プロローグ
学園バトルラブコメディです。よろしければ、お付き合いください。
夢を見た。
周りの風景は、俺の生まれ育ったやや田舎の町、茶菓木町。田舎とは言え、町なのでビルはそこそこある。廃ビルの数の方が、圧倒的に多いが。
俺は、道路のど真ん中に立っていた。普通なら有り得ないが、これは夢だし、そもそも車が一台もいない。それどころか、この風景は、灰色であった。
木もビルも空も全てが灰色。色があるのは、俺--ともう一人の人間。
いや、能力からして人間と呼ぶべきかどうか、かなり微妙な線なのだけれど、姿は人間の美少女の形を模しているので、便宜上、人間ということにしておこう。
俺の目と鼻の先にいる一四歳の美少女。紫がかった黒の長髪に、ナイトブルーのくりっとした目。顔立ちはまだ幼く、肌は雪のように白い。背は小さい部類だろう。まさに誰もが目を引く美少女であった。未熟の美花、と言った所か。
そんな彼女が、何故俺の夢に出ているのか。それは予知夢でも回想でもない。彼女--紗堂香我美一四歳は、俺の“影”に取り憑いているのだ。そしてこれは、眠っている俺との交信なのだろう。
彼女は、影の王である。怪異ではなく、異能力者らしい。ただ、異能力と言ったら超能力が主流なのだが。
では王とは何か。
「王はある町の、一五人の異能力者のことを差すんだよ、お義兄ちゃん」
目の前の美少女、香我美が口を開いた。どうやら、ここは俺の意識の世界のようだ。そう考えれば、モノローグを読まれても仕方がない。
俺は呆然としながら、香我美の話に耳を傾けた。
「王は、火・水・風・地・月・雷・時空・影・鬼・龍・魔・修羅・福・狼・刀の一五人がいて、私は影の王。影の王は人に取り憑いて、人の内面的弱さを表したもう一人の自分を作り出し、心の世界を作るの。だけど、取り憑いた人にもメリットが無いわけじゃないんだよ、お義兄ちゃん。その人は、影を操ることができる。人の影に忍び込んだり、影を具現化することとか色々影を操ることができるんだよ。ただ、作られたもう一人の弱い自分と和解しなきゃ、その能力に溺れてしまうんだけどね」
香我美は無邪気な笑顔で言うが、俺はこいつの笑顔が大嫌いだ。読めない。心が、見えないのだ。その笑顔が裏としか思えない。
いつのまにか、笑っている彼女の右横に、初めて見る、背が高く女のように長い髪の毛をした男が立っていた。髪の毛は乱れていて、その目は死んだ魚のように生気を失っている。
だが、俺にはこいつが誰だかすぐ分かった。髪の色に瞳の色、そして背丈--つまりは、これは俺の内面的弱さだと。
「御名答だね。この男性はお義兄ちゃんの内面的弱さ、五十崎影人。君の影だよ。ほら、主人様に挨拶して、影人お義兄ちゃん」
香我美が言うと、影人は俺と目を合わせた。伸びきった前髪で、右目が隠れていたが、それを気にせず、抑揚の無い声で言った。
「初めまして、主。我が名は五十崎影人と言う。これから、よろしく頼む」
……俺の深層意識って、まだ中二病のままなんだな……。
何だよ、我って。
「あははっ、新たな発見に気付いたようだね、お義兄ちゃん。そうだよ、新たな発見は面白い。色々見つけると良いんだ」
……時々お前って、老成してる所あるよな……。
「いやいや、普通の一四歳だよ。と言っても、少し物を知りすぎた感は否めないけどね」
そう言って、香我美は影人と共に俺に背を向けた。
「そろそろ時間かな。また会おうね、お義兄ちゃん。近いうちに、現実世界でも会うかもしれないね。……神衣町は、王の場所だから」
神衣町……一体お前はこの町のことをどれだけ知っているんだ?
俺が心で問うと、香我美は足を止めて振り向いた。
「うんざりするほど、ね……お義兄ちゃん、知りたい?」
その笑顔はいつも通りで、しかしどこか悲しさが漂っていた。