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After The Matter

まだ、火の熱波と硝煙と死の臭いが立ち込めている。どれくらい時間が過ぎ去ったのかもわからない。ただ唯一分かることは喉が渇いていることだけだ。

「What time is it now? I wanna drink something.」(今何時だ? 何か飲みてえな)

青年は弱弱しく呟いた。しかし眼窩は全くその輝きを失っておらず、益々光っている。だが次第に強さを増す熱波と煙が青年の体を蝕み力を損なわせていく。思考能力も殆ど消えかけ眠気さえしていく。

「I'm so tired. I may be dying. Goodbye the world」(疲れたぜ。俺はこのまま死んじまうんだろうな。じゃあな世界)

勝手に自己満足してそのまま意識が消え去ろうとした瞬間、足音が聞こえた。コツコツと小気味良い反響音で思わずそちら側に目を向けた。目の前にいたのはこの轟々と炎が燃え盛っている中で真っ黒なダウンという最強のミスマッチの長身の女性だった。威風堂々と言い表すの最も適格だろうその様態。しかし、ダウンの上からでもはっきりと分かる凹凸のついたその体は性的な魅力を存分に発揮していた。

「ふん、随分と死にたがってたみたいじゃない。しかしそれにしたって何がGoodbye the world 。今時映画だってそこまでくさくはないわよ」

「Speak English only! I can not understand Chinese.」(英語を喋れ。中国語はわからん)

「あんたまさか日本語と中国語の区別もつかないの? それじゃ意思疎通なんてできっこないじゃない・・・・。まぁこの際あんたの意思なんてどうでもいいわ。取り合えず捕縛させてもらうからね」

女性はそのままおもむろに手を伸ばしそのまま青年の手首を握った。青年はなけなしの力を振り絞って抵抗を試みた。

「Don't touch me ,bitch」(触れるんじゃねえクソアマ)

「あら、随分なご挨拶ね。別にあんたのことは懐柔させる気も馴れ合う気もないけどそこまではっきり言われるとイラっとするわ!」

そう言い放つと女性は靴のヒールで思いっきり青年の柔らかい脇腹を踏みつけた。肉に食い込む感覚が踵を通してはっきりと伝わってきて気持ち悪かった。2、3度踏みつけると今度こそ口が何もきけぬようなった。その成果に満足してか女性は薄ら笑いを浮かべている。

「ちょっと、誰か来なさい」

そう呼びかけると迷彩柄のコンバットスーツに身を包んだ男が二人小走りでやって来た。それぞれの手にはM45pectreが握られていた。

「お呼びでしょうか? 」

「ええ、ここからは撤退しますから、事後処理をお願い。それから・・・・」

女性は倒れてボロ雑巾のようになっている青年を顎でしゃくり上げて

「そこのモンキーボーイも一緒に持っていきなさい」

と指令を出す。二人は素直に両側から青年を抱え込むと後方に停めてあるバンに青年を投げ込んだ。バンは青年と女性を乗せると走り去った。後に残ったのは隠しようの無い惨状だった。しかし、機動隊のような集団は手馴れたようであっという間にガラクタやら先客の集団の乗ってきたワンボックスカーやら、ストリートチルドレンの死体やら爆破に巻き込まれた集団の死体を一まとめにして積み上げるとタンクを2、3本転がしてそのまま放置して少し離れたトラックの荷台に乗り込むと猛スピードで走り去った。数分してからの一連の惨禍の第一発見者の数は凄まじいものだった。スラム街は一つ一つの建物の強度が非常に脆く不法建築であるためありとあらゆる検査基準を充たしていない違法建築物が密集している。そのためそこら辺一帯が綺麗に吹き飛んだのである。まるでグラウンドゼロのように。その広くなった土地をかなりの人間が目撃しているわけである。

この、圧倒的な火力を発揮した部隊とそれ以前の集団では所属組織自体は同じなのだが独立性ゆえ一つ一つが独立機関として存在しているといったほうが本質をよりよく示している。それゆえお互いのショバ争いがこういう形で激化するのである。

ここまでことが大事になっているにも拘らず官警の対応は非常にパッとしないものであった。その原因として当事者の遺体やら証拠品やらが何も出てこないことが上げられる。総て燃やされてしまったため捜査も何もあったものではない。結局過激派の暴動が準備を失敗したためにという結論で締めくくられた。消えた数十人の身元も何も特定せずただそれがあったというだけでかき消されたも同然ある。というより最早事件があったことを覚えている人間すら今はいないかもしれない。3日もすると次のストリートチルドレンやホームレスがわらわらと集まりごみやガラクタをかき集め少し広くなったスペースを「広場」と称して占拠しコミュニティー化しだしたからである。警官隊も応対したものの何度追い払っても集束するため結局諦観の念と共に明け渡してしまい今は証拠どころか場所すら特定の難しい状態になっている。


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