新入生の小手調べ 中編
能力検査、それは魔法使いにとって最も核となる大切な出来事。
能力――いや魔法といってもいいかもしれない。大切なのは生まれ持っての能力=魔法 だということ。
この世界は上手くできてあり、科学と魔法のパワーバランスが均等に保たれている。科学で出来ない事は魔法で逆もまたしかり。魔法使いは生まれ持っての能力をいかに極めるかで強さは決まる。
まず、自分の能力を知り、そして魔術で補う、それが魔法使いになる最もありふれた道である。
能力はいくつかに分けられる。 まず破壊系そして創造系。この2つの能力は非常に稀少であり、その高い戦闘能力から護衛などに起用され、お金持ちに喜ばられる。 大抵の場合、執事などはどちらかの能力を持っている事が多い。
次に移動系、妨害系、暗示系、そしてどれらにも属さない能力は特殊系として扱われる。この名門、理図高校で今、魔法使いにとって人生を決めるであろう能力検査が行われようとしていた。
「では、能力検査を始めたいと思う」
よく響く野太く大きな声。 ある人は怖いと思うであろう声。しかし私はそうは感じず、この声に一種の優しさを感じていた。
「では、まず君たちにはこの学校の近くにある「ゴーカート」に乗ってもらう」
ゴーカート……へ? それで自分の能力が分かるというのだろうか。
いい忘れたがと付け加え、
「まず、ゴーカートに乗って緊張をほぐせ」
皆が緊張していたのを心配しての発言。私が感じた一種の優しさとは「これ」であったのか? しかしその声からは「手慣れた」感じすらも感じさせられた。まるで、いつも誰かの面倒でも見ているかのような――なんとなく察しはついた。彼は最初に「青木の代理」だと言っていた。代理があの「戦い」があったあと、すぐに来れるとは到底思えない、おそらく彼は青木やルルミア、ピエロとなんらかの関係があるのだろう。
徒歩3分でサーキット場に到着、本当に近い。ゴーカートは1レースにつき12台ほど走るので、順番は最後の方にはなるだろう、出席番号は「五十音順」だから。私は「ゆ」。だから最後。
「出席番号順に並んだら、「一名」ずつゴーカートに乗って走ってもらう」
「一名」ずつですか――案外、順番がまわってくるのは遅くなりそうだ。
能力検査、か。吉田先生は何の能力者なんだろう。青木先生とルルミアは破壊系だったけど。やはり吉田先生もその類の稀少な能力者なのだろうか。能力に性格が大いに関係しているという論文は読んだことがあった。 「以外にも破壊系には心が弱い者が多い」という項目以外忘れてしまったが。
青木先生は本当は心が弱いのだろうか? とてもそうは見えなかった。 そういえばオーデの能力は一体何なんだろう。戦いでピエロや青木先生とは違い能力を使ってはいなかったように見えた。後で聞いてみよう。それより、今はゴーカートの件に集中しないと。オーデの出席番号は最初のほうだ、なんせ「オ」だから。 昔から出席番号順というと最後だったな――この気持ち分かる奴はいないのか? 私だけだろうか。
しばらく時が経ち……。
「百合式、レッツゴー! ゴーカート!!」
ハイテンションの吉田先生、ここは私も……!!
「イッツ ランズ スゥィリアスリーィィィ!!(本気で走るぜェ!!)」
「オーケーだ!! やればできる子百合式ィィ!!」
褒められるのは大好きだ!おお、気分が上がってきたぞォ。
「百合式! 行きます!」
ゴーカート乗車。
クラスの仲間達は皆ジト目。
――ちょっと待て、ゴーカートってどうやって操作するんだよ?! 乗ったことないよジェットコースターしか?!
あたふたとしながらも、なんとか発進させることができた。おい、このゴーカート――ブレーキが無い。 ずっとアクセルを現在進行形で踏んでいる私にとって、最初の壁が訪れる、カーブだ。
「おいおい?! 無理だって、曲がれねえよ! 」
吉田先生はニヤニヤしながらこちらを見ている。 あの野郎、楽しんでやがる! 気持ちは分かるぜ、人の不幸を見るのは楽しいもんな! ご飯もおいしく感じるもんな!
――衝突。
私はゴーカートから無言で降りそして静かに後ろへ並んだ。出席番号、憎むべし。
「クスッ」
ところどころからクスクスと笑い声が漏れる。走る前は「スィリアスリーィィィ」なんて叫び、その結果がこれだよ! 笑えよ、笑われればいいと思うよ! ゆるゆり、いやなもりさん。ありがとう。
少し前に弟がしていたようになもりさんに祈るように心で呟く。
「では、教室へ戻ろう――ドゥフフ」
私にブレーキの無いゴーカートを用意し上手く口車に乗せた吉田が押し殺していた笑いが口から溢れた。
教室に辿り着くまで時間が異様に長く感じる。 後ろで私のポニーテールにしている髪も心なしかしおれている気が――する。 この髪とも付き合いは長い、いわば私たちは運命共同体。髪にこんな感情を抱くなんて想像もしなかった。 もう、いっその事ブルーメンにでも入ってしまおうか。
ブルーメンといえばあのタキシード。 あいつはおそらく音楽の国「アリテル」に居ることだろう。
「アリテル」は音楽好きな奴にとって聖地のような所。 「アリテル」は音楽で国が成り立っている。
有名な楽器のメーカーは大抵「アリテル」から生まれている程。 「アリテル」か。一度行ってみたいものだ。
教室到着。
「では、能力検査を始めるぞ、能力検査の方法はこのビー玉を転がしてもらう」
緑色のビー玉を手で摘み野太い声で話す。
「このビー玉はちと特別でな、能力を測るのにちょうどいいんだ」
「まず、俺がやって見せよう」
吉田先生はそう言い、ビー玉をゆっくりと机の上に転がし始めた。
――?!
ビー玉は突然光りだし、まるで電球のように変化した。
「俺は暗示系の魔法使い、ビー玉に命じたんだ、光れ、とな」
「さて、手本は見せた、一人ひとり俺の前でビー玉を転がしてみろ」
出席番号順にな、と付け足しクラスメイト達は吉田先生の前に一列に並びんだ。
皆、ワクワクしているのだろう。 なんせ能力を手にできるのだから。幼馴染達は今頃何をしているだろう。みんなもう自分の能力を知ったのだろうか。 だとすれば、私はいつも最後だな。
続きます。
書いてるのが割りと楽しいです。
絵の練習をしてみることにしました。
次回で「新入生の小手調べ」は終了します。