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トツゼンライブのブルーメン

「シロ、私とあいつを殺そう?」

その誘いに未だ乗れてはいなかった。

 魔法使いの掟。

それが、邪魔をするのだ。

 魔法使いは、自分の中でいくつかの掟が存在する。 すべての魔法使いの心にはこれだけは守らなければいけない掟が存在するのは確かだ。

 いや、掟ではなく誇りという言い方の方が正しいかもしれない。

 僕の掟、それは大多数で一人をいじめること。リンチという言い方もある。

 この誘いは僕自身の掟に反する、しかし誘いに乗らないとルルは幻滅するだろうか。

―――僕を番号ではなく名前で呼んでくれたりもしなくなるのだろうか?


「……」


「どうかしたの?」

ルルは少しだけ、ほんの少しだが、声に抑揚がでた気がした。


「―――悪いけどその提案には乗れない」

言い切った。言い切ってしまった。


「そ、ちょっと残念、けど別にいい」

ルルはいつも無表情だが今は口角が少し上がっている。ルルとの付き合いは短いが笑っているところを見るのはこれが初めてだった。


 ルルはオーデに向き直り、いつもどおりの冷たい目に戻る。

 オーデは手負い、明らかにルルの方が有利である。


「来るならさっさと来なさい」

挑発。

オーデの周りにいたモノはオーデの身代わりになってもう数えるほどしかいない。

オーデの呼び出した少女はルルを見据え、刀を固く握り直している。


 ルルはいつも通り首を左右に揺らしながら、ゆっくりと、オーデに近付てゆく。

 ここは、学校のグラウンド。辺りには体育館と倉庫が見える。

 ある生徒ギャラリーは怯え、ある生徒は興奮している。

 それは、遠目でも確認できた。


 オーデの居る位置はグラウンドのど真ん中、ルルとの距離はある。

 しかしルルは急ぐ様子は全くといっていいほどない。

 

 先に動いたのはオーデの周りにいた黒い何か。コウモリのような翼を持ち、二足歩行で立っている黒い何か。大きさは腕の長さ程度しかない何かがルルに向かって突進してきた。


「……」

突進してきた何かをでルルは片手で掴み握りつぶす。握りつぶされた何かは、外見と同じくらい黒い血を流している。


 ルルはゆっくりとオーデに近づいてゆく。

 黒い何かは次々と突進してゆくが、無残にも握りつぶされる。


 今まで、動きがなかった刀を持った少女はルルに向かって今にも走り出しそうな雰囲気。

 

 ルルはいきなり静止し、辺りを見渡している、


 音がどんどんこちらに近づいているのが分かる。

 

 ルルは無表情ながらも、呆れたと言いたげな顔をして辺りを見渡している。音は一点だけではなく、様々な場所から聞こえている、それもこちらにゆっくりと近づきながら。察しはついた。

今回は奇遇にもこの場所で演奏するみたいだ。

 音の正体は「ブルーメン」だろう。ブルーメンとは、ランダムに場所を選びそして、自分たちの音楽を演奏する者達の総称。いわば魔法使い版の暴走族みたいなもの。

 その「ブルーメン」が今回はここで演奏を始めるつもりなのだろう。

 しかも、複数のブルーメン達がここに集ってきてるようだ。

 

 ルルは興が逸れたのか、いままで歩んでいた方向とは真逆の方向へ足を運び始めた。


「シロ、私、帰る。シロも帰ろ?」

その誘いには乗れそうだ。


「ああ、ルルはしばらく帰ってなかったろ? 新入りが一人いるぞ」

ルルと共にアジトへと帰る。

そうしている間に「ブルーメン」達はこの、「理図高校」のグラウンドにちらほら姿を見せ始めた。

3,4グループがそれぞれグラウンドを陣取り、演奏を開始する。

刺激的な音楽を演奏する者や静かで美しい音楽を演奏する者。


 生徒もちらほらとグラウンドに出て来始めた。それぞれ、好みの音を鳴らしている方向へと歩む生徒達。まるで、蜜を探す昆虫のように。

 生徒たちは、まるで誘導されているかのように、ひとつの「ブルーメン」のグループの前に集まる。


 白いタキシードを着て、バイオリンを弾いている「ブルーメン」

 異様であった。まず、「ブルーメン」は複数人から成り立つものであり、単独での「ブルーメン」なんて聞いたこともない。それに……

 美しい音色だ……。楽器や音楽に疎い僕でさえそう感じた。

 その「ブルーメン」はこちらを一瞥し会釈してきた。

こちらも会釈を仕返し学校を去る。

 目的地はアジト、ヨッピーにこっぴどく叱られる事を僕達は覚悟しながら、歩みを進めた。


―――――――。


すっかりと、荒れたグラウンド。奏でられている美しい音楽とは正反対のグラウンド。


 オーデの方も戦意喪失したのか、先程までいた少女の姿は見当たらなく、余裕の表情で服の砂埃を払っている

。私は見ている事しかできなかった……。オーデが聞くと笑い転げそうな話だが、オーデの右肩にナイフが刺さった瞬間から怒りがこみ上げてくるのが自分でもわかった。

 しかし、雰囲気に圧倒され、その場から動けなかった。


 あれが魔法使いの戦い。自分がいかに無力かを改めて実感した。私には、素質があるとオーデは言っていたが本当なのだろうか?

 先程までの戦いを見ていると自分にある素質はまるで廃棄物のようなものなのではないか、と疑問を感じずにはいられなかった。

 能力は先天的。オーデが言っていたことを思い出した。自分の生まれ持った能力。蓋を開ける前から恐れていてはいけないと心では分かっているがどうしても、不安になってくる、

 こういう時はいつも薬を飲むがもう薬には頼りたくない。受け止めなければ。


―――――強くなりたい

そう、心で感じ思った。


 改めてオーデの方を見る。オーデはこちらに気づいたのかこちらに手を振っている。

 手を振り返し、本気で魔法を学ぼうと決心した。


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