第2話:大樹海の外縁
目覚めてから一週間。
記憶は断片的に残っている。白い菊の花。線香の煙。読経の声。黒い服を着た人々が順番に手を合わせていく。
覚えているのは、そのあとだ。葬儀場を出て、どこをどう歩いたのか分からない。気がつけば高いところにいた。風が強かった。
足を踏み出したのか、踏み外したのか。
そして、声が聞こえた。
『ゲームを選べ』
それだけだった。
どうでもいい話だ。今は。
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屋敷の門を出た。四人が待っている。
メルザスが石壁に背を預けて目を閉じていた。酒の匂いがする。
「メルザス。昨夜飲んだな」
「…………我が君、これは朝の瞑想を――」
「効率が落ちたら次から探索メンバーを外す」
それだけ言えば十分だった。メルザスは老人だが馬鹿ではない。脅しの意味は理解する。
カイルが直立不動で待っている。リーネは屋根の上にいた。音もなく飛び降りてくる。ティアリスが屋敷から出てきた。薬草の束と解毒剤を持っている。
「行くぞ」
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大樹海の入り口は壁だった。木々が密集し、日光を完全に遮断している。瘴気が肌を刺す。
視界の端にシステムの通知が浮かんだ。
【探索開始:魔の大樹海(外縁部)】
【推奨レベル:3】
【現在のパーティ平均レベル:1】
推奨の三倍下。ゲームなら自殺行為だ。だが、情報がなければ何も始まらない。
「偵察のみだ。交戦は避ける。魔物の痕跡を確認して種類と数を推測する」
三十分ほど歩いたところで、木の幹に三本の裂傷を見つけた。
「熊だ」
リーネが言った。
「爪痕の角度が高い。一日以内。近くにいる」
「構わない。情報だけ取る」
だが、魔物の方がそう思わなかった。
闇の中で六つの赤い目が光った。三体の樹海熊が同時に飛び出してきた。
「カイル、受けろ。メルザス、牽制。リーネ、足を狙え」
指示は最低限でいい。こいつらは最初から連携の仕方を知っている。
カイルが盾で一体目の爪を受けた。金属が軋む。メルザスの火球が二体目の横腹に当たった。牽制にはなるが、レベル差がありすぎて致命打にならない。
リーネの矢が三体目の前脚に刺さった。だが倒れない。
ティアリスに向かって突進した三体目に、ティアリスが防護結界を展開した。結界は一撃で砕けたが、衝撃は吸収した。
四人の顔色を確認した。カイルの腕が震えている。メルザスの額に汗。だが、恐怖はない。レベル1の初戦闘で、三体の上位魔物に囲まれても、こいつらの目に怯えがない。
死んでも蘇る。だから怖くない。
合理的な連中だ。
だが、俺は違う。俺が死んだ場合、ゲームオーバーになるのかどうか、まだ確認できていない。復活能力が自分にも適用されるのか。試す気はなかった。
「撤退だ。カイル、殿。メルザス、火球で威嚇」
全員が背を向けて走った。カイルだけが最後尾に残り、追ってくる樹海熊の爪を盾で弾きながら後退した。
「問題、ありません、我が君」
息を切らしながら、カイルは笑っていた。痛みは一時的。死は一時的。だから問題ない。そういう思考回路だ。
大樹海の外に出た。樹海熊はテリトリーの境界で追うのを止めた。
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屋敷に戻った。
「被害報告」
「カイルは盾の損傷と左腕に打撲。メルザスは魔力消耗。リーネとティアリスは外傷なし」
ティアリスが淡々と報告した。
四人の精神状態を確認した。ゲージはいずれも低い。当然だ。こいつらにとって、今の戦闘は危険ですらなかった。死んでも蘇る。レベルが戻るのは面倒だが、恐怖の対象ではない。
「休養は不要だな」
「はっ。不要です」
カイルが即答した。他の三人も頷いた。
流れ者の冒険者が来たら、話は変わるだろう。あいつらには死への恐怖がある。ストレス解消施設が必要になる。酒場。風俗街。賭博場。いずれは整備しなければならない。
だが今は、オリジンだけだ。こいつらに休養は要らない。
「明日も同じルートで探索する。今日得た情報を元に、遭遇パターンを分析する」
「御意」
「それと、メルザス」
「はい」
「今夜は飲んでいい。明日に影響しない量で」
「……おお。ありがたく」
許可を与えるのは管理の一環だ。感謝でも施しでもない。酒狂いの奇癖を完全に禁止すれば、別の形で噴出する。適度に発散させた方が効率がいい。
それだけの判断だ。
一人になった執務室で、地図を広げた。今日の偵察で得られた情報は少ない。樹海熊が外縁部に三体以上生息していること。それだけだ。
五十人の転生者が、この世界のどこかにいる。俺は大樹海の隅で、レベル1の駒を動かしている。効率が悪い。
だが、急ぐ必要はない。急いで死ぬのは愚策だ。
机の引き出しを開けた。色褪せた写真。二人の姿。桜並木。笑っている彼女。
これのために、ここにいる。
引き出しを閉じた。感傷に浸る時間は無駄だ。
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※本作は、最新のAIコーディングツール「Claude Code」を使用して執筆された実験小説です。
執筆に使用したプロンプトや詳細な設定資料は、本作への反響が大きければ後書きや外部サイトにて公開予定です




