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ヒロインはあきらめた  作者: あご
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8/11 2話連続投稿。2話目。

クルト君以外の二人はどちらも17歳と先輩で、リオさんとトールさんと名乗った。

誰とでも気軽に付き合いそうなタイプなので、ダリルとも垣根なく仲良くしてくれてるんだろう。

おかげで、男の子に慣れていない私たちも肩の力を抜いて話すことができた。

だけど女性群は彼らの話しかけに、途中から気もそぞろとなる。ダリルに目が行ってしまうからだ。

いえけして美形の方が大事、という問題ではなく。仮面に目をみはっているのだ。仮面を外して食べるのかと。その期待を裏切って、仮面は下半分がパカッと観音開きになったのだ。

それをみて彼女たちはあんぐりと口を開けた。かっこ悪いと。

ちなみに横のつまみを回して通気をよくするブラインド式、ルーバー式もある。白じいたちにセンスなど求めてはいけない。このままいけば、何か発射できる仮面も作るだろう。

ジザベルたちのキラキラした瞳がくもり、気の毒にも思えてきた。奇怪な仮面を涼し気に使いこなすダリルの姿は、彼女たちの様々なロマンスを砕いたに違いない。


「それにしても食料はどうしたの? 計画的に食べてなかったの?」

「いやーそれがさ、そいつのせい」


リオさんがそう言って指を指したのは、ダリルの運んでいた大きな荷物……人だった。

木の幹で作った担架に縄で括られて、グッタリしている。


「ダリルにいやがらせしていた主犯格。ダリルに手出しできなくなったからって今度はクルトに標的変えてきてさ」

「……寝てる間に荷物、燃やされちゃいまして……。飛び火して皆のも……すいません」

「えええ!? なにそれ!」


私たちは憤った。クルト君は自分が不甲斐ないのか、シュンと小さくなるけど、先輩方は皆笑っている。


「謝るなよ。地図がなくたってお前、匂いと風で方角が読めるんだから」

「ええ!? すごいねクルト君」

「だろ? それにクルトは一度通った場所を忘れないんだぜ。おかげで同じとこグルグル回ることはなかった」

「しかもこの距離をこの短時間でって、俺らすごすぎ!」

わははと自画自賛する先輩方。いつの間にか山一つ分だもんね。ほめるトコなのかよくわかんないけど。


「で、むしろダリル、お前だ」

「すいません、やりすぎました」


ぐげ。一体何したのよ。私は恐る恐る尋ねた。


「あ、あのー……義弟が何のご迷惑を……」

「ああ迷惑どころか、よくぞやったってとこだけどさ。燃やした犯人、即とっ捕まえたんだから。だけど勢いよくぶん殴ったもんだから、犯人のこいつぶっ倒れて気絶」


そう言って、ダリルが運んでいた人物を指さす。あ、ホントだ、頬腫れあがってる。


「こいつのチーム、それ見て一斉にどっかへ逃げだしちゃったから、気絶した人間一人置いていけないしさ。しょうがないからこうやって加害者が運んでるわけ」

「まだ目、覚まさないのか? とんだ坊ちゃんだなあ。鍛錬してないな」


「でもひどいわね……。そんな陰湿な攻撃するなんて」


そういうのが許せない、正義感の強いディアナは本気で怒りかけ、ポークチョップを強く握りしめている。『陰湿』の言葉が出て、私とダリルはついギクリとした。リオさんたちは「でしょでしょ!?」とディアナに同意し、ジザベルたちも「ホントひどいわ。言いたいことがあるなら正々堂々と正面から言えばいいのにね!」「そーよそーよ!」と盛り上がる。

……陰湿攻撃を教示する親を持つ私とダリルは、「うんそうね」「そうだなうん」だけで過ごした。……うーん、世間ズレはダリルだけじゃなく、エンライトン家そのものか……。


