プロローグ
「……タクち、ずっと一緒にいようね」
「タクヤ様、死ぬまでお供いたします」
「……タクヤくん、みんな君のことが大好きなの。だから、どこにも行かないで」
「ねぇ、タクヤ。今すぐ私たちを選ぶ? それとも、死ぬ?」
【Choose Me or Die】というゲームは、世界中のプレイヤーから最も忌み嫌われている「ある一つのルート」のせいでぶち壊しになった名作だ。
その名も、NTRルート。
誰だってキレるだろう? 何十時間もかけてアイテムを集め、女神レベルのビジュアルと性格を持つ4人のメインヒロインのために慎重に選択肢を選んできたのに。
だが、このゲームの開発陣はどうやら性癖が歪んでいるらしい。物語の中盤、どのヒロインのルートを選んでいようと、悪名高き巨大財閥・渡辺家の4兄弟によって、4人全員が突然無理やり奪われてしまうのだ。
傲慢な長男、渡辺スズキ。狡猾な次男、渡辺ヤマダ。粗暴な三男、渡辺キムラ。そして陰湿な四男、渡辺コンドウ。
父親である渡辺サカモトと母親のフミコの権力を笠に着た彼ら4人は、すべてを奪っていく。
「クソッ……なんだよこのクソゲーは?!」
俺はパソコンデスクを強く叩きつけた。モニターの隅にある時計は午前3時を指していたが、画面の光景を見て俺の血は沸騰していた。
俺の愛する4人のヒロイン――サツキ、ユナ、サラ、そしてアヤネ――は、薄暗いバーに座っていた。彼女たちは皆、渡辺家が目的を果たした後にあっさりと捨てられたのだ。震える手で酒の入ったグラスを握りしめ、ボロボロと泣き崩れている。
画面には、彼女たちが意識を失うまでその酒をあおり、絶望のあまり自らの人生を破滅させようとしているというナレーションテキストが表示されている。
無意識のうちに、俺はモニターに顔を近づけていた。感情はすでに限界に達していた。
「馬鹿野郎! 何やってんだよ!」
俺は無機質なモニターに向かって叫んだ。ただのゲームだってことは分かってる。彼女たちがデータとピクセルの集合体に過ぎないことも。でも、あのクズ共のために彼女たちが自暴自棄になっていくのを見るなんて……到底受け入れられない!
「なんであんなゴミカスどものために泣いてんだよ! 立ち上がれ! あんなクソ野郎どものせいで壊れていいような女じゃないだろ! 頼むから、それを飲まないでくれ!!」
俺はまるで彼女たちが目の前にいるかのように、2Dのキャラクターに向かって説教していた。
そして、その瞬間……異変が起きた。
ジジッ! ジジジッ!
モニターが突然激しく明滅し、耳をつんざくようなノイズが部屋中に響き渡る。ゲーム内のテキストが突如として文字化けし、まるでゲームのシステム法則が強制的に引き裂かれているかのようだった。
画面から爆発するような眩しい白い光が放たれ、視界のすべてを飲み込んでいく。俺の意識は瞬時に途切れた。
※※※※
暗闇。
だが、何かを感じる。
重い……なんでこんなに体が重いんだ?
額に何か柔らかいものが押し付けられているような感覚。右腕は息苦しいほど強く抱きしめられている。左腕は何か温かいもので濡れている……涙? そしてなぜか、腹と胸にも別の重みがのしかかっていた。
すごく甘い香りがする。フローラル、バニラ、シトラス、そしてラベンダーのシャンプーの香りが混ざり合っている。
ゆっくりと目を開けようとする。視界はまだぼやけているが、見覚えのある色合いがうっすらと飛び込んできた。
ピンク。金。茶。そして白銀。
「ひぐっ……タクち……タクち……」
「タクヤ様……ああ、よかった……タクヤ様……」
「置いていかないで、タクヤくん……お願い……」
「タクヤ……やっと気がついたのね……」
4人の少女――いや、俺がさっきまで悪態をついていたゲームの4人のヒロインが、今、俺のすぐ上にいた。見知らぬベッドの上で俺に覆いかぶさり、声を上げて泣きながら、俺を……奇妙な目で見つめている。
その瞳はあまりにも暗く、あまりにも重く、そしてあまりにも崇拝に満ちていた。
「ま、待って……なんだこれ……っ、苦し……」
彼女たちの常軌を逸した強い抱擁のせいで、肺に酸素が入ってこない。かすかに漂うアルコールの匂いが、甘く狂おしい香りと混ざり合っている。
自分がゲームの世界に入り込んでしまったことを理解する前に、酸欠で再び視界が暗転した。
※※※※
ピッ……ピッ……ピッ……
心電図モニターの音。独特の消毒液の匂い。目に刺さるような白い蛍光灯の光。
鉛のように重い瞼をゆっくりと開く。最初に目に入ったのは、真っ白な天井だった。
ここは、病院か?
「……タクち、起きたの?」
わたあめのように甘く優しい声だったが、なぜか全身の鳥肌が立った。
俺は右側に首を向けた。
そこには、肩口までのピンク色の髪をした少女が座っていた。チナツ・サツキ。彼女は両手で俺の右手をきつく握りしめている。一秒でも離したら俺が消えてしまうかのように。ルビーのような紅い瞳は瞬き一つせず、俺の目をまっすぐに見つめ、なぜか……危険なほど甘い微笑みを浮かべていた。
「タクヤ様」
ベッドの反対側では、美しい金髪のロングヘアを持つ少女が、しなやかな指先で俺の頬に触れていた。ユキナ・ユナ。優雅な微笑みとは裏腹に、その眼差しは俺をこの部屋に永遠に閉じ込めようとしているかのようだ。
「よかった……タクヤくん、まだ私たちを置いていってない……」
ベッドの足元から、茶髪のタチバナ・サラが布団越しに俺の足に抱きついている。彼女は小刻みに震え、目を腫らしながら、底知れぬ喪失の恐怖と……同時にゾッとするようなオーラを放ちながら俺を見つめていた。
そして部屋の隅、固く閉ざされたドアに背を預けて立っているのは、白銀の髪を持つ少女。ミカミ・アヤネ。腕を組み、冷たく鋭い氷のような青い瞳で、容赦なく俺を射抜いている。
「タクヤ。あんたはもう、二度と私たちから逃げられないわよ」アヤネは冷たい声でそう言ったが、その唇は執着に満ちた笑みを形作っていた。「私たちを救ったんだから……ちゃんと責任、取ってもらうわよ」
部屋の空気が、異常なほど重い。
NTRルートで破滅するはずだった4人のヒロインが、今や俺を唯一の神であり、救世主であり、世界のすべてであるかのように見つめている。
どうやら俺は、【Choose Me or Die】のゲーム世界に転生してしまったらしい。
だが……なんでこいつら、突然極度のヤンデレになってるんだよ?!
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*カクヨムにも掲載




