Game 2
Game 2
「ああー、だりぃ」
章弘は3時限目の数学のテストが始まったやいなや、机に突っ伏した。
「おい。田岡、起きろ」
先生が章弘の頭を叩く。
「痛っ」
章弘は呟き、顔を上げる。さらに、小さく舌打ちをする。
「やりぁいいんでしょ」
そして章弘は見たこともないような数式を見つめて、顔をしかめる。
50分後、学校中にチャイムが鳴り響く。
「よっしゃぁ!今日は終わり!」
章弘は叫び、友人の古賀樹のところへ向かう。
「樹、さっさと帰ろう」
古賀は一瞬迷惑そうな顔をし、
「まだ帰りの会があるだろ」
と言った。
それもそうだが…
「分かったよ。じゃ昇、一緒帰ろうぜ」
次は金岡昇のもとへ向かう。
「ごめん。俺今日呼び出し」
そう言って昇は両手を合わせ、謝罪のポーズを取る。
「何だよ。じゃあ~」
章弘が共に帰ろうとする友達を探していると、
「章弘、俺いいぜ」
と、姉崎祐輔が章弘に手を振った。
「おお。お前は心の友だよ~」
「いやいや」
章弘は祐輔へ駆けていき、抱きしめる。
「きもいって」
すかさず祐輔は章弘を体から離す。
「よし。じゃ帰ろ」
そう言って章弘は鞄を担いで教室を出て行く。
「待てって章弘ぉ」
章弘と祐輔は帰り道、ゲームセンターに寄った。
「おい章弘、何か面白そうなのがあるぞ」
スロットで大量に勝って上機嫌な祐輔は、『MUSICAL CHAIRS』と書かれた扉を指差す。
ここのゲームセンターはいくつか部屋があり、それぞれ違うゲーム機がおいてある。その一室だ。
「ムシカルチャイルス?」
「ミュージカルチェアーズ」
何だ、こいつは。
人の間違いを平気で訂正しやがる。
「入ろうぜ、章弘」
「ああ」
章弘は祐輔に対して負け続けていて、もう手にコインは数枚しかなかったが、いざとなれば祐輔に借りればいいと思い、入った。
部屋内は異常な静けさを帯びていた。
「何だよこの部屋…狭いし…誰もいねぇじゃん」
「イスがたくさんあるな…」
18畳程のゲームがあるとは思えない狭いコンクリート固めの部屋内には、25脚程度の鉄製のイスが円を描くように置いてあった。
「イス取りゲーム…?」
祐輔が呟く。
「おい祐輔、こんあ訳の分からない部屋さっさと出ようぜ」
章弘が部屋を出ようとすると、
「わぁ!」
大きな音を立て、扉が閉められた。
先ほどまで聞こえていた騒がしい物音が、一瞬にして遮断された。
「なんだよ…」
章弘は驚き、もう一度扉に手を伸ばす。が、開かない―。
「おい。どうなってんだ!開けろよ!」
「どうした、章弘?」
章弘が扉を思いっきり蹴り飛ばそうとすると、大きなノイズ音が部屋に響く。
「ぐわ!うっせ!何だこれ!」
章弘と祐輔は、同時に耳を塞ぐ。
数秒後、激しいノイズ音が止んだ。
「何だったんだ…?」
祐輔がおどおどしていると、ブツリと鈍い音がして、壁に2メートル四方程のスクリーンが光りだした。
「おい。こんなとこにスクリーンとかあったか?」
章弘が尋ねる。
「さぁ。あったんじゃない?」
祐輔はあいまいに答える。
『はじめまして』
章弘と祐輔は、突然の事態に驚き、肩を跳ね上げる。
スクリーンに真っ白い仮面を被った人間―声から想像するに男だろうか、が映り、しゃべったからだ。仮面の中心には大きく「C」と書かれている。
『あなた方は、これより、「イス取りゲーム」を執り行ってもらいます』
「い、イス取りゲーム?」
章弘が聞き返す。
『ええ。そこには今23脚の椅子が用意されています。その内の一つに腰掛けてください』
仮面男は、淡々と説明を始めた。
「これも、ゲームなんじゃない?」
祐輔が章弘に尋ねる。
「そうかもな。俺らだけが特別参加できる裏ゲームだったりして」
章弘は苦笑した。
『それではこれより、イスに座ってください。なお、制限時間は5分です』
かまわず男は説明を続ける。
「とりあえず、座る?」
祐輔はそう言い、一番近くにあったイスに座ろうとする。
「そうだな…」
章弘も同じようにイスに座る。鉄の冷たさがお尻を通して伝わる。すると、
「いてっ」
と言い、祐輔が飛び跳ねた。
「どうした?」
「いや、勝手にコインが弾けて…」
祐輔が困惑した顔をして言った。
『そうです。ここの部屋にはイスが23脚ありますが、そのうち22脚が「外れ」です。「外れ」に座った方は、5コイン失います』
というと、俺は「当たり」に座り、祐輔が「外れ」に座ったということか。
『なお、コインをすべて失った場合、罰を受けてもらいます』
「罰?」
『ええ。罰は、「死」です』
え?
章弘と祐輔は言葉を失った。