ルルミアの提案
バイルには何もない所から武器を……ナイフを生み出す能力がある。
それを、指を動かすだけで相手に飛ばせる、例えば、バイルが人差し指で相手を指せばその相手向かってナイフが飛んでゆく、数や形、大きさなどはすべてバイルの思うがまま。
「殺しはしないよ、もっと楽しみたねェ」
拘束魔術には時間制限がある。
それが切れ、バイルの体は自由。
バイルが生み出せるのはナイフだけではない。僕の円のなかの物は僕の自由だが、バイルにはもう効かない。
バイルは自分の体の周りを薄い膜で覆い、僕の円の能力の干渉を避けている。
バイルと僕の力の差はほぼ同じ。傷は依然として疼くが一種の快感すら感じてきた。マゾなのかもしれない。
考えているうちに誰か、バイルでもオーデでもない者の気配がする。
この感じ、ルルミア?!
ここに、ルルが来ている。 気配を感じる事も勘の一部だと思っている僕。
ルルミアが来ている。
ルルミアはバイルと並ぶ戦闘狂。言ってしまえば戦い大好き、血を見るのも大好きな女の子。
「おい! バイルッ!」
一応伝えておこうと思った、ルルとバイルは団でもよく小競り合いをする、二人を今、この場で会わせてしまえば、面倒な事になる。
「ん? 何ィ? どうかした?」
戦いの最中だというのに笑みが絶えない、それ程までに、オーデや僕と戦える事が嬉しいのだろう。
この場を占めている空気の3割はバイルの狂喜、異常なまでの喜び、隠しきれない程の。
「バイル! この場にルルミアが来てるぞ!」
バイルは戦闘狂ではあるが、戦いを邪魔されるのを極度に嫌う。 バイル自身は戦いとあらば乱入すているが。
「ルルミアn
次の瞬間にはバイルは吹っ飛ばされていた。
砂煙でよく見えないが誰かがそこにまるで、首が座っていないかのように首を左右に振りながら立っていた。
「――ルルか?」
首を左右に振るのはルルの癖でもある。 ルル自身は意識して直そうとしているらしいが。
戦いに乱入してきた人物は僕の方を一瞥し、さも当然かのように、首を縦に振る。
「シロ、やっほー」
僕はルルと同じ破壊系の能力者。だからかもしれないが僕はルルに気に入られている。
頻繁に着信やメールが来る。 それで気に入られていると思うのも安直かもしれないが。
乱入してきた人物、ルルは首を左右に振りながら、バイルとは違う平坦な口調で話す。
砂煙が消え始め、辺りが見渡せるようになったと同時に、僕は吹っ飛ばされたバイルの方をすぐに見る。
―――笑っていない。先程までの笑みはなく目を大きく見開き、口角も平らになっている。
「番号1から伝言がある。 それを伝えにここに来た。」
ルルは僕以外、団員を番号で呼ぶ。1ってことはヨッピーか。伝えに来てバイルを吹っ飛ばす事はないだろう。でも、止めるという意味では正解だったのかもしれない。
「依頼がお前に入ったから、戦いを一時停戦させ、本部に戻って来い。 そのまま伝えた」
バイルへの依頼……バイルは主に殺しの仕事を受ける事が多い、それは僕もルルも同じだが。
バイルは咳き込み、血を吐きながらも、ルルの方を睨みながら答える。
「―――そっかァ、うん、分かったよォ」
すんなり受け入れ、先程のルルの一撃がよほど効いたのか立つのに難儀しながら、服についた砂を手で払い無言でその場を去った。去っていく時も笑ってはいなかった。
「シロ、私とあいつを殺そう?」
オーデの方を指を指しそう先程と変わらない平坦な声で僕に問いかける。依然、首は左右に揺れている。首と共に白い綺麗な髪も一寸遅れで揺れる。
普段はタイマンを好むルルの意外な申し出に僕は戸惑った。