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紅い糸  作者: とん麻呂
2/6

第2話:過去と出会い

これは主に、憂と咲姫の出会いの経路ですね(笑

と、言いつつ憂の過去の一部で前半は埋めてありますが(汗


咲姫と憂はこれからずっと登場していく人物達なので、こういうものは繊細に明かしていくようにしていますので、多少長く読みづらくても、ご了承下さい(泣

━━憂と咲姫はずっと一緒におんねやもんな……

ずっとずっと……

親友さね……━━

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

この日、気温は40度を越えていた。

湿ったなまぬるい空気がベタベタと体にはりついた。

「だぁぢー」

言葉になってない声をあげて顔を手で必死に仰いでいる。

パンツが見えそうなぐらい短いスカートと、だぼだぼのルーズソックス。

そして、だらんとたれたフックピアス。

髪を茶色に脱色していて、いかにも乱れていると言った感じだった。

彼女の名前は霜田憂(しもだ)(ゆう)。

学年でかなり目立っているギャルグループの中心的存在だった。

憂は今年、中3に進級した。

勉強嫌いな憂にとって受験は気が遠くなりそうな課程だった。

「あーっ」

いきなりの声に憂の体がびくっと驚く。

━━と同時に憂の入っていたトイレのドアが開いた。

思わず右手に握っていた携帯を落としそうになってしまい、慌てて携帯をもちなおす。

「やっぱし憂ここにいた」

その声は聞きなれたようななつかしい響きだった。

フと顔もあげて開かれたドアの先にいる人物に目を向けた。

そこには憂と仲の良い加代(かよ)がいた。

憂はホーッと胸を撫で下ろして

「加代かよ。驚せないで、まじ」

「ナハハ。ごめん。だってトイレの中から携帯つつく音聞こえたきね。こりゃ憂しか居ないと思って」

「もし違う奴だったら加代は覗きの犯罪やが」

憂は少し笑うと、フゥとため息をついた。加代とは小3の時からずっと仲もよくて、憂達が喧嘩したことなど一度もなかった。

また加代も同じ、憂のグループの一員だった。

「ごめそね。これで用済ましてる途中だったら最高だったね」

と、いたずら笑いを向けた。憂は恥ずかしそうに顔を紅潮させて

「加代のエッチ」

と、つぶやいた。

加代は声に出して笑うと、

「てかめずらしいね。憂がこんな早くから学校にいるなんて」

加代は自分の携帯を取り出し時間をみた。

━━10時32分。

こんな時間に学校にいるのは、周りから見れば極普通。

でも憂の場合は違っていた。

学校に来るのはいつも給食前で、遅刻の常習犯だった。

今の時間でも十分遅刻だが、

「イエス。今日はテストあるきね。頑張っちゃろ」

そう言って憂は笑いを浮かべた。加代が、

「あんた高校行きたいんだっけね。意外にこういうのちゃんと受けるよね。」

と、困ったように笑いを浮かべて、憂の頭を優しく撫でた。

憂は誉められた子供みたいに、ハネるようにして立ち上がるとスカートをぽんぽん叩いた。

座っていた洋式用便座に何か跡がついている。

濃い赤みを帯びた液がこすれた線を描いていた。

「ん?ねぇ憂、血ついとよ。どっか怪我してる?」

最初に気づいたのは加代だった。

憂がえ?とフと自分の叩いていたスカートを見る。

黒い染みがついている。

憂は瞬時にそれが何か判断すると(しまった……)という顔をした。

あいにく、今日は何ももってきていない。

ましてや着替えなど。

「……やば」

その一言で、憂の言いたいことがどことなく分かった。

「……あらら。生理きちゃいましたか」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「もー……まじ最悪っ……」