「それにしてもディアナさんは優しい人だな! よかったら俺と」

「何ぬけがけしてんだテメエ! 同盟の約束事反故にする気か!」


リオさんとトールさんがケンカを始めてしまった。そういえばダリルが以前言ってたっけ。ディアナが学校ですごい評判になってるって。同盟まであるのか。

ジザベルとエリアーデと私はシラけ、ダリルは黙々と食べ続け、クルト君は近くの植物に見入っている。


「あの、お願いがあるんだけど」


あ、ディアナがダリルに話しかけた。


「何?」

「武術、お相手してもらえないかしら。大会で見たあの技、どうしても体感したいの。お願いしますっ」


ダリルは「そういうことなら」と仮面の観音開きを閉じて、広い草原にディアナを招いた。ディアナは笑顔になって後を追っていく。その顔に、蝶々を追っているクルト君を除いた人間は、巨大な敗北感に沈んだ。

立ち姿だけでも美男美女である二人が並ぶと絵になりすぎて、直視できない。まぶしい。

あ、あれだ。私の持っている乙女小説『薄紅の剣士と漆黒の騎士』じゃないまるで。

だけどやってることは取っ組み合いだしなあ……。

リオさんとトールさんはいじけ、立ち直りが比較的早かったジザベルたちに、「いつまでもうじうじしないでもらいたいわ、この陽気に!」と喝を入れられ、「そうだよな……」と涙を拭いている。

私はちょっと離れた所で、花に止まった蝶々を観察しているクルト君に声をかけた。


「クルト君、ちょっといいかな」

「どうしたんですか? リンデさん何か困ってないですか?」


顔に出てたのか。隣に座って同じく蝶々を見つめながら、話した。


「クルト君、もしかして街にも詳しい?」

「はい。全域頭に入ってますよ」

「すごいね。……教えてほしいんだけど、『R・サミィ』って雑貨店わかる?」

「ああ、オリヴォウ大学の近くにあるお店ですよ。主に文具を扱ってますけど」

「文具? そうなんだ。うん、わかったありがとう」

「リンデさん、何かする気なんですね。何ですか?」

「えっ!?」

「身近な人に訊ねてもいい内容なのに、こんな陽気のピクニックに思いつめた顔で僕に訊ねる。心にずっと引っかかってることなんでしょう?」


日に焼けた頬をしたクルト君がこちらを見た。彼の青みがかった瞳をジッと見つめてから、私は持ち歩いている広告をクルト君に見せた。


「……これってよくある詐欺まがい商法みたいですね。記念品贈呈とか言って店に閉じ込めて色々買わせる……でもあそこは大学が経営してる所だから、そんな変な商売するとは思えないけど」

「うん。だよね……」

「これ、僕が代わりに行きますよ」

「! やめて、行かなくていいから」

「行きます。リンデさんが行かないんだったら僕が一人で行ってみますから。それかダリル君かエンライトン中佐に話してみましょうか」

「う……」

「やっぱり話してないんですね。ここに『アナタだけに』『秘密で』って書いてますしね。リンデさんはこの手紙のウラに何か心当たりがあるんでしょう? あるからこうして気にしてるんでしょう?」


そう。蝶とリボン。連想したのはマレヴィルのセラティス王子。私を蝶々お嬢さんレディバタフライと言った。それと、落としたリボン。

もしかしたらこれは、王子からの合図なんじゃないか。

あれからもう一月以上は経っている。でも私は日に日に気になることがあった。その気になることが膨らんでいて、どうしても王子に会いたくなっていた。

でもこういうのって、ヘタに首を突っ込んだり一人暴走でもしたら、周囲にどれだけ迷惑がかかるか。父さんが元気になったら話したいと思ったのに、父さんは出ていったきりだし。

そんな風に悩んでいると。


「じゃあ僕行ってきますね! 大丈夫ですよ、なんか興味そそるんですよ、こういうの!」

「やめやめやめて! わかったいっそ一緒に行こう! もう行っちゃえ!」

「へえ、デートでもするのか、クルト。よかったな」


横から声がして、驚いた。縛られた男がそこに立っていた。いじめっ子、目をさましたのか。背中には担架にしている幹をのぞかせている。よく立てたな。そばにいたはずのリオさんたちを見ると、ジザベルたちとなんか盛り上がっていて、この人にはまったく気づいていない様子。


