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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最後の宇宙飛行士は、花になった

作者: 星紡セト

「赤い瞳に見つめられた日、僕は消えた。——それは恋に似た何かだった?」

宇宙の惨劇の中、僕は花になった。

赤い瞳のウサギに恋をしたと思っていた。彼女も僕を愛してくれたと信じていた。

でも、彼女は僕を見ていたのではなく、僕の“仲間たち”を見ていたのかもしれない。

かつて花に変えられた者たちの記憶が、僕の姿に重なっただけだったのかもしれない。

僕は今、花として咲いている。言葉は消え、感情は風に溶けていく。

彼女は僕を愛していたのか、それとも、ただ飼っていただけなのか。 僕も、恋をしていたような気がするが、確かめる術はない。それでも、君の好きな花になれているなら、それでいい。

この物語は、愛のようで、愛ではないものを描いています。 気づいた人だけが、真実に触れられるかもしれません。

「うぎゃあ!」「助けて・・・」


眩い星々の中、それは突然に起きた。数々の惨い体の変形音と僕の目の前で倒れていく仲間達。仲間の血が顔に飛び散る。僕の周りは沢山の死体で溢れ、地面は綺麗な星空を映して血が一面に広がっていく。何が起こったのか、僕には分からなかった。何も考えられない。


「あなた!逃げて!!」


僕はハッとして声がする方へ視線を移した。


恐らく宇宙観光に来ていた夫婦だろう。僕は動けない程のけがを負いながらも必死に叫ぶ女と、それを置いて泣きながら走る男がとても不憫だと思った。他の仲間は無事なのか漠然とした不安を抱きながら、その光景を見た瞬間だけ冷静になっていた。


僕に送られた言葉ではなかったが徐々に今置かれている自分の状況に緊張しだし、えずいてしまうが、急いで立ち上がり僕も走り出した。


「はぁ、はぁ、はぁ、くそっ、みんながっ!」


すると、突然僕の目の前に大きな光が現れて僕を一瞬で包み込んだ。逃げられないと悟った僕はきつく目を閉じて、顔を両腕で守るようにして身を固めた。


「あっつ」


ポンと一本地面に花が咲き、その花を中心に一気に花が咲き乱れた。


さっきまでの悲鳴や血の匂いは消え、僕の周りは無音に包まれた。僕は最初に咲いた花の上にゆっくりと足をつけた。誰もいない、あるのは花だけだった。僕の服装はさっきまで着ていた血まみれな服から綺麗な宇宙航空ウェアになっていて、さっきまでの惨劇が夢だったのではないかと考えてしまう。


しかしここはどこなんだろうか。周りを見渡すと目の前にフワフワした白ウサギが現れた。彼は彼女の赤い瞳を見た途端、衝動的に懐かしさと愛情が溢れ、恋に落ちた。


ヘルメットを外し、彼は人が変わったように彼女の前へ片足を跪かせ、ゆっくり彼女を見つめこう言った。


「僕を愛してほしい」


「僕の人生で唯一愛するウサギになって」


「僕は君を見た瞬間、僕の中にある花々が咲き誇り、君が僕を癒す太陽であり水であると確信したんだ」


「君が好きだ、愛している。僕をウサギさんのものにして」


ウサギは驚いたがにっこり笑った。ウサギも彼が好きだったからだ。なぜだか彼を出会う前から知っていた様な気がして、他人事には考えられなかった。ウサギは真剣に考えた。


覚悟を決めたウサギはジェスチャーで顔を近づける様手招きをする。彼はその動きを見て、優しく微笑みながら顔を近づける。ウサギは彼の頬に両手を優しく添えて、目を閉じ口づけをした。


背伸びした足をゆっくり下ろし、目を開いた彼女は真剣な表情をしていた。

彼は、急な出来事に顔を赤くしながら呆然としていると突然ウサギの体が光り出し宙に浮き始めた。


彼は驚き、慌てた様子で彼女に2.3歩駆け寄ると、ウサギは首を横に振り、そこで見ててと言いたげな顔をしていた。立ち止まって心配そうに見ている彼を確認したウサギは目を閉じ、光に身を任せた。スゥッと光に包まれたウサギは見えなくなり、光がだんだん大きくなった。


すると今度は光が落ち着き始めた。落ち着いていく光の中からはウサギの白い毛が見えた。


彼女が一先ず無事そうだと安心しながら光が消えるのを待っていると、ウサギの白い足ではなく、宇宙飛行士と同じ種族の足が出てきた。


そして少しずつ小さくなった光の中からは美しい女性が現れた。女性の長い髪と肌は白く、顔立ちと体は彫刻の様に美しく、目は綺麗な赤色をしていた。突如光の中から現れた美女は何も言わずに彼を真剣に見つめていた。


彼はとても驚き、その美しさに一瞬見惚れて誰なのか分からなかったが、すぐにあのウサギさんだと理解した。


何も着ていない彼女に彼は自分の持っていた予備の服を渡して着せた。ウサギの姿から自分と同じ種族の姿になったウサギを見つめ、なぜその姿になったのか聞いたが彼女は黙ったままだった。


すると、ウサギの近くに浮いていた光が僕の体を通り抜けて彼女の喉に入っていった。次の瞬間、彼女は自分の喉を抑えた。


「あーあー」


声を出す彼女の目は輝き出し、彼女はすぐに口を動かし始めた。


「声、でる、よ」


彼女はつたない喋り方をしながらも一粒の嬉し涙を浮かべ、満面の笑みで僕に話した。


彼女は彼に勢いよく抱きつき、彼を押し倒してしまった。彼女の動きに身を委ねて花の上に寝転がる彼は嬉しそうな彼女を見つめて、姿が変わってもなお愛おしく可愛らしい彼女にドキドキしていた。


しかし、ふと、彼は今までの彼女の行動に少しの違和感と漠然とした不安を抱いた。


彼は姿が変わってしまったウサギに自分のことが好きだと言ってほしいと思った。彼は聞いた。彼女は顔を真っ赤にしてこくりと頭を下げて合図する。可愛い。こんな可愛い生き物存在してもいいのかと思いながら、彼は優しく微笑んだ。


次の瞬間、ふわっと花々が一斉に揺れ、それと共に彼女の髪も暖かい春風のように優しく揺れていた。


今はウサギでなくても僕が好きな子には変わりない。愛くるしい僕のウサギ。今日も僕は君と出会った場所で君を想いながら花と共にここにいる。


君の一番好きな花になれているかな。


----------------------------------------××---------------------------------------


xx年前、多くの宇宙飛行士達が次々に行方不明になる事件が起こった。


しかし10年前、鮮やかの花が多く育つ6fxy星で人が消えていっていることが判明した。謎を突き止めるべく集められた部隊、宇宙探偵USPの人員が6xy星へ何人も送りこまれたが帰ってくる者はおらず謎は解けないまま八方塞がりになっていた。


その3年後、上手に姿形が模倣された未確認生物が街で発見され、意思疎通ができる個体も現れた。未確認生物を研究して得た情報は、それの赤い瞳に見つめられると強烈に心が搔き立てられ恋に落ち夢中になってしまうこと、キスをされると花になってしまうこと、そしてそれらは花を食用、家事、鑑賞用に分け、身近な存在として使っていることだった。


これらのことが判明した3日後、この星は1時間で6fxy星と同じように綺麗な花に包まれる美しい星になり、他の星からは同種族同士の暴動が起こったと噂されているが、花が咲いた理由は解明されず、多くの謎はうやむやになっているらしい。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

「愛」とは何か。 それは、見つめることなのか、飼うことなのか、咲かせることなのか。

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