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紅い糸  作者: とん麻呂
6/6

第六話:涙、後悔、涙

「えっ?なんやて?」

憂はその男にもう一度問う。

「……だ、だから……さっき……飯沼さんが藤原くんに……」

それはオタク系マニアのあの勇だった。

咲姫が藤原に追いかけられていた事、そしてここを出ていってしまった事、憂の態度に心配していたこと。

さっき見た一部始終を憂に告げた。

「……ちょっとコレはやばいかなぁ……」

さきほどまで藤原と一緒に盛り上がっていた憂も、咲姫がなかなか戻ってこないことに心配していた。

さっき強引に咲姫の唇を奪ったほどだから、今度は何をするか分からない。

憂と藤原は同じ中学だった。

藤原はあのルックスと優しさで中学の時も変わらずモテていた。

でも明らかに他の子と咲姫に対する態度が違う。

本当の藤原はもっと優しく、女を無理矢理に扱う男ではないことをしっていた。

そんな藤原の性格を知っていた憂は、だからさっきの出来事もそんな心配などしなかったのだ。

でも、何かが藤原の中で変化していることを考えると、なぜか胸騒ぎがする。

『ヤンはチャラ男が多いきね。そんなんヤダ』

フと咲姫の言葉を思い出した。

『この男頭が狂いよる!!あたしはアンタの女ちゃうんじゃ!!』

憂は真っ直ぐ空を見据えた。

そして、

「……勇ありがと」

そう言うと、真っ先にかけだした。

ドクンドクンと胸が高鳴る。

だが、探すあてなどない。

憂はしばらくウロチョロしていた。

そして思いたったように周りの子に声をかけはじめた。

「なぁ咲姫と藤原みとらんと!?」

「咲姫どこおるかしらひんかぇ!?」

「藤原は!?」

「あの2人どこいったかわからひん!?」

憂は必死になって聞く。

だが返ってくるのは、

「てかあの2人つき合ってんの?」

このセリフだけ。

男に聞いてみても同じだった。

だんだんと憂に焦りがつのった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「っ!いってぇ!!」

いきなりの激痛に藤原が口を離した。

咲姫は舌の侵入を防ぐために、藤原の唇に歯をたてた。

咲姫はやっと離れた口からハァハァと息をはき、ペッと唾をはきすてた。

足はガクガクとふるえている。

「……ってめ……」

藤原が咲姫の手を掴み直す。

だが、それと同時に藤原の体がギグッとなった。

呆然と咲姫を見つめている。

「……え、ちょ……」

藤原の手がパッと咲姫から離れた。

咲姫は下をうつむいて震えていた。

目からは涙を流しながら……。

「……っ……」

唇をかみしめながら、声を押し殺している。

咲姫は流れる涙を手で拭いながら口を開いた。

「あんたって……今日初めて話す女でもっ……そんなことできんだね…」

咲姫の目は藤原を見ようとしなかった。

さっきまで強気に咲姫をせめていたのに、もう完全に女の涙に押されていた。

後悔が藤原を掠める。

どうしていいか分からず、藤原はオロオロしている。

何か考える神経が遮断されたようだった。

「理由は……あたしにあってもっ……こんな……力ずくなこと……まじっ最悪っ……」

この言葉で藤原が大きく揺らいだ。

あの咲姫を睨んでいた目はもうなかった。

いつものあのどこか拍子抜けしている藤原の目だった。

それでも咲姫にかける言葉が見つからず、グッと何かをこらえていた。

「……っそこどけよ……」

咲姫が藤原を下から睨む。

藤原はしばらく動かなかったが、ゆっくり道をあけた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「あれっ!?憂じゃん!!どしたのー」

もう頼れる相手はたっくんだけだった。

憂は息を切らしながらたっくんのいる教室に向かったのだった。

「…っハァっ……たっくんさっ……咲姫と藤原見なかった!?」

呼吸を整えながら憂が言った。

たっくんはキョトンとして、焦る憂を見つめていた。

でもすぐに、言葉を下す。

「咲姫ちゃんと藤原?そんなら確か空き教室で見たがや」

憂の頭にピンと線がはった。

それを聞くと、たっくんの手をつかみ、

「たっくんも来て!!」

と、走り出した。

この時、憂の中で向かう場所はもう決まっていた。

━━教材室。

今では立ち入り禁止で、前に憂と咲姫のサボり場だった。


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