「レミュエル……。まだ僕に突っかかる気なら、僕だっていい加減黙っていませんよ」


クルト君が縛られ男をにらむ。縛られ男はふん、と、クルト君を一瞥してから、今度は私をにらむ。な、なによ。手も足も出ないくせに。

……ん? この男、どっかで見た気がする。どこだっけ。誰だっけ。


「ふん。けったいな女だよな。あんなのと一緒に暮らして、親が親なら子も子か」

「けったいな格好で言われても」

「っ! うるさい。それより。エンライトン中佐はダリルの母親を自分の手で殺したんだったな。母親を殺した男を父親にするあいつの神経、どうかしてるよ。しかもな、あいつの母親は父親独り占めしたくて自分の子供まで邪魔にするような女だ。狂いまくってると思わないか?そんなのに囲まれて暮らしているお前もどうかしてる女だな」

「レミュエル! いい加減にして下さい! 口にしていい規定内ではありませんよ!」


さすがのクルト君も怒鳴る。この縛られ、お偉いさんの子だって言ってたよね。よくそうペラペラ……これは私も何か言い返さないといけない。しかし、一発で黙らせる言葉が浮かんでこない。何かないかととりあえずにらんでいた。

……ん? あ。思い出した。この人、前に声をかけて来た訓練生の一人だ。「あの日から君の事が気になって」って一番ふざけた事言ったやつ。だからちょっと覚えてたんだわ。


「あなたヒゲ事件の後、声をかけてきた人だよね」


私がたずねると、クルト君は「えっ」と驚き、縛られた男は怒りいっぱいに顔を染めた。

「レミュエル……? どうして君が? あの頃はダリル君や僕たちにかかわらなかったのに」

「今さらそれを出さなくていいだろ! 過去のことだろうが!」

「それそのまま返すわよ。過去話されても困る。うちにもう一切関わらないでください。あっちいこ、クルト君」


私はクルト君の手を引っぱって、その場から遠ざかることにした。なんなのああいう人って。


「あの、リンデさん。レミュエルがリンデさんに声をかけたって……」

「なんかあの日から気になったみたいなこと言ってきたの。騙すんならもうちょっと上手いこと言えって思わない? ヒゲつけた女をさあ」

「あの、あの、リンデさんその時どうしたんですか」

「クルト君の時みたいに『さよなら』って逃げたわよ。一発殴りたかったけど」

「……ああ……僕とダリル君への攻撃って……そゆこと……」

「どしたのクルト君。脱力系でやっていくの?」

「……いえ」


その時、「キャア!」と悲鳴が上がった。


その方向に顔を向ければ、目に映ったのは抱き合って倒れている一組の男女。

一人はディアナ。一人はダリル。

ダリルは仮面が外れている。ディアナが下で、ダリルが彼女を見下ろしている形なので、顔は私たちには晒されていない。至近距離で見ているディアナは、赤い顔して硬直状態。ダリルも硬直状態。

私たちも、それぞれの思いで硬直状態。


私たちが硬直する中、ダリルは急いで仮面をかぶり直し、ディアナから離れた。だけどディアナはまだ倒れたままである。


「どうしたの!? ディアナ!」


ダリルがかがみこんでディアナの頬を軽く叩く。私が近づいてディアナを見れば、その目はトロンとして、ぼんやりしていた。けど、ダリルが与える痛みで目を見開いて、生気を取り戻した。

後の人たちも何事かと駆けつけると、ディアナは慌てて起き上がって、

「大きな蜂が飛んできて、ビックリして、転んだのを彼がかばってくれて。ごめんなさい皆。驚かせて」

「そうだったの。どこも怪我してない?」

「大丈夫よ心配しないで。ダリルもありがとう」


気を使わせまいと、ことさらに皆に笑顔を向ける彼女をダリルは仮面ごしに見ている。ディアナがジザベルたちの所へ、休憩のために歩いていく後ろ姿も見ていたことに私は気づいた。

どうしたんだろう。明らかにディアナを気にしてる。……なんかあれ? もしや?