憂は保健室からナプキンをもらうと、急いで教室にあがった。

まさか、学校に来てから生理がくるとは思ってもなかったし、予定日よりも2週間早かった。

もうすぐ昼のテストが始まる。

外見は乱れていてもやっぱ心は乙女だった。

高校に対する進学希望と憧れは捨てていなかった。

昔、憂にはサエと言う大好きな女の先輩がいた。

そのサエも中学の時は、かなり荒んでいた。

金髪、ミニスカ、ルーズ、ピアス、化粧、非行行為。

不良がやるようなことをすべて受け継いでいた。

それでも中身はとても綺麗で、皆から慕われていて憂が困っている時はいつでも助けてくれた。『あたしね、南高に行きたいんよ。皆と同じ高校にさ』

笑いながら言ったサエの顔を今でも忘れていない。

『まぁ無理だってわかってるけどね……』

━━あの笑いの向こう側にあった言い切れない悲しみを………

受験期間が過ぎて、サエの合格発表の日が来た。

サエの仲の良かったグループの子達は皆、無事南高に合格した。

『やったぁぁ!!』

『おめでとお!』

『皆一緒に南高行くじゃけんね!』

『あそこの制服バリかわ!!』

『まじうれしーっ!!』

『あっ、ねぇ早くサエもこっちおいでよっ!!今日はオールで遊ぶだがね!!』

一番仲の良かった美由(みゆ)がサエの名前を呼んでいた。

━━ずっと……

━━ずっと……

でもサエには声が聞こえてないと言った様子でずっとそこに立ちすくんでいた。

無表情のまま、ずっと合格発表が貼られている看板を見上げていた。

その目からは、涙が流れていた。何も言わず、表情も変えず、少しも動かず、ただ時間が止まってしまったように━━━………

『……サエ……?』

美由が不安になって、呆然としているサエのとこに歩んで行った。

だんだん小走りになってきて、

『サエ……?』

と、ぶつぶつ言いながらフラフラとサエに近づいていった。

サエのとこまでくると壊れたように肩を揺らした。

『サエ?サエ!!嘘じゃろ!?なあ!!』

他の子達もサエの名前を呼びながらかけよった。

美由が涙を浮かべて、サエの握っていた番号の書かれた紙を奪いとる。

紙と看板を交互に見ていく。

だんだん美由の手が震えはじめていた。

『いやっ……いやぁああぁああ!!』

狂ったように叫びながら涙を流して、もう一度最初から番号を確かめていく。

他の皆も涙を流しながら

『なしてサエの番号だけないとね!!!印刷ミスちゃうんか!?『ありえへん!!こんなん絶対ありえへん!!サエも合格のはずでや!!』

『夢やコレ!!夢や!!夢やあぁぁぁぁあ!!』

美由とサエ以外、皆地面にしゃがみこんだ。

周りの合格発表を見に来た生徒達がサエ達を心配そうに見ていた。

皆ぐしゃぐしゃに顔を歪めてサエに泣きじゃくっていた。━━━━サエは変わらず無表情のまま空を見上げて………

とても儚く悲しい涙を流していた……━━

そして譫言のように何かを繰り返し呟いていた。

『━━ごめんね……』

━━ちょうど2月も終わる頃。

寒さは半端じゃないとこまで近づいてきていた。

空を見上げるサエと、サエに抱き倒れしている美由と、周りで声を上げて泣いてる子……

すべてを包むかのように、天から白い粉が舞い降りた。

純白で、汚れを知らないように思えた。

━━━その1ヶ月後。

サエは不慮の事故でこの世を他界。

あとの残された美由達も次々に南高を退学していき、皆バラバラになっていった。

憂は、サエが事故で亡くなる一週間前。

サエに呼ばれて家まで来ていた。

大好きな先輩が一人だけ高校受験を失敗し、正直なんと慰めをかければいいか分からずにいた。

『ごめん。急に呼び出して。外じゃ寒いし、とりあえず入んなよ』

━━いつもの優しい笑顔だった。

まるで、何事もなかったかのように……

憂は胸がしめつけられる思いだった。

なにもしてあげれない自分をとても恥ずかしいと思った。

『おじゃまします……』

サエの後について、部屋まであがる。

ドアを開けるとピンク色の物が多くてとてもかわいらしい部屋だった。

机を見ると受験勉強をした後のように教科書とノートが散乱していた。

そして、サエを中心に美由達が映っている写真がたくさん置かれていた。

写真の上には【目指せ南高校!】とサエの字で書かれてあった。

写真の中のサエ達は無邪気な顔で笑っていた。

『……憂をさ。ここに呼んだのは理由があるんだ』


憂は、窓の外を眺めて微笑んでいるサエをじっと見つめた。

いつも困った時はサエに助けられていた自分。

今は平気そうに見えるけど、きっと心には大きな穴が開いてる……

憂の目が自然と熱くなった。

『……あたしね。ずっと誰からも認めてもらえなかったんだ。親からも……先公からも……』

サエは目線を変えることなく話始めた。

つもっていく粉雪が静かな旋律を奏でている。

