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紅い糸  作者: とん麻呂
5/6

第五話:危険な香りと誘惑と

(キンコーンカンコーン……)

ガタンッ!!

憂は4限目の終わりのチャイムが鳴ると同時に、勢いよく席から立ち上がった。

そして角度を変えると急いで走り出す。

咲姫の横をそのまま通り抜けてどこかへ一目散。

憂に声をかけようとしていた咲姫は、あまりの早さに呆然としていた。

「……えっ」

ハッと我に返って教室から走り出た憂を追いかけようと、

「ちょい憂!!どこ行くの!!」

と、廊下から叫んだがもう憂の姿はなかった。

ポツンと残された咲姫。

冷たい風が心を通り抜けた。

いきなりの憂の行動が、咲姫には意味が分からず、

(なんなん?憂もしや怒ってんの?つか普通あたしが怒る立場ちゃうのん)

と、勝手に憂の行動に理由をつけて、一人で否定。

訳もわからずトボトボと教室内に戻ると、

「どうした?」

フと隣から聞き覚えのある声が。

憂の行動を見計らったように、ある男が咲姫に近づいてくる。

まるでガキ大将のようないじわるげな顔をしている。

咲姫の最も嫌いで、女子に最もモテている奴。

━━藤原だった。

「………」

声でそいつが誰か判断すると、咲姫は振り向きもせず無視をした。

「なあ。霜田となんかあったんかえ?」

ニヤつきながら、咲姫の顔を覗きこむ。

咲姫は即座に顔を背け、向きを変えて歩きだした。

「無視なんてつれへんなのぉ。そんな膨れっつら可愛い顔が台無しさね」

そう言って、咲姫の背後をついていく。

咲姫は小走りになって、何とか藤原から逃げだそうとした。

またあのイラ立ちが蘇ってくる。

「おい。そっちいろんなモノ積み重なっとるき、行かんがええげ」


気づけば咲姫は教材室に向かっていた。

ここはよく憂と二人で遊んでいた場所だった。

授業中気づかれないように、二人でサボって、パンなどを食べたりしていた。

誰かのタバコの吸い殻が捨ててあったことから、発見した先生に咲姫と憂のせいにされ、

「一切ここを立ち入り禁止とする」

と、レールを貼られていた。

あとで逃げ道がなくなったことに気づいた咲姫は、ウロウロと教材室に留まっていた。

「おい。怪我するっつの。出てこいよ」

藤原が呆れ顔で咲姫を呼ぶ。

咲姫はウザそうな顔で、藤原を睨むとそこで立ち止まった。

「……あんたってさあ。まじ汚らしい」

本人の前でグチをこぼす。

さっき皆の前でキスされたことをかなり根にもっているようだ。

皆の前じゃなくても好きじゃない男に、キスされて、嬉しい奴はいない。

しかもその理由は咲姫にあるとしても、この男の行動が考えられない。

さっき以上の怒りがこみ上げてくる。

「……俺のこと、どんな奴だと思ってたんかしんねーけど。」

そう言い、自分も教材室の中に入っていく。

咲姫の体がこわばる。

「男をナメんなよ?」

そう言って笑うと、ドアの鍵をかけた。

普段立ち入り禁止のこの部屋に。

━━もはや人は気づかない。

咲姫はただならぬ不安を感じた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「だはー!」

走りながら声をあげて教室内にかけこんだ。

「咲姫!!ダッシュで行ってまじ貴重なメロンパンどっさり……買って……きた……よ?アレ?」

息を切らしながら入ってきたのは憂だった。

憂はさっきまでいた咲姫が教室内に居ないことに気づいた。

「咲姫どこ行ったんやろ……せっかくパン買ってきたのに。ショックー」

大量のパンでかなり膨らんだ袋を片手に、憂は少しへこんだ。

袋の中身を見て、ハァとため息をはく。

あの時、咲姫を無視したわけではなかった。

ただ大好きな咲姫の為に今日はメロンパンを買おうと決めていた。

そのあまりの熱心さに咲姫の言葉が耳に入らなかっただけであった。

それに思えば、超仲良しのこの二人が意味もない仲間割れなどするはずもなかった。

(……もしや咲姫さっきの手紙で怒ったんかな。

かなり嫌がってたし……やりすぎたかな。)

反省と後悔の色が憂をかすめた。

と、その時ある一人の男が憂を呼ぶ。

「あ、あの……」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「嫌っ!!」

咲姫はその頃、必死に藤原と戦っていた。

藤原の手が咲姫の顎にのびて、細く綺麗な輪郭をつかむ。

簡単に押さえつけられて、ギリギリと捕まれた片方の手をしめあげてくる。

「いっ…」

苦痛で顔を歪ませた。

それがスイッチになったかのように藤原は、

「俺のこと噂でなんて聞いてた?優しいって?クールって?」

もう一度、言わせるかのように咲姫を問いつめた。

咲姫はそれよりも捕まれた右手の苦痛に耐えていた。

「…っ!こんっ…の……たらしの変態やろーっ!」

途切れ途切れになりながらも、藤原の問いに答えようとはせず、ただがむしゃらにそう叫ぶ。

藤原は掴んだ顎に顔を近づけて、

「激しいのと淡いのどっちがいい?」

甘い声で囁いた。

寒気に似た感覚が咲姫の体を走り抜けた。

藤原はその反応を楽しむかのように、咲姫の唇に己の唇をはわせた。

咲姫の目が一気に見開かれて、さっきまでとは違いかなりの抵抗をした。

「んぅー!!!!むっ!!」

全身に力を入れて、体全部で藤原を拒否した。

何度もキスは経験済みの咲姫だが、それは好きな男であったからこそ許された行為。

今は好きでもない、ましてや藤原にそれをされている。

そう思うと嫌で嫌で仕方ない。

藤原は最初は触れるだけのキスだったのに、だんだんと荒々しくなってきた。

咲姫は直感した。

(舌いれられるっ…)

それと同時にさっきまで感じていた怒りが、恐怖へと変わりはじめた。


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