百合くんのリアル「弟」
話は変わるに変わって最近、魔法学会で議論されている興味深い論文がある。題名は、
「ネット環境とひきこもりの関係」
適当そうな題名だが、中身は大真面目に書かれていいる。内容は題名の通りで、ひきこもりとネット環境との関係性について書かれている。 不思議なのは、匿名で投稿されたという事と注目を集めているにも関わらず、名乗りでないところにあった。
内容を要約すると、ひきこもりの60%はオタクである。これを大真面目に解説してあり、論文の一節に、実体験も書かれている事から、筆者はひきこもりであった、と容易に推測できる。
この論文が世間を騒がせていると同時に、まるで自分が観察されていたのではないか? とおもう一人の少年がいた。
名前は百合式百合。彼もまた、元ひきこもりであったと同時にオタクでもあった。 酷い時には、脳内で架空の「姉」を作り、その「姉」と毎日欠かすことなく会話していた。百合は「姉萌え」なのである。
また、自分の容姿が限りなく女に近い事から、女装をして日々を過ごしていたりしていた。 その時の名残で髪は今も長いままである。
しかし、架空の「姉」との会話や女装が終わりを告げたのは、彼の「弟」にバレたのである。 彼の家は裕福で、家も大きかった。 ここで大切なのは彼の家が「裕福」ということではなく、彼に弟が居ることである。
彼、百合は年齢を重ねるにつれ、徐々に女らしさがにじみ出てきた。親から何気なく「突然変異」と、言われ彼は自らの容姿にコンプレックスを抱き始めた。
無論、親には「悪気」があった訳ではなく本当に何気なく言っただけであった。
それとは裏腹に弟の方も自分に疑問を感じ始めていた。
彼の弟、百合式統は自分が兄に「恋愛感情」を抱いているのではないか? と。
四六時中、場所を選ばず、統は兄の百合の事を考えていた。
兄と容姿が似ていない訳ではないが、統は中性的な程度で兄の百合程女らしさは感じさせなかった。
また、兄の脳内に架空の姉が存在することを知った時、彼は少しショックを受けていた。
弟の統は積極的に兄の百合との会話のチャンスを探っていたが、百合とは活動時間が逆だった為それは叶わなかった。兄と部屋が隣という地の利を生かし、彼は毎晩、兄の部屋の方の壁に耳を押し付け、盗聴まがい――いや毎晩兄の部屋を盗聴していた。
そこで気づいたのである。 兄は誰かと会話している事に。案の定察しは簡単についた。
弟の統は思った、これは「会話のチャンス」だと。
統は兄とは違い、毎日学校に行っている為、休日にこの掴んだ「会話のチャンス」を活かそう、そう考えていた。
ある日の休日、あっさりと「チャンス」はやって来た。 兄宛の「魔法便」が来たのである。兄宛の荷物は頻繁に来たが、兄の部屋の前にいつも統がそっと置くだけで、今まで直接荷物を渡したことはなかった。 弟は思った、これは人生最大の「チャンス」だろう、と。
舞い上がる心を必死に抑えつけ弟は階段をいつもより少し速いペースで上がっていった。
兄の部屋の前で深呼吸し、眠っているであろう兄の百合の部屋に静かに忍び込んだ。
案の定、百合は眠っている。弟はさながら勇者の如く、華麗にゲームが積み上がっている場所を舞うように避けてゆく。 弟の理性はまだ保たれている。しかし、極限の興奮で息は荒くなっていた。
兄の眠っているベッドまで、あと少しだという所で弟は痛恨のミスを犯してしまった。
ベッドの側にある、他の積み上がった物より遥かに高い、俗に言う「エロゲタワー」を倒してしまったのである。その時弟は思っただろう。 もう終わりだ、と。
しかし、幸運にも、「エロゲタワー」は兄の方には倒れなかった。 弟はその場で神に祈りを捧げた。 非常ににシュールな光景であった。 荘厳であったタワーは崩れ去ったにも関わらず、それを悲しむ者はいない、つまるところ、悲しむのは兄ただ一人だが。その兄はまだ眠っている。
弟はベッドの前に立ち呟いた。
「兄さん、起きて」と。
久々に兄に触れながら弟は兄の肩を揺する。
弟の容姿は、中性的ではあるが、確実に女寄りであった。状況を知らないものが見れば、確実に動揺し、その者が男であればきっとこう言うだろう。
「百合だ」と。
兄はじれったそうに起き上がり目をこすっている。そして、自分の部屋に異変があったことには起きたてで頭が働いていないにも関わらず、すぐに分かっただろう。
「兄さん、おはよう」
弟は満面の笑みを兄に向けるが兄は一点をずっと見つめていた。そこは、かつて荘厳ささえ感じられた今は無き「エロゲタワー」があった方向である。
兄は思っただろう。これが夢ならどれだけいいことか、と。
弟は祈っただろう。これが夢ではありませんように、と。
また、短いですがこれで一応、最初に構想していた「弟」を登場させることができました。
これ以上、長くすると、崩れてしまう気がしたのです。
言い訳ですが。
しかし、百合のオタク設定は追加しておきたかったのです。
あと、私は百合スキーでもあります。