「リンデさんは大変ですね。色々」


突然クルト君に言われて彼の方に向き直ると、物凄い憐れんだ顔を向けられている。えー、何の同情かなあ。


「クルト君、人のもやもや読まないでくれる? 違うから、絶対違うから」

「魅了に慣れたといっても、人って『執着』がありますからね。色々ひきづりますよね……」

「成程、『執着』……。うん、それ。自分だけになついてた子犬が他の人に目を向けると寂しいよね。クルト君、うまいこと言う」


私が関心するとクルト君は苦笑した。


そのあとジザベルの所の御者さんたちが来て、新しい馬車で帰ることが出来た。ダリルたちは現在地を確認すると、今だにらんでくる縛られ男を引っぱってまた山へ戻って行った。


馬車の中では、ジザベルとエリアーデが「結構楽しかったわね」「リオさんたら」「トールさんがね」ときゃいきゃいはしゃいでいる。彼女たちはすっかり仮面ダリルから離れたようだ。


「リンデがうらやましいわ。無条件に彼の傍にいることができて」


ふいにディアナが私に言う。驚いて彼女の方を見ると、ディアナの目は……ああああ、嫉妬の目。女の目! そんな!


「スタートラインからして違うものね。努力しなくても近くにいて彼を見ていられる……ずるいわ。その位置を、苦労もしないで手に入れることができて」

「ディアナ、落ち着いて。私たちそういうさ、男絡みで友情壊したくないって、くだらないって、ディアナよく言ってたじゃない。ね?」

「そうよ。言ったわよ。だからドロドロしたくなくて溜まった鬱屈、正直に吐き出してるんじゃない。……ああでもダメ。あんなこと言ったけど、誰かを好きになるってわかってなかった小娘が言ったことだわ。人って変わるのよ」

「怖いんだけど。アゲハチョウがモンシロチョウを攻撃しなくてもいいじゃない」

「全力で手に入れてもいいでしょっていう許可をとってるの」

「なんで許可? もしかしてアレ? 私もダリルを好きであとで私が取った取られたって泣くことにならないための予防? 悪いけどはまりたくないし、ディアナを敵に回したくない」

「逃げる気? 義姉のあなたが一番勝率高いのよ。逃がさないわよ」

「それだから逃げたくなるんだってば。……あのさあディアナ。確かに私最初はダリルに惹かれちゃったけど、とっくに振られて、なんとか今姉としてやっていく努力してるんだからさあ、塞がってきた傷のかさぶた暴いて塩カラシ塗ってくれなくてもよくない?」

「それは知ってるわ。私が言いたいのはあなたがそうでも、今度は彼の方がどうなるか分からないってことよ。一つ屋根の下なんだもの、そういうことになるキッカケや条件が多いのよ。だからずるいわって言ってるの」

「ないないそれはない、絶対に悲しいくらいにない。私、兄貴認定だもの。それに本人が『恋だのってしたくてもできない』って言ってる。理由は色々あって、ってことで、深く聞かないで」

「だからって引き下がると思う? 私が。黙っているよりやることやって玉砕する方を選ぶわ」

「つまり何? 万が一ダリルが私に気がむいたら振れってこと?」

「そんな三流の悪役みたいなマネしたくないわ。私も会う時間が欲しいっていってるの。一番上の兄が武術教室やってるの知ってるでしょ。誘ったら行きたいって言ってくれたわ」

「……ダリルのどこがいいの? 顔?」

「最初はそうだったけど、今日確信したわ。強いんだもの。あんな強さの人、今までいなかったもの」


そう話す彼女は今まで見たことない、可愛さと色っぽさを含んだ笑顔を浮かべた。

か、可愛いんだけど。普段クールビューティが必死になるとえらい可愛いんだけど。ずるいー! 美人が可愛さも装備してるってずるいー!

それにしてもこれ魅了が原因なら、あまり賛同できないな。魅了なら。


次の日ようやく帰ってきたダリルはボロボロだった。ジザベルが両親に頼んで、軍に話をつけていたらしく大きな処分はないけど、当然地獄のシゴキがあったらしい。

フラフラしながらも、ダリルはディアナのことをまず尋ねてきた。


「彼女は元気か?」

「え? 元気だけど?」

「至近距離で不意打ちに魅了を受けたのに、なんともなさそうだったからさ」

「……う~ん。よくわかんない……」

「悪いことしたなって、気になって。それになかなか腕がいいしさ。また会ってみたいな」

「へー」


へー。…………異性に初めて興味しめしましたよ、ダリルが。さすが、ディアナ。

これってもしかして、ダリルにもそういう感情が持てる切っ掛けになるんじゃないかな? 

姉としては応援、応援。応援。応援。応……


…………魅了のばかーーーー! もやもやもやもやするー!



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