シンディ9
メイトレン家昼食会、当日。
「ようこそ、アーデルン夫人、ベーレン夫人」
母上が出迎えます。
「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます」
招待したのはご夫人二人だけ。
一人はアーデルン夫人。久しぶりに参加したあの社交会を主催していた貿易商夫人よ。
もう一人は……あの社交会で最初に嫌みな挨拶をかましてきたベーレン夫人。
でもね、シンディの確認から判明したことは、アーデルン夫人がベーレン夫人に指示していたそうなの。
久しぶりの顔出しの御人が来たら、話しかけるようにと。
貿易商たる情報収集能力ってことらしいわ。
私たちが社交日誌をしたためたようにね。アーデルン夫人もそこは余念なくってことみたい。
招待する方々を決めるときに、シンディから耳にして流石だと納得したわ。
ベーレン夫人はアーデルン夫人の子飼いの密偵……ってこと。メイトレン家のシンディのように。
あの嫌みも意味があったのね。
注力すべき御人かどうかの見極め。
昼食会招待に参加する旨の返事がきたときは、思わず歓喜したわ。アーデルン夫人がメイトレン家を認識し、興味を示したってことだから。
「先日はありがとうございます。ベーレン夫人のお声がけのおかげで、久しぶりの社交会にもかかわらず、遠巻きにされずに馴染むことができました。アーデルン夫人のご配慮のおかげです」
私リゼ、アーデルン夫人とベーレン夫人に深々と膝を折りましたの。
「素晴らしいわ」
そのひと言の返しで、全てをひっくるめている。
本当に社交って面白いわ。
「ささ、どうぞこちらへ」
母上が促しました。
さあ、昼食会の始まりです。
……あの『ラビラビ』の出番は、後ほど。
至って普通の昼食会です。
当たり障りのない会話を繰り広げただけ。
目玉ひとつも提供されずに、最後のティータイムに入りまして、アーデルン夫人もベーレン夫人もつまらなそうなお顔を隠すことなく、それはそれは期待はずれだったと物語っております。
「メイトレン夫人、私たちはそろそろ」
「はい。お見送り致しますわ」
母上も引き止めることなく、玄関へと。
『次』の約束もなく、互いに終始気の抜けた笑みで、アーデルン夫人とベーレン夫人はお暇しようとしています。
さあて、手土産をお渡ししなくては。
私リゼの出番です。
「本日はお越しいただきありがとうございました。ご覧の通り、調度品もない簡素なメイトレン家でご退屈だったかと存じます」
軽く会釈すると、シンディが手土産をトレーに乗せて横に並びました。
「こちらをどうぞ」
お二方に手土産をお渡しします。
特に何も期待していない感じで受け取っていただきました。だって、受け取ってすぐに随行侍女に渡したから。
手土産の話題に触れることなくね。
ですから、決め台詞を口にしますの。
「退屈な昼食会が、そちらをより一層引き立てましょう」
アーデルン夫人が手土産を一瞥し、私に視線を戻しました。
緩めていた表情が引き締まっております。
「そう……なるほどね。さっきまでが前菜ということかしら?」
私はただただ笑むだけでお応えしましたの。
そうして、メイトレン家全員でお二方をお見送り致しました。
さてさて、両ご夫人からその日のうちに御礼状が届きましてよ。
お茶会への招待状も入っておりましたわ。
リゼ、か・い・か・ん!
で、す、が、
「『シンデレラお披露目の会』?」
招待状にはシンデレラ同伴のこと、と記されておりました。
「それに、この招待状……リゼ姉様宛てよ」
シアが封筒を『ほら』と指差しました。
「そのようねえ、……えーっと、数名のお嬢さん方が集まるからリゼを指名したみたい。皆、シンデレラ同伴で、お披露目するからそのつもりで……ってことね」
母上が招待状を読みながら、大まかに説明したわ。
シアが母上から招待状を受け取って、確認する。
「『シンデレラお披露目の会』の意図って……」
シアがシンディを見る。
「召喚したシンデレラで競うのでしょう」
シンディがそれに応えたわ。
「俗にいうお披露目って……着飾ることよね。つまり……シンデレラを着飾らせて競う?」
シアの問いかけに、母上も私リゼも困惑しました。
現メイトレン家では、シンディを着飾らせる余力がないから。
それは、メイトレン家を訪問したアーデルン夫人もベーレン夫人もご存知のこと。
「もしくは、競わせる」
シンディがニヤッと笑います。
「要するに、挑戦状ですわね。調度品もない簡素なメイトレン家がどう驚かせてくれるのか、との期待を込めた。昼食会のように退屈をひっくり返してくれるでしょ? お題は『シンデレラお披露目』」