表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第7章:邂逅



 転生から四ヶ月が経った頃、最初の手紙が届いた。


 門番が差し出した封筒には、蝋で封がされていた。紋章は見覚えがない。鷲と剣を組み合わせた意匠。


 封を開くと、丁寧な書体の手紙が一枚。


 『エルデンフォート伯爵領主殿

  突然の書簡、ご容赦ください。

  私はアルヴァレス辺境伯の客将を務める者です。

  貴殿と同じ境遇の者として、一度お会いしたく存じます。

  返答を待ちます。

  ――ユリウス』


 同じ境遇。転生者だ。


---


 手紙を三度読み直した。


 五十人の転生者が、この世界のどこかにいる。接触はいずれ来ると予想していたが、相手から仕掛けてくるのは想定より早い。


 アルヴァレス辺境伯領。エルデンフォートから南に馬で三日。大樹海には隣接していない内陸の領地。ユリウスはその領地の客将――つまり、現地の貴族の下に身を寄せている立場。転生者が必ずしも領主になるわけではない。俺のように領地ごと出現するケースは、ゲームの能力に依存する特殊な形態だ。


 転生者同士の関係は、基本的に競合だ。魔王を討伐できるパーティは上限三人。五十人の中から、最大三人。協力する相手を選ぶのも、排除する相手を見極めるのも、情報が要る。


 会うこと自体にリスクはある。だが、会わないリスクの方が大きい。相手の能力と意図を把握できないまま放置する方が危険だ。


 問題は、こちらの情報をどこまで開示するか。


 復活能力の噂はすでに広まっている。隠しても無駄だ。だが、詳細――レベルリセットの仕組み、ストレス可視化、奇癖の解析、そして自分自身にも復活が適用されること――は伏せる。


 特に最後の一つは、絶対に漏らさない。俺が死んでもゲームオーバーにならないという情報は、切り札だ。相手に「この男を殺しても意味がない」と思わせるか、「この男は殺せる」と思い込ませるか。状況次第でどちらにも使える。


「メルザス」


「はい、我が君」


「アルヴァレス辺境伯領について調べろ。領地の規模、軍事力、交易路、辺境伯の人物像と、ユリウスという名の客将について。三日以内にまとめてくれ」


「御意」


---


 会談の場所は、両領地の中間にある街道沿いの宿場町を指定した。中立地帯。どちらの領地でもない場所。


 護衛はカイルとリーネ。戦闘力と情報収集を兼ねた組み合わせ。メルザスとティアリスは留守番。留守中の領地運営と防衛を任せた。


 馬で一日半。宿場町に着いたのは、午後の遅い時間だった。


 指定された宿の個室に入ると、先客がいた。


 若い男だった。俺と同い年くらいか、少し上か。銀縁の眼鏡をかけ、整えられた黒髪を後ろに流している。上質な外套の下に、軽装の鎧。領主ではなく、旅の武人といった風体。


 その横に、一人の女が立っていた。長い赤毛を三つ編みにし、腰に細剣を佩いている。護衛。


「やあ、ようこそ。ユリウスです」


 男が立ち上がり、手を差し出した。笑顔。自然な、人懐こい笑顔。


 笑顔が自然であるほど、警戒が必要だ。初対面で好意を前面に出す人間は、何かを引き出そうとしている。


 手を握り返した。


「エルデンフォートの領主だ」


「名前は?」


「必要ない」


「ふうん。慎重だね」


 ユリウスが笑った。観察している目。笑顔の奥で、俺の反応を測っている。


 テーブルを挟んで座った。護衛のカイルとリーネは部屋の隅に立ち、相手の赤毛の女と向かい合っている。


「まず確認する。お前が転生者である証拠は」


「直球だね。いいよ。こう言えば分かるかな――『ゲームを選べ』」


 あの声。転生の時に聞いた声と、同じ文言。転生者しか知り得ない情報。


「十分だ」


「そちらも?」


「ああ。同じ声を聞いた」


「よし。じゃあ本題に入ろう。お互いの手札を見せ合おう」


「手札を全部見せる奴はいない」


 ユリウスが一瞬黙った。それから、また笑った。


「確かに。じゃあ、僕から一枚出す。君も一枚出してくれ」


「聞く」


「僕のゲームは恋愛シミュレーション。セーブ&ロードの能力を持っている」


 セーブ&ロード。思考が加速した。


「詳しく」


「記憶を保持したまま、特定の時点に意識を戻す能力。体は戻らない。記憶だけ。セーブポイントは一つ。直前のセーブ地点にしか戻れない。ロードすると前のセーブは消える」


 強力だが、制限がある。一回限りのやり直し。だが、この情報が正確かどうかは分からない。制限を過少申告している可能性がある。あるいは、過大申告。弱く見せて油断させるか、強く見せて牽制するか。


