいの小さな背の女子高生だった。「あっ」と小さく声を漏らすと、伸びていた小さな手を引っ込めた彼女。お店に入ったばかりなのか、その手は冷たかった。






「どうぞ、」



平均的な女子よりは少し低い声で、彼女は言った。僕に本を譲ってくれたみたいだ。ふわふわとした彼女をちらっと見てから、ぺこりと軽く頭を下げた。―――……他の小説を探すとしよう。


その場から立ち去ろうとすると、「あのっ……!」と呼び止められた。ドキリとした。恐らく、僕。振り向くと彼女は手を袖で隠した。寒さのせいなのか、鼻と頬は薄ピンクに紅潮していた。






「これ、落としましたよ?」


「ん。……あ、ありがとう」




僕がポケットから落とした、小説のしおりを拾ってくれたようだ。好きな小説のしおりだから紛失してしまったらかなり落ち込む。彼女に感謝、だ。しおりを受け取ると、彼女は「その小説、わたしも好きです」と微笑んで言ってきた。ん、この展開。なに、この気持ち。






「美鈴ー!いたいた。行こ!もう買ったよ!」


「あ、うん…!」




女子が彼女の元へ駆け寄ってきた。友達のようだ。彼女は、美鈴、というのか。「じゃあ…、」と、美鈴さんはまた微笑んでくれた。僕もぺこりと頭を下げた。去る彼女の背中を見つめる。


――さ、小説探しの続きとしよう。


と、タッタッと足音が聞こえてきた。近づいてくる。彼女が去っていった方向を見ると……………彼女が戻ってきた。僕の元へ来ると、「これ!」と、手をぐーにして何かを差し出してきた。頭に「?」を浮かべる僕を見て彼女はまた、頬を紅潮させて、






「ここでで会った記念に、私からのバレンタイン…!」






そう言って彼女は僕の手をぐいっと引っ張り、僕の手の平に1つのキャンディを置いた。ぺこりとお辞儀をして、彼女は走り去っていった。









甘い…。




―――…ああ、やっぱり、バレンタインデーはきらいだ。






挿絵(By みてみん)


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