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シンディ7

 二カ月が経ったわ。


 母上は元家令のこともあって、帳簿と書類の点検に余念なく、見落としていた錬金の種をいくつか発見している。


 シアは二カ月間、屋敷を歩き回ったおかげで、わがままボディを卒業。柔らかさを残したままの小悪魔ボディになっている。


 そして、私は……(たばか)りボディ。


「あらあら、まあまあ」


 母上が私の努力の山頂を見て、頷いておられる。

 ん? 私の努力でなく、シンディの技よね。

 寄せて上げて……入れてーので、かさ増しして(小声風味)。


「『プロ』の技ってすごいわね、リゼ姉様」


 シアが感心したように言ったわ。

 そう……『プロ』の技よね。


 シンディの手で、母上も私もシアも余所行きに仕上げられているの。


 久しぶりのお出かけ。

 行き先は女の戦場。

 お存じの通り、社交場へ。


 社交から離れて、早二年以上になるわ。


 二年ほど前に、一時帰還した破天荒父上の作った借金のせいで、事業のほとんどを手放すことになっちゃって。

 ほんの数カ月で、またまた『一旗揚げてくるぞ』と出奔する父上は、元手が必要だからと資産をほぼ売っちゃって。


 私たちは残されたこの屋敷で、私財を売りながら細々と暮らすようになって、社交場には顔を出していなかったもの。


「ブランク二年以上よ。大丈夫かしら?」


 どんなに綺麗に仕立てても、流行(しんぴん)ひとつも身に着けていない。

 そんな出で立ちでは、社交場でどう言われるのか……もう想像できちゃうのよね、残念なことに。


「そうよね……」


 母上も苦笑い。


「私たち古本だものね」


 とシアも呟いた。


「古書の方が価値がある、場合も多いのでは? もしくは、流行り廃りに乗るよりも自己のスタイルを確立した方が際立つと思います。古かろうが新しかろうが、目立ってこその社交じゃないですか」


 シンディの揺るぎない言葉に、ウンウンと頷く。


「大丈夫です。メイトレン家社交プロデュースは、この私シンディにお任せを」


 シンディの『お任せを』には絶対的安心感があるのよね。

 母上もシアも同じみたい。

 不安げだった顔が上向いた。


「いざ、出陣ですわ!」


 シンディに見送られて、私たちは戦場へと出立致しましたの。

 レンタル馬車とレンタル御者でね。


 



 本日の社交場は婦人会。

 社交デビューした成人女性の集まり。

 貿易商のご夫人主催の会で、招待状はなくても参加可能。ただし、家名あり正装(ドレス)着用者のみ。

 月に一度開催される会になっているのよ。この町でもっともポピュラーな社交場。

 貿易商たる新商品のお披露目も兼ねているのよね。


「あら、まあ……お久しぶりですわね、メイトレン夫人。お嬢様ともども『お変わりなく』ていらっしゃるようで、何よりですわ」


 これぞ、社交って嫌味挨拶を受けたわ。

『お変わりなく』……以前と変わってない。以前と同じ出で立ちでお変わりなく、って嫌味。


「社交場の挨拶も流行り廃りなく、お変わりないようで安心しましたわね、母上」


 間髪入れずに返答しましたの。

 社交場の嫌味な挨拶は変わらないのね、と逆転返しよ。

 私だって、二カ月間社交特訓をしてきたのだもの。このくらいのことは対処できますの。


「オホホホ、血気盛んでいらっしゃる。若いってよろしいわね。メイトレン夫人への挨拶に横入りしてくるくらい元気なお嬢様ですこと」


「お褒めいただきありがとうございます。若い者になど眼中になく、お声がけや視線さえもくださらない方々もおられる中で、横並びで同じ土台に立っていただきお応えくださるなんて、お優しいのでございますのね」


『私たちは横並び、同等なのね』とお答えしたわ。

 悔しく歪み口元を、扇子で隠して『フン』と退いていったわ。

 反応すると、横並びを肯定しちゃうものね。

 何も返せないわけ。



 リゼ、すっごく……快感!



「リゼ姉様、『プロ』に習ったおかげですね。すごいわ!」


 シアが目を輝かせている。

 リゼ姉も、鼻高々よ。


「リゼ、頼もしかったわ。母は、ちょっとああいうのに慣れていなくて……」


 お優しい母上では確かに無理だわね。

 母上にできるのは、苦笑い愛想笑い。

 瞬時の応対って難しいもの。


 シンディが私に社交のお役目を指示した理由を実感したわ。

 母上は熟考の時間さえあれば、ちゃんと答えをまとめられるから、帳簿や書類整理が適任。

 シアは……これから実感するのかしらね? 確か、シンディは『隠し玉』って言っていた気がするわ。


 というわけで、つつがなく実践を終えて帰宅した私たちを、シンディが豪華料理で労ってくれたのよ。






 

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