「恋愛ゲーム由来ということは、魅了の能力もあるか」


「鋭いね。あるよ。ただし効くのは現地の人間だけ。転生者には効かない」


 本当かどうか、確認する術はない。


「さて、君の番だ」


「ダンジョン経営系。領地の管理と配下の運用がメインだ」


「復活能力があるって噂は本当?」


「本当だ。配下の冒険者が死んだ場合、蘇らせることができる」


「デメリットは?」


「ある」


 それ以上は言わなかった。レベルリセットの詳細を教える理由がない。


 ユリウスが眼鏡を押し上げた。追及しなかった。賢い。


「なるほど。僕にはそういう力がない。配下が死んだら、それっきりだ。その点では、君の方が経営には向いている」


「それはどうも」


「皮肉じゃないよ。本心だ」


 ユリウスが身を乗り出した。


「本題はここからだ。魔王討伐について、どう考えている?」


「考えていないとは言わない」


「パーティ上限は三人。五十人から三人。組む相手を選ぶ必要がある」


「ああ」


「僕は候補を探している。君もその一人だ」


「候補の一人、ね」


「正直に言おう。僕はすでに他の転生者三人と接触した。君で四人目だ。七人の存在を確認しているが、会ったのは四人」


 情報を出してきた。だが、これも真偽は不明。七人という数字が正確か。三人と会ったという話が本当か。確認する手段がない。


「君の願いは何だ?」


 直球。


 答える義理はない。だが、完全に拒否すれば、この会談自体が無意味になる。嘘をつくか、はぐらかすか。


「まだ決めていない」


 嘘だった。決まっている。彼女の復活。だが、それを初対面の相手に明かす理由がない。


「本当に?」


「願いがないわけじゃない。だが、お前に教える段階ではない」


「フェアだね。僕も全部は言わない。ただ、一つだけ。僕の願いは『人を取り戻すこと』だ。これだけは本当だ」


 人を取り戻す。漠然とした表現。意図的に曖昧にしている。


「願いが三つまで叶うなら、二人で組めば取り合いにならない。互いの願いが競合しない限りは」


「仮定の話だな」


「仮定だよ。今すぐ組もうとは言わない。ただ、連絡を取り合う関係は築きたい」


 妥当な提案だった。同盟ではなく、情報交換のパイプ。コストは低く、リターンは見込める。


「一つ条件がある」


「何だ?」


「こちらの領地には来るな。情報交換は書簡か、中立地帯でのみ行う」


「了解。僕が身を寄せている領地にも来なくていい」


「互いの戦力を見せないということか」


「そういうこと」


 手を差し出した。ユリウスがそれを握った。


 手は温かかった。だが、温かい手が安全とは限らない。


---


 宿場町を発つ前に、ユリウスが廊下で立ち止まった。


「一つだけ、忠告しておく」


「何だ」


「転生者の中に、危険な奴がいる。名前は分からない。他の転生者を殺して回っている奴がいるらしい」


「根拠は」


「接触を試みた二人の転生者が、消えた。連絡が途絶えただけじゃない。その二人が身を寄せていた場所から、痕跡ごと消えている。世界改変で挿入された存在が、丸ごと消滅したようだ。転生者本人が死んだということだろう」


 転生者が死ねば、世界改変の影響が巻き戻る。存在の根拠が消え、周囲の記憶や記録からも消えていく。理屈は通る。


「……転生者同士が殺し合う場合、復活のような救済措置があるかは分からない。少なくとも、消えた二人は戻ってきていない」


 その言い方。慎重だ。「復活が適用されない」と断言するのではなく、「分からない」と。情報が不足しているという前提を正直に示している。本心かどうかは別として。


 俺としては、自分の復活能力が転生者狩りの相手にも有効かどうか、確認する手段がない。試す気もない。


「気をつけてくれ。君が死んだら、僕は有望な候補を一人失う」


「そうだな」


「僕のセーブ&ロードは、自分が死んだ場合にも発動する。一度だけやり直せる。君にはそういう保険があるか?」


「ない」


 嘘だった。復活能力がある。だが、それを教える理由がない。「殺しても無駄」という情報は、ユリウスが敵に回った場合にのみ切る札だ。


「……分かった。忠告は受け取っておく」


---


 帰路、カイルが馬を並べてきた。


「我が君。あの方は信用できますか」


「信用するつもりはない。だが、今は敵ではない」


「はっ」


 カイルは余計な質問をしなかった。他の転生者の存在は、オリジンにとって処理しにくい情報だろう。俺以外にも「外なる存在」がいるという事実。だが、カイルはそれを不安として表出しない。我が君の判断に従う。それだけだ。


 リーネが後方から言った。


「あの赤毛の女、強い」


「分かるのか」


「剣の握り方。重心の位置。私が弓を構えた時、射線上に立たないように動いていた。私の矢を読んでいる」


「どの程度の脅威だ」


「単独では殺せる。だが、あの男と連携されると面倒になる」


 リーネの評価は常に正確だ。


 エルデンフォートが見えてきた。丘の上の屋敷。煙突から立ち昇る煙。北に広がる大樹海の黒い壁。


 執務室に戻り、引き出しを開けた。色褪せた写真を取り出す。桜並木。笑っている彼女。


 ユリウスには願いを教えなかった。正しい判断だ。


 パートナー候補が一人見つかった。転生者狩りの情報も得た。収穫はある。


 だが、信用はしない。ユリウスの情報も、笑顔も、善意も。すべてが真実である保証はどこにもない。


 写真を引き出しに戻した。


 お前を取り戻すためなら、誰とでも組む。誰でも切り捨てる。


 感傷に浸る時間は無駄だ。


 次の手を考えろ。


---


※本作は、最新のAIコーディングツール「Claude Code」を使用して執筆された実験小説です。


執筆に使用したプロンプトや詳細な設定資料は、本作への反響が大きければ後書きや外部サイトにて公開予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