『……でもやっとあたしのこと認めてくれる仲間ができて……本当に毎日が楽しくて……たとえ悪友と呼ばれても……それでもあたしは幸せだった……。

信頼できる相手がいて、信頼してくれる相手もいて、ずっと憧れてた高校に、皆で行けたらなあって……

ずっと……ずっと思ってた……』

憂は胸が熱くなった。

サエの顔が窓にうつって憂の目に焼き付いた。

━━泣いていた。

声も出さずに……

悲しみが頬を伝っていた。

『……行きたかった……あたしも皆と同じあの高校に……

同じ制服着て、恋愛とか楽しんで……あの南高に……あたしも行きたかったさね……』

サエの肩が震えていた。

『皆と……一緒に……』

顔を手でかくして、サエはその場にうずくまった。

━━憂の目にも……

滴があふれていた。

憂はそっとサエの肩に手を置いて、自分の胸に抱きしめた。

サエも憂に抱きつきながら声に出して泣き始めた。

『……っふ……ぅ…』

憂の顔は天を仰いだ。

それでもこぼれる涙が止まらない。

━━━きっとあたしにはサエの痛みの10分の1も分かってあげれない……

それでも憂は泣いた。

強く抱きしめながら……

じゃないとサエが消えてなくなりそうで……

すごく怖かった……

『……だからっ……憂にっ……南高に行ってほしい……っ……あたしが行けれない分っ……憂に行ってほしいんさ……』

幼い子供のように声をうわずらせながら憂に告げた。

憂は何度もうなずいて、

『絶対行く……絶対行くから……』

そう堅く誓った。

2人はそのあと強く抱き合って年の差関係なく泣き合った。

━━人は皆涙を枯らすことなんてできないから……

━━これは雪の積もり始めた3月の出来事だった。

それからサエは他界。

その知らせを聞いた憂は一日中泣いた。

━━サエは雪解けとともに静かに消えていった……

━━━そしてあれからもうすぐ1年がたとうとしていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「だーっ!ギリギリ間に合ったーっ!!」

そう言いながら教室のドアを開けた。

皆はもうすでに席についていた。

担任が冷たい目で憂を見た。

「なにが『間に合った』だアホ。もう3分も遅れとるわい。早く席につかんか」

教室中にドッと笑いがこみ上げて憂は恥ずかしげに席についた。

そして、憂の机に問題用紙、回答用紙がくばられた。

「よし。じゃあ今配った2枚ともに名前を書け。書いたものからテストを開始しろ」

その声とともに、一斉にカリカリとゆう音が木霊した。

(えーっと……)

憂も名前を書こうとした瞬間。

ある大事なことに気づいた。

憂の体に冷や汗がのぼる。

(……やべえ。筆箱忘れた)

もうアホとしか言いようがない。

憂が途方もなく困っていると、

「…ねぇ」

隣から声がした。

すぐに気づいた憂は担任に悟られないようにゆっくり横を見た。

「これ。使えば」

その一言に加えてシャーペンと消しゴムを渡された。

憂は口を開けて唖然としている。

いきなり声をかけてきたせいもあるが、一番にその子の可愛さに驚いた。

筋の通った鼻と、綺麗にメイクされてある大きな瞳、ほどよく膨らんだ唇、色の白い肌。

(こんな子クラスに居たっけ……)

憂はハッとしてその子から用具を受けとると、照れたように

「ありがと…」

と言った。

もう一度、横に目をやると、その子と目が合った。

その子は憂に可愛く微笑んで

「頑張れ」

と、小さく手を振った。

憂はその瞬間、何かを思い出した。

(サエちゃんに似てる……)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

テストが終わった後、憂はすぐさまその子に話しかけた。

「ねぇ!!名前は!?」

あまりにいきなりの問いかけにその子はびっくりしたような顔をして、

「飯沼咲姫……」

と、答えた。

憂は子供のように笑顔を咲姫に向けて、

「あたし咲姫とダチになる!!」

こう言った。

あまりのいきなりさと強引さに咲姫は笑ってしまった。

「名前は?」

笑った顔がますますサエに似ている。

憂は嬉しくなって、

「憂!!」元気に答えた。

━━これが憂と咲姫の不思議な出会いだった。

その後、咲姫も憂のグループに入って、憂と咲姫はお互いの希望で南高に、仲のよかった加代達は仙台高に見事合格。

━━そして。

今。

時代は進み、憂と咲姫は高2になろうとしていた……

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 高校受験落ちたの、どう見ても自業自得なのに悲劇っぽく書かれてるのが時代を感じるなと思った。 逆言うと今の時代は自業自得な人を慰めることは無くなったんだな